山本太郎は なぜ人々の心をつかむのか? 広場を埋め尽くす熱気は投票につながるか?
「やっぱり山本太郎はすごいな。集まっている人たちがいつもの支持者と全然違う」
これは共産党関係者が街頭演説会場で漏らした言葉。19日午後4時すぎ。参院選神奈川選挙区から立候補している共産党のあさか由香のところに、党派を超えてれいわ新選組の山本太郎が応援に駆けつけた。その姿を一目見ようとあたりを埋め尽くした人々の姿を見て、いつもの共産党支持者ではない人々が集まっていると感激したのだ。
集まっている人の多くは、おそらくは特定の支持政党を持たない、いわゆる無党派の人々。決まった政党を支持するのではなく、選挙のたびに投票先を変えるか、あるいはそもそも投票に行かない。この人たちの支持を得られないと当選はおぼつかない。その人たちを引きつけることができるのが、山本太郎の“引力”なのだろう。
太郎があさかの応援に駆けつけたワケ
山本太郎があさか由香の応援に駆けつけたのは、実は大阪でのできごとがきっかけだった。
11日、山本太郎は大阪で共産党のたつみコータローの応援演説をしている。そこで太郎はたつみコータローを絶賛した。
「たつみコータローさん、絶対に国会に戻さんとダメですよ」
「私とたつみコータローさん、13年の参議院選挙で国会に送って頂いた、いわば同期。その同期の中でも図抜けた知能才能を持った方だと思ってます。たつみコータローさんは参議院のエース、日本の宝!」
私はこの時のことを「タローがコータローを応援」という形でYahoo!ニュースの記事にした。その記事を目にした、あさかを応援している市民が、山本太郎ともつながりがあったことから、「コータローさんの応援に行ったのなら、ぜひあさかさんの応援にも!」と猛プッシュ。共産党にも話を持ち込んで、この応援演説が実現したという。太郎もずいぶん粋な判断をするものだ。
あさかの応援で山本太郎が語ったこと
山本太郎は演説の冒頭で聴衆にたずねた。
「まだ選挙には行ってないよ、投票行ってないという方、どれくらいいらっしゃいますか?」
かなりの数の手が上がる。やはり支持政党のない無党派の人が多いからだろう。すると太郎は、
「おお~っ、票田が転がってるじゃないか、ここには!」と、笑いを取ったところで口調を変えた。
「皆さんにお願いがあるんですよ。ほんっとうにお願いします。今、あまりにも政治がひどすぎるんですよ。6年間、山本太郎ね、国会の中にいたんです。参議院最前列でその政治を見てきた、参加してきた。やられてきたことの数々は、はっきり言って皆さんを踏みつけることの連続です。皆さんを搾り取って踏みつけて、そこから得られた利益を、企業側に流していくことしかやってませんよ。この6年間、皆さんの生活のこととか、皆さんの権利のことっていうのは、ほぼ、前に進んでいない。逆に後退してるんです。もう明らかなんです。今の政治勢力のままでは、あなたの首はより絞まっていくしかないんですね。これを作ったのは誰だってことですよ。政治ですよ!」
「景気回復この道しかないと言いながら、やってることは真逆。この国の屋台骨を壊し続け、搾り取り、踏みつけ、大企業に対するご恩返ししかしてないのが今の政治じゃないですか?」
ここから演説は具体的なお願いに移る。
「まだ選挙に行かれていないという方、ぜひ、ぜひ、ぜひお願いしたいんですよ。何か?1枚目の投票用紙(選挙区)にはこの人、どうぞこちらへ(と言ってあさかを壇上に引き上げる)この人しかいないんですよ。あさか由香さん。絶対間違いないから。この人に(国会へ)行ってもらわんと困るんですよ」
「止めて!今の政治の暴走を止めて!それを止められるのは皆さんしかいないんですよ。1枚目の投票用紙、選挙区には、この人の名前を絶対に書いてほしい。あ、さ、か、由、香。あ、さ、か、由、香。この人しかいないんですよ!」
家族を事故で亡くした体験、SEとして知った過重労働
山本太郎がイチオシしたあさかは、共産党の候補としてはかなり異色の存在だ。応援者の中に、特定の支持政党を持たない無党派の人々がかなり多いのだ。この街頭演説で司会を務めたのも無所属の市議会議員。ほかにも無所属の議員が何人も参加。演説会場でチラシを配ったりするボランティアにも共産党員ではない人が少なくない。
あさかは横浜市出身の39歳。夫と2児との4人家族だ。大学時代、アメリカ留学中に、遊びに来た家族と交通事故に遭い、母親ときょうだい2人を一度に失った。その苦しみにもがく中で、命を大切にする社会を築きたいと願うようになったという。就職しシステムエンジニアとして働く中で、長時間過重労働の問題にも気づいた。
