ダービー馬ワグネリアン、短い生涯の至福の瞬間
ダービー馬の死因は胆石による多臓器不全
2018年に日本ダービーを制したワグネリアンが亡くなった。
ワグネリアンはまだ引退していない現役の競走馬で、入院先の栗東トレーニングセンター内にある診療所で1月5日に息を引き取った。享年7歳。
死因は胆石による多臓器不全。現役競走馬の死因としてはあまりきかない病名だ。しかし、これは単に報道で目立たないだけかと察する。競走馬は骨や筋肉、腱などの整形外科的な治療や心肺や呼吸器官のチェックが目立つだけで、胃炎を発症している馬もいる。勝負の世界で弱点をわざわざ公表する必要はない。
ワグネリアンは2015年2月10日に生を受けた。父はディープインパクト、母はミスアンコール。母の父はキングカメハメハ、母はブロードアピールと、金子真人オーナーが所有し、作り上げられた血統だ。自ら所有するディープインパクト、キングカメハメハの2頭の日本ダービー馬に、芝とダートの両方で重賞勝ちをおさめたブロードアピールを掛け合わせている。その血をたどるだけで良い思い出を味わえるという憧れの配合だった。
福永祐一騎手、そして福永家の悲願を叶えた馬
続く野路菊ステークス、東京スポーツ杯2歳S(GIII)を3連勝。特に3戦目の東京スポーツ杯2歳Sは2歳11月に日本ダービーと同じ東京競馬場で行われる重賞だ。
どの陣営も3歳春のクラシックに向けて、様々なことを試すが、友道厩舎は特にその傾向が強い。早い時期からクラシックへ向けての課題を消化させていくのだが、ワグネリアンがこのタイミングに東京コースの重賞を走ったのも日本ダービーを意識してのことだった。
が、しかし。3歳になり緒戦の弥生賞は 前をいくダノンプレミアムに届かずの2着。続く皐月賞ではダノンプレミアムが回避したこともあって1番人気に推されたが、前を行く馬たちをとらえきれずに7着に敗れた。いま思えば、ワグネリアンは広い東京コースのほうが合っており少々トリッキーな中山コースには向いていなかったとも考えられるが、当時、主戦の福永騎手は「ダノンプレミアムが回避して、多少強引な競馬をしても勝てると思ってしまった」と自らの過信を反省していた。
そして迎えた日本ダービー。福永騎手はこれまでの戦法とは一転し、先行策をとった。一般的に日本ダービーでは不利とされる8枠17番という極端な外枠からのスタートだったが、歯を食いしばるワグネリアンを促しながら先行集団にとりついたのだ。筆者はその騎乗ぶりには明らかな"覚悟"を感じた。
道中も好位をキープし、最後の直線で福永騎手は無心にワグネリアンを追った。ガムシャラさや派手なアクションはなく、実に冷静にリズムをとりながら追った。そして、父、母の父に2頭の日本ダービー馬の血を引くワグネリアンも必死に応え、一歩一歩と前をいく皐月賞馬らとの差を詰めた。そして、ワグネリアンが実にのびのびとクビを伸ばした先に、まだ誰も到達していない日本ダービーのゴールがあった。
■ワグネリアン、日本ダービー優勝後の至福の時(筆者作成)
■2018年日本ダービー(GI) 優勝馬ワグネリアン
この日本ダービー制覇は、ワグネリアンが父ディープインパクト、母の父キングカメハメハとともに同じ金子真人オーナーの愛馬として歴史に名を刻んだ。
福永祐一騎手は、19回目のチャレンジで晴れてダービージョッキーになった。父の福永洋一騎手は日本ダービーを優勝する前に志半ばで鞭を置かざるを得なかったため、福永家にはじめて日本ダービー制覇の朗報がもたらされた瞬間でもあった。
■ダービージョッキーが見た景色 〜福永 祐一〜 | JRA公式
日本ダービー制覇の後は、夏休み明けの神戸新聞杯を優勝。しかし、神戸新聞杯後の疲れがあったのと、菊花賞はもともと距離適性を不安視し回避する予定だったことから、無理せずに3歳秋は休養に入った。
その後はレース中の落鉄(2019年札幌記念)、喉の不具合などもあり勝ち星は得られなかったが、日本ダービーと同じ舞台である東京芝2400mで行われるジャパンカップで3着に入るなど、地道な競走生活を続けた。
胆石があったなら、闘病はさぞ辛かっただろう。ゆっくりと休んで欲しい。合掌。
■筆者 過去記事