ヤマハはYZF-R1生誕20周年記念カラーで鈴鹿8耐・四連覇へ!鉄壁の優勝トリオの手応え。
「コカ・コーラ鈴鹿8時間耐久ロードレース第41回大会」(以下、鈴鹿8耐)に向けた最後の準備となる公開合同テストが7月10日〜12日に鈴鹿サーキット(三重県)で開催され、三連覇中の「#21 YAMAHA FACTORY RACING TEAM」が2分6秒273の総合トップタイムをマークし、テストを終えた。
赤と白のカラーリングで走る
全日本ロードレース選手権・JSB1000で目下7レース中6勝をあげ、絶好調のヤマハ。その勢いは鈴鹿8耐でも変わらない。公開合同テストで2分6秒273を記録したのは全日本のエース、中須賀克行だ。
今季から鈴鹿8耐がシリーズ戦に組み込まれている「FIM世界耐久選手権」(EWC)でもタイヤのホイールサイズが17インチに変更になったが、一足先に17インチ化された昨年の全日本JSB1000での不振がまるで嘘のように、中須賀は今季の全日本開幕戦から6勝を飾る素晴らしい走りを展開している。もう誰も止められない勢いが戻ってきた。
全日本JSB1000にはヤマハの近年のイメージカラーである「ヤマハレーシングブルー」を纏った青いカラーリングを使用する「YAMAHA FACTORY RACING TEAM」。真夏の祭典、鈴鹿8耐ではYZF-R1の生誕20周年にちなみ、YZF-R1初代のイメージカラーである白地に赤のカラーリングで参戦する。白赤のカラースキームは元々1950年代にヤマハがグランプリレース(ロードレース世界選手権)に参戦した頃からの伝統であり、1998年に排気量約1000ccの大型スポーツバイクとしてヤマハYZF-R1が発売になった時もメインのイメージカラーとして選ばれた。20年前にYZF-R1の登場にワクワクしたバイクファンも当時から鈴鹿8耐を見ているファンには懐かしさを感じる配色であり、青いヤマハが定着した昨今では逆に新鮮に感じてしまうデザインになっている。
カラーリングのイメージは変わるが、ライダーラインナップには変更がなく、中須賀克行、アレックス・ロウズ、マイケル・ファンデルマークの昨年優勝トリオによる戦いだ。
勝つ術を知っているヤマハ
ヤマハワークス「YAMAHA FACTORY RACING TEAM」の吉川和多留・監督が「申し訳ないが、あと3、4年は勝たせてもらう」と表彰台で発言したのは現行型YZF-R1で鈴鹿8耐を連覇した2016年のこと。初年度の2015年は燃費が優れず、どうしても1回余分なピットインが必要だった先代モデルのイメージを完全に覆し、決勝レースで速さと燃費効率の良さを強烈にアピールする走りで勝利した。それ以来、鈴鹿8耐でヤマハを脅かす存在は現れていない。吉川監督が語った言葉は年々、現実に近づきつつある。
現行型YZF-R1の速さはもちろんだが、ヤマハワークスの強みはやはりチームワークにあると感じる。レース部隊だけでなく、ヤマハ発動機の開発部隊や手伝う同社の社員を含め、非常に統率の取れた組織が出来上がっており、優勝という目標に向かって自分の職務を全うしている印象だ。特にテスト後の撤収の早さもピカイチで、連携プレーであっという間に片付けて、磐田市(静岡県)の拠点へと帰っていく。単にピットクルーの作業の速さだけでなく、こういうところからもヤマハのチーム力は現代の鈴鹿8耐において強い武器になっていると感じさせられるのだ。
組織が強固ならば、あとは仕事の精度を高めていくことにエネルギーが注がれる。誰も手がつけられない速さで連覇した2016年は218周で優勝。2017年はそれ以上の219周での優勝を目標にしたが、2度のセーフティカー導入で目標周回数には届かなかった。今年も当然、それを狙っていく。そのために最適を探して弾き出した答えが3人のライダーラインナップを変えなかったことにあるのだろう。
「今年の開幕戦からオートポリス以外は全て勝つことができているので、仕上がりは上出来ですし、手応えは感じているところです。目標周回数の達成のためにはトラブルを無くすことが大前提。しっかり準備をしていきたい」と中須賀は自信を見せる。
またロウズが「今年の17インチタイヤとのマッチングはポジティブに感じている」と語れば、ファンデルマークも「マシンは向上していると感じるし、去年16.5インチタイヤのマシンに乗った経験から言えば、今年のマシンは乗りやすいよ」と同調する。
そんな外国人ライダー2人と中須賀の相性は昨年のレースを見ても分かる通り抜群で「アレックスもマイケルもライディングポジションを合わせて乗ってくれているし、我慢してもらっているところがあります」と中須賀。昨年同様、中須賀のマシンに2人が乗り、その上でマシンのポテンシャルを引き出す3人の協力体制は変わらない。今季、ロウズもファンデルマークもスーパーバイク世界選手権に勝利しているが、このチームに呼ばれたからにはエゴを見せずにチームプレーに徹している。
ヤマハにライバルは居ないのか?
今季はホンダがワークス体制で「Red Bull Honda with 日本郵便」(Team HRC)を参戦させるほか、カワサキは「Kawasaki Team Green」にスーパーバイク世界選手権王者のジョナサン・レイを招聘するなど、ヤマハにとってはライバルの動向も気になるところだ。
「正直、他のチームやライダーのことは気にしていない。それより去年よりもライディングを改善できることにフォーカスを当てているんだ。ベストを尽くすことに集中だね」とロウズ。「確かに近年では最も速いライダーが来ているとは感じるけど、鈴鹿8耐はフィニッシュしなければ意味がないから、3人の安定したペースが勝利につながっていくと思う」とファンデルマークも冷静だ。
中須賀も「他のメーカーさんがどういうライダーを連れてこようが、僕ら3人の相性はとても良い。トータルバランスとしては負けていない。ミスをしないようにしないといけないですし、去年と同じことをやるにしてもそれが一番難しい。それぞれが100%を出していくことに集中していきたい」と敵よりも自分たちのことに主眼を置いていることを強調する。
ベストタイムだけを見てみれば、ヤマハがターゲットにしている2分6秒台のペースに入れてきているライバルはカワサキだけ。3人が2分6秒台に入れる仕上がりになっているのはヤマハだけであるし、ヤマハが持つマージンは依然大きいと考えられる。
自分たちの役割に集中するという姿勢の中須賀の言葉で印象的だったのは「バイクのポテンシャルも力を出し切っているから、これ以上のことは無いと思うんです。だからこそ120を狙っていくのではなく100を出せるようにやるのが大事だと思う」ということ。三連覇をしているマシンの進化を緩めたというよりは、現行モデルの性能はすでに最大限に引き出し済みなのだから、年々精度を高めて行って、さらに良いレースをしようというのがヤマハの鈴鹿8耐に対する唯一の作戦なのだろう。
ピットに入るたびにパテーションでワークスマシンの中身を隠すホンダに対し、シャッターを開けたまま誰もが中身を見ることができる状態でカウルを外すヤマハ。吉川和多留・監督が表彰台で語った言葉は単に優勝の喜びから出たものではなかったことが分かってくる。ヤマハは4年間、国内と世界最速の耐久レースでトップに君臨することができる「YZF-R1」という史上最強のスーパーバイクを作ったということだ。