大気不安定と気象庁が発表する雷ナウキャスト等の雷に関する情報、雷鳴が聞こえたらすぐに安全な場所へ移動
上空に寒気
日本の上空約5500メートルには、氷点下18度以下という、この時季としては強い寒気が南下しています(図1)。
令和6年(2024年)6月3日9時の予想天気図には、日本海には、上空に寒気が入っていることを示す小さな低気圧があります。
このため、4日の東日本から東北地方は、前日に引き続き、大気が不安定となって雷が発生する確率が高くなっています(図2)。
落雷や竜巻などの激しい突風、降ひょう、急な強い雨に注意してください。
雷鳴が聞こえた時点で、いつ落雷してもおかしくない状態です。
雷鳴が聞こえたということは、雷雲が少なくとも10キロから20キロ先まで近づいていることを意味します。落雷の範囲が雷雲から10数キロのこともあるということを考えると、雷鳴が聞こえた時点で、いつ落雷してもおかしくない状態となっています。
雷鳴が聞こえたら、雨が降っている降っていないにかかわらず、直ちに屋内の安全な場所に避難してください。「雷鳴はまだ遠い」と考えるのは危険です。
「雷三日」という諺があります。雷がなるときは、三日ほど続くという意味です。
上空に寒気が入っているときは、その寒気の動きが遅いことから、大気が不安定な状態は3日ほど続きますので、理にかなったことわざです。
宮崎市で予兆がなかった落雷事故
令和6年(2024年)4月3日は、前線を伴った低気圧が対馬海峡を通過し、前線に向かって暖湿気流が流れ込み、九州では大気の状態が非常に不安定となりました。
鹿児島地方気象台の情報や、宮崎地方気象台の雷注意報は何回も更新されましたが、宮崎市にある鵬翔高等学校のサッカー場で14時35分頃に落雷があり、遠征にきていた熊本県の鹿本高校のサッカー部員18名が病院に運ばれており、このうち2人が重傷となっています。
当時、宮崎県内外の16チームが集まり、午前中から試合が行われており、鹿本高校の生徒が集まってウォーミングアップをしていました。人が集まっていた所への落雷であり、一つの雷としては多数の被害者がでました。
雷が発生すると、電磁波が発生しますが、雲放電と対地放電では、この電磁波の特徴が異なっています。気象庁では、全国30ヵ所の空港に検知局を設置し、ライデン(LIDEN:LIghtning DEtection Network system)と呼ぶ雷監視システムで、中央処理局において電磁波の分析をし、雷に関する情報を作成しています。
このライデンによると、14時00分に雷が発生しているのは、強い雨が降っている熊本県南部から宮崎県北部にのびる細長い雨域の所です(図3)。
また、鹿児島市付近から宮崎市付近の細長い雨域では、西端の鹿児島市付近で雷が発生していました。その30分後、落雷事故の時は、鹿児島市付近では発雷しておらず、発雷したのは東端の宮崎市付近でした。
九州南部は雷雲が発達しやすい場になっており、約90km離れている鹿児島市付近の雷雲が30分で(時速180kmで)宮崎市付近にやってきたのではありません。
宮崎地方気象台は、4月3日に26回の雷を観測しています(表)。
鹿児島市付近にあった雷雲は接近したといっても、まだ離れており(表の20回目)、これとは別に宮崎市付近で雷雲が急発達したのです(表の21回目)。
このため、鹿児島市付近の雷の動きだけに注目していると、急に雷になったという印象を受けます。
気象庁が発表する気象情報には、警報や注意報に先立つ注意の喚起と、警報や注意報の発表中に現象の経過・予想・防災の留意点の解説という2つの目的があります。
雷の場合は前者で、雷発生の可能性がある場合は、半日程度前から気象情報を発表しています。また、天気予報が1日3回(5時、11時、17時)に発表されますが、雷の可能性がある場合は、この天気予報の中に、「大気の状態が不安定」「雷を伴う」というキーワードが入っています。
そして雷が発生する数時間前には、雷注意報が随時発表となります。
さらに、雷の激しさや雷の可能性を1km格子単位で解析し、その1時間先まで予測を行う雷ナウキャストというものもあります。雷の発生領域を、活動度で表現しています。
雷ナウキャストが利用者に伝達されるまでに30分から1時間かかることを考えると、雷ナウキャストを受け取った利用者は、その時点における気象状態として利用できます。雷ナウキャストは、解析は雷放電の検知やレーダー観測を基に行い、予測は、雷雲の移動方向や雷雲の盛衰の傾向を考慮して行われます。
落雷事故当時の雷ナウキャストでは、宮崎県南部にほぼ東西にのびる活動度2の領域があり、その中に活動度3の領域が点在していました(図4)。
気象庁の発表する各種情報に注意し、警戒してください。
平年並みの暑さ
令和6年(2024年)6月2日に最高気温が30度以上の真夏日を観測したのが全国4地点(気温を観測している904地点の約0.4パーセント)、25度以上の夏日を観測したのが171地点(約19パーセント)でした(図5)。
ゴールデンウィークの頃に、全国の約半数が夏日となるなど、季節外れの暑さがあったのですが、このときに比べれば半減です。
6月4日、5日も、夏日の観測地点数は大きく増えませんが、これでほぼ平年並みです。
今年のゴールデンウィークの頃が、季節外れに暑かっただけです。
とはいえ、これから夏に向かいます。すでに、暑さや湿度に注意が必要な季節に入っています。
図1、図2の出典:ウェザーマップ提供。
図3、図5の出典:ウェザーマップ提供資料をもとに筆者作成。
図4の出典:気象庁ホームページ
表の出典:気象庁ホームページをもとに筆者作成。