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周りは「別れちゃえば」、医療現場も認識不足… 精神疾患の家族サポートが届かぬ理由

大塚玲子ライター
ラジオ出演時の蔭山正子先生(大阪大学大学院准教授)(写真提供:綾部小百合さん)

 配偶者が精神疾患になった妻や夫。親が精神疾患を発症している子どもたち。家族はどんな状況におかれているのか? 現状、なぜ支援が足りないのか? 『心病む夫と生きていく方法』などの著書がある蔭山正子先生(大阪大学大学院准教授)にお話を聞かせてもらいました。

*病院の家族サポートが不足する理由

――以前、親が離婚して統合失調症の母親と二人暮らしだった方を取材して、配偶者にもっと支援があればだいぶ違った人生だったかもしれないと思いました。配偶者への支援は、発症したご本人はもちろん、子どもにとっても、すごく重要ですね。

 そうですね。健康な配偶者がいるかいないかで、子どもの環境も当然大きく変わってきます。ひとり親で病気が重い場合、子どもは児童養護施設など社会的養護につながることが多いかなと思いますが、何とかサポートを入れてもらいたいですよね。

 病気の親と子どもだけの生活だと、世界が狭くなってしまうことがあります。親は人との関係も苦手ですし、症状として外に対する恐怖感や被害妄想もあったりするので、「外は危険だから、どこそこへ行くな」とか「誰々とは付き合うな」と言って、子どもの社会性を阻害することも出てきてしまう。本人はよかれと思って言うのですが、子どものほうはかなり苦しくなると思います。

――ますます孤立してしまいますね。

 そうなります。そもそも精神疾患というだけで、「人に言ってはいけない」と実際に言われたりするので。「自分の家のことを人にしゃべるな」と言われたら、近い関係をつくることって難しいですよね。たとえば子ども同士の会話で、「昨日は家族でどこそこのレストランに行ったんだ」といった話が出たとき、話を合わせるために嘘をつかなければいけないわけです。そういうふうだとあまり仲良くなれないし、人間関係を築くことに支障が出てくるのかなと思います。

――病院では、子どもや配偶者など、家族へのサポートはしないんですか?

 病院も、家族支援をしてほしいんですよ。病院はまず、診察室に本人しか入れなかったりして、家族に説明がないこともあります。病気になった本人が家族を悪く言うこともあるので、そちらの味方になって、なかなか配偶者の話を聞いてくれなかったり。一人の病気の人を支援するときに、その人には四六時中一緒にいる家族がいて、その人たちの生活に多大なる影響を及ぼしている、ということを医療者にまず理解していただいて、ご家族がソーシャルワーカーに相談できるようにするとか、それはすごくやっていただきたいです。

――そういうサポートは、現状まだ少ないのですか?

 そうですね。まず診療報酬が付かないといった問題もあると思いますし。理解ある先生もいて、そういう先生は診察のときに家族も同伴でお願いして、本人の話を聞いた後に「ご家族から見てご様子はどうですか」と聞いてくれたりします。本人の前で話せないこともあるので、たとえば受付の人を経由して手紙を渡してもらうとか、少し工夫してもらわないと難しい点はあるんですけれど。それをしていいぐらい、家族はすごく影響を受けていて大変なんだよ、ということを知って、ちゃんと配慮していただけるといいなとは思います。

――医療現場の方たちって、そんなに知らないんですか? こういった家族の状況を。

 知らない人が多いと思います。若い先生なら、違ってきているのかもしれないですけれど。もともと「家族の対応が悪いから再発する」という学問的な見方が強くあるんです。感情表出(Expressed Emotion)という研究がたくさんされてきて、そのなかで家族は悪者とまでは言いませんが、本人の回復を妨げる存在と見られている。それをベースに、いろんな治療法ができてきたところがあるので、医療者の見方というのは「家族は、ちゃんとやってるかな」みたいな感じになりがちなんだと思います。

――そういう背景があるんですね。ではまずお医者さんたちに現状を知ってもらわないと。

 ですから、こういう本で家族の生の声を出していくことがすごく大切だと思うんです。皆さん知らないので。私も最初は知らなかったですし。生の声を聞けるようにするには、まずそういう人たちが集まる場を作り、声を集め、それを本などにして外に出して知ってもらうということをやらないと、いろんな人に理解してもらうことは難しいのかなと思います。

*離婚するか悩む配偶者たち

――『心病む夫と生きていく方法』を読んでいると、「そんなにひどい暴言や暴力を受けるなら離婚したほうが…」というふうにも思ってしまいますが、他人のその言葉が配偶者をより苦しめる、ということも書かれていました。

 やっぱり、本来のその人の魅力があったから当人たちは結婚しているわけです。本のなかにも、病状がすごく良くなったら元に戻ったという人はいましたし。だから、周囲は「別れちゃえばいいじゃない」「別れなさい、別れなさい」と言うけれど、そんな簡単にはいかないものなんだなというのは私も思いました。

――この本を読んで寝たら、自分のパートナーに暴言を吐かれて別れるか悩む夢を見ました。「以前はあんなひどいことを言われたことはない」と思うと、簡単には別れられないものですね。

 配偶者である妻は、離婚するかどうか何度も考えながら生活しているんですけれど、物事を整理してしっかりと考える余裕がないんです。一人ではちょっと難しいので、本当は支援者やカウンセラーが付いて、今起きている問題がどうやったら解決するかとか、自分の気持ちを整理していくことが必要だと思うんですけれど。

