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観光客激増でトイレ不足、ノルウェーの自然で排泄物が目立つ

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員
絶景の岩「プレーケストーレン」は人気の観光スポットに(写真:アフロ)

ノルウェー観光の魅力といえばフィヨルドやオーロラなどの美しい自然だ。最近では、ノルウェーの絶景スポットを車でドライブする人や登山客も増えた。

一方で、予想以上の観光客の増加に地元の人々が困惑している。トイレ、ゴミ捨て場、宿泊施設が足りないのだ。

このような事態が各地で発生している原因には、ノルウェーならではのカルチャーも関係している。

「なんとかなる」という考え方

「なんとかなるだろう」と、後先や最悪のパターンを考えずに、まず動きだすのがノルウェー人だ。問題は起きてから対策を考える。今回の件は「なんとかなっていない」のが現状だ。

「自然享受権」があるため国会からの許可が必要

ノルウェーには「自然享受権」という法律がある。「自然はみんなのもの」という考え方なのだが、つまり商業的な行いを嫌い、自然の景観を壊すような人の手は加えたがらない。絶景の岩「トロルの舌」に柵などがないのは、このような背景が関係している。

「自然享受権」の考え方がほかに意味するものは、自然を楽しもうという人々から「お金をとる」ことに対する抵抗感だ。トイレ増設などには「観光税」を導入するという議論がされているが、国会にはまだ拒否反応をする議員がいる。

トイレが足りない、掃除のスピードが間に合わない

ノルウェー国道庁などは、数年前から自然と建築デザインを楽しめる美しい国道ルートを国際的にPRしている。だが、今各地でトイレが足りず、掃除が間に合わずにトイレがクローズする事態が発生している(国営放送局NRK)。

「こんなにたくさんの人が来るとは思わなかった」

「こんなにたくさんの観光客が来るとは思わなかった」、「計画不足だった」とソグン地域のブランスハウグ観光ディレクターや国道庁の広報リッツレル氏はNRKに語る。

結果、周囲に排泄物とトイレットペーパーが溢れるという状態が各地で報告されている。トイレがなくて困った観光客が、地元の人の家の裏で用を足すこともある(NRK)。

野宿する外国人が、有料施設のトイレやシャワーを無料で勝手に使おうとする

ノルウェーの絶景の岩「プレーケストーレン」。最も美しいフィヨルドのひとつとされるリーセフィヨルドから、往復4時間ほどの登山でアクセス可能だ。

「トロルの舌」と同様に、プレーケストーレンを求めて、美しい風景写真を撮ろうと、世界中から観光客が訪れる。

このような場所では、アウトドアに慣れた外国人観光客がテントを持参し、周辺に野宿することも多い。

有料の宿泊施設周辺にテントを張り、無料でシャワーやトイレを使おうとする外国人が増えてきたと、27日付のNRKで報道されている。

施設スタッフはテントの所有者に対して、その場を立ち去るように丁寧にお願いするそうだ。

現場では、指定の場所に有料でテントを張ってもらい、その人たちにトイレやシャワーを提供するという対策も検討。しかし、「すでに物価が高いノルウェーで、外国人はお金を払ってくれるだろうか?」と不安のようだ。

ノルウェーの自然観光においては、「非常識な外国人」に非があるかのような報道が多い。だが、「大自然を体験しにきてください」と観光PRをしておきながら、増加する人間の数に比例してトイレなどを用意していない側にも責任はあるのではないだろうか。

Text: Asaki Abumi

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信15年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。ノルウェー国際報道協会 理事会役員。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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