選挙では「8時間働けばふつうに暮らせる社会へ」というスローガンを掲げる。これは帰宅の遅い父親と同時に、いやそれ以上に、長時間労働できないことで差別され、一人で育児を担う母親に向けたメッセージだという。
この日の演説では次のように訴えた。
「8時間働いて普通に暮らせると訴えると、皆さん普通に大変反応するんですよ。それって私たちの暮らしがいかに『普通』とかけ離れてしまっているかということなんです」
「4才と7才の子どもがいて、政治活動をしているのは、政治で救える人がいるからです。政治で守れる命があるからです」
れいわの学会員候補、野原ヨシマサに創価学会の三色旗を振る人たち
横浜駅前であさか由香への応援演説を終えた山本太郎は、あわただしく次の会場へ向かった。新橋駅前のSL広場だ。ここで午後5時から「れいわ祭2」が開かれる。れいわ新選組の候補10人が全員そろい踏みだ。会場は太郎が現れる前から大勢の人たちが集まっていた。その数は増える一方だ。れいわの候補が次々に登壇して支持を訴える。
その中に、れいわ新選組からただ一人、東京選挙区に立候補している野原ヨシマサもいた。野原は現役の創価学会員。長年、沖縄で活動してきたが、安保法制や辺野古の基地問題などで、創価学会が支持する公明党の動きに納得がいかず、今回、公明党の山口那津男代表も立候補している東京選挙区からあえて立候補した。
野原の名を記したのぼりの周囲で、創価学会の三色旗を盛んに振っている人が何人もいた。彼らも創価学会の関係者だろう。それでも野原ヨシマサを支持するという意思表示なのだろう。
「れいわ祭2」で新橋駅SL広場を埋め尽くした人々の熱気
そしていよいよ山本太郎の登場だ。SL広場は立錐の余地もないほど人々で埋め尽くされている。れいわの赤いうちわを一生懸命に降る人。スマホで姿をおさめようとする人。会場から上がる「太郎、太郎、太郎~」という連呼の中、壇上に上がった山本太郎は第一声で、「太郎は太郎でも、麻生太郎ではございません。国会の野良犬、山本太郎でございます」 どっと沸き起こる拍手と歓声。一気に聴衆の関心を引きつけて語りかける。
「4月の10日に旗揚げをしたれいわ新選組、最初1人でした。そこから今や、山本太郎含め10人の仲間たちと一緒にこの選挙戦を戦うことになった。普通に選挙を戦おうと思ったら、お金かかります。選挙区に1人立てるのに入場料だけで300万円。比例代表を立てるためには10人の仲間を擁立しなければならない。今回、れいわ新選組は、山本太郎含め9人の比例代表、そして1人の東京選挙区から、合わせて10人で戦ってる。比例代表1人立てるのに入場料600万円。新規参入お断り。政治やりたくてもお金がなければ到底無理。そんなことが設けられてる。既得権なんですよ。『俺たちの縄張りに入ってくるな。入ってくるんだったら、金あるんだろうな』っていう態度で、いつもやってる。そこに対して、旗揚げをして、皆さんに『自分のできる範囲で結構です、無理はしない範囲でご寄附いただけませんか?』。そのようなことで3億7000万円のご寄附をいただきました。ありがとうございます。皆さんのおかげです。皆さんのおかげで、この選挙戦を戦えてます。本当にありがとうございます」
「山本太郎、比例代表からの立候補。全国のどこにお住まいの方でも、2枚目の投票用紙(比例代表)には、山本太郎、山本太郎と書いていただけます。どうかお力貸してくれませんか?」
そして、皆さん1人だけの1票では勝てない、より多くの方に支持を広げて頂きたい、創価学会のフレンド票のように、と呼びかけて、こう訴えた。
「皆さんの携帯電話の電話帳、『あ』から『わ』まで、全部電話して、山本太郎をよろしくと伝えて下さい。お願いします」
山本太郎が巻き起こす熱気は投票につながるか?
山本太郎は間違いなく多くの人々を引きつけ、動かしている。そうでなければこの熱気はない。
そこに集まるのは、支持政党を持たない無党派の人はもちろん、これまで別の政党を支持してきた人々も含まれるのかもしれない。少なくとも公明党の支持者はいたようだし、自民党の支持者だっていてもおかしくはない。そこまで党派を超えて人々を動かせるのが山本太郎の魅力だろう。
だが、人々が集まり、熱気に包まれるだけでは、選挙には勝てない。実際に投票所に足を運び、投票用紙に名前を書いてもらわないと。選挙を左右するのは無党派の人々の動向と言われる。
山本太郎は、広場を熱気に包んだ人々や、広場に来られなかった無党派の人々にも、投票所に向かってもらうことができるのか? 投票してもらうことができるのか? その答えは、すぐにわかる。きょう21日の投開票日に。
(敬称略)【執筆・相澤冬樹】
山本太郎さんの演説を聞きたい方はこちら。れいわ新選組 公式アカウントより。