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トラブル続出「トロルの舌」で警備員が初待機 登山者は過去最高を記録、ノルウェー絶景

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員
登山者のために「山の番人」が送り込まれる Photo: Asaki Abumi

ノルウェーの絶景の岩場「トロルの舌」(Trolltunga)。今年の登山者は12~15万人におよぶと推測されている。昨年は1日で1800人の登山者を記録したが、今年7月19日、1日の登山者は1839人と記録を塗り替えたことを地元のオッダ村は発表。

一方、押し寄せる夏のセルフィー観光客が準備不足で下山できなくなるケースも増えており、地元の人々は頭を抱えている。

現地の救助隊は警察ではなく、山を良く知るノルウェー赤十字社のボランティアスタッフ。しかし、外国人観光客のための出動が限界を超えはじめている。昨年の出動回数は40回を超える。費用を負担するのは登山者ではなく、現地のノルウェーの人々だ。

トロルの舌は「みんなの自然」というノルウェーの考え方から、そこで起きる事故や危険な撮影行為の結果は自己責任であり、これまで見張り番などはいなかった。

だが、準備不足の観光客が最悪な状態に達する前に、途中でサポートができれば、救助隊が山の下から出動する可能性を減らすことができる。

トラブル増加が予想される今年の新たな対策として、警備員=「山の番人」を初めて派遣することを地元のオッダは発表。道の途中に「セイフティ・キャビン」という小屋が2か所に設置される。小屋のひとつは無人で自由に利用でき、もうひとつの小屋には常に警備員が1人待機。

小屋は二か所、赤丸がついた小屋に警備員がいるPhoto:Visit Norway
小屋は二か所、赤丸がついた小屋に警備員がいるPhoto:Visit Norway

この小屋は試験的に昨年から設置されていたが、常に無人の状態で、どうしても休憩が必要な登山者に利用されていた。昨年の取り組みから小屋の効果が証明され、登山者対策のために国から予算もおりた。今年はオッダ村の支援で、登山ツアーを組んでいた地元のTrolltunga Active社と赤十字社が警備員を交代で受け持つ。

登山者用の緊急小屋 Photo: Rolf Boen, Odda kommune
登山者用の緊急小屋 Photo: Rolf Boen, Odda kommune
別名「サバイバル・キャビン」Photo:Rolf Boen, Odda kommune
別名「サバイバル・キャビン」Photo:Rolf Boen, Odda kommune

ハダンゲルフィヨルド観光局 のハンス・ヨルゲン・アンデルセンさんによると、「警備員が必要という考えに至った目的は、地元の救助隊の負担を減らすためです。これまでのケースでは、助けを必要とする人々の多くは、激しく疲労していました。薬による治療ではなく、ちょっとした食糧や水、身体をあたため、休憩し、眠ることができる場所を必要としていました。しかし、その時点で警察に電話がかかり、救助隊が山へ向かうとしても、彼らを探して助けるまでに労力と時間を要します。赤十字社のスタッフにとっては、あまりにも過酷なタスクとなりつつありました。7月7日以降に小屋に警備員を配置して以降、赤十字社は出動していません」。

警備員用の仮設小屋 Photo: Rolf Boen, Odda kommune
警備員用の仮設小屋 Photo: Rolf Boen, Odda kommune

小屋では疲労状態の登山者のためにチョコレートや飲み物を提供。大掛かりな救助にならない限りは利用費は無料だ。小屋で休憩すれば、自力で下山できる人も増える。

有人でのセイフティ・キャビンは今年初めての使用となるため、試験的に9月末までの運営が予定されている。キャビンがあるのは道のりの途中で、目的地となるトロルの舌には専門スタッフはいない。

Text:Asaki Abumi

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信15年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。ノルウェー国際報道協会 理事会役員。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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