 たとえば何かもやもやした感情があって、配偶者会に行けば他の人が怒っている姿を見て、「この感情は怒りだったんだ」と気付いたりする。でもそういう機会や時間がない人が多いので、余計苦しいし先が見えない。だから、そういう配偶者の人生について一緒に考えてくれるような、相談の受け方というものがあったらいいのかなとは思います。

――ただやはり、暴力がある場合など、子どもを連れて配偶者から離れたほうがよいケースもあると思いますが。

 いろいろ考えてやっぱり別れることにしたけれど、それでも夫とつながっていきたい、たとえば病気が悪くなって入院したりしたときはサポートしたい、とおっしゃっていた方もいました。

 はなから離婚すると決めて、配偶者会に来る人はいないと思うんです。来る人は、基本的には何とかしたいと思って、迷っている。だから、うしろ髪引かれる思いで別れることにしたけれど、それでもお互いにこれからもいい友人として付き合っていけたらいいな、と言われていて。それはそれで一つの形なのかなと思うんです。

 配偶者のインタビューでは、周りから「もうそれは別れちゃったらいいよ」と言われる話をよく聞きましたが、それは違うかなと。そう言いたかったら言ってもいいのかもしれないけれど、決めるのは自分なので。それはそれで、そういう形の家族のあり方というか。どんな形でも、自分が納得してればいいんじゃないのかなと思うんです。

――別れるにせよ一緒にいるにせよ、本人が納得できる選択を可能にするようなサポートが必要だということですね。

*病気になった当事者のためにも、家族支援を

――お話をうかがって、家族の困難な状況を、もっと広く知ってほしいと感じました。

 ただ難しいのは、家族がすごく大変だということを訴えると、病気の当事者さんにはつらいというところがあって。でも家族をサポートしてもらわないと、結果的にはその当事者さんの生活にも影響してきますし。当事者だけでなく、やはり家族だって人間ですから、それぞれの人生も大切にしてもらいたいです。だからそれに対して「そんなこと言うな」みたいな、口封じ的なことを言うのはやめてほしいというのは思いますね。

 あとは、子どもが大変だと言うと、病気の当事者さんに対して「だから子どもを生まなければいい」とか「育てられると思っているのか」みたいなことを言う人も本当にいるので。そうではなく「子どもは社会で育てていきましょう」というような大きな気持ち、器を持っていただきたいんですけれど。

――病気になった人を責めたいわけではなく、今みたいに何でも家族頼みの前提が無理だから、もっと社会的なサポートが必要だということが伝わるとよいのですが。ほかにも、必要だと感じる家族支援はありますか?

 あと、家族でも病気のご本人とのコミュニケーションは結構難しかったりすると思うので、夫婦や親子の間に入って代弁したり、意思疎通を補助してくれるような支援もあったらいいのかなと思います。病状が悪いときって、脳の機能が低下している状態で、なかなか言葉も出てこないし考えもまとまらない、ということがあるので。

――そういう補助は、例えばどんな人ができるでしょう?

 訪問看護の人とか。定期的にお家に行くし、家族の他のメンバーとも会ったりしますよね。ただ、そういう訪問看護自体がまだまだ足りないので。増えてきつつはあるんですけれど、もっと気軽にいろんな人が利用できるようになっていったらいいのかなと思います。

 それから配偶者の方って、公的なサービスや制度の知識もお持ちでない方が多いので、その部分ももっと知ってもらえるといいなと思います。「訪問看護が使えるよ」とか「それは自立支援医療という枠組みを使えるよ」「障害福祉サービスで家事援助もあるよ」といったことがわかると、家事の部分もちょっと軽減できたりするので。

――せっかくサービスがあっても、情報が届かないともったいないですね。ほかにも、必要な支援はありますか?

 それから、実は私も含めて、もう成人した子どもの立場の人のケアもすごく必要です。今リアルに年齢が低い子どもだけでなく、成人している彼女たち、彼らも、家庭を持ちたいというふうに思えないし自信もない。「ふつうの家族」も知らないなかで、もし子どもができたら子育てもしなければいけないわけです。

 「こどもぴあ」の存在意義は、そういうところにもあります。参加希望者が広がっているのは、それだけ今も後遺症のようなものに苦しんでいる人がたくさんいるということだと思うので。親が悪いとかそういったことではなく、事実として、その後遺症を引きずっているということがあります。

――精神疾患の親をもつ子どもの逆境的体験にも、後遺症のようなものが少なからずあるのですね。今回は、大事なお話をたくさん、ありがとうございました。

プロフィール

蔭山正子(かげやま・まさこ)

大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻公衆衛生看護学教室/准教授/保健師

大阪大学医療技術短期大学部看護学科、大阪府立公衆衛生専門学校を卒業。病院看護師を経験した後、東京大学医学部健康科学・看護学科3年次編入学。同大学大学院地域看護学分野で修士課程と博士課程を修了。保健所精神保健担当(児童相談所兼務あり)・保健センターでの保健師としての勤務、東京大学大学院地域看護学分野助教などを経て現職。主な研究テーマは、精神障がい者の家族支援・育児支援、保健師の支援技術。

ライター

主なテーマは「保護者と学校の関係(PTA等)」と「いろんな形の家族」。著書は『さよなら、理不尽PTA!』『ルポ 定形外家族』『PTAをけっこうラクにたのしくする本』『オトナ婚です、わたしたち』ほか。共著は『子どもの人権をまもるために』など。ひとり親。定形外かぞく(家族のダイバーシティ)代表。ohj@ニフティドットコム

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