「おかえりモネ」百音と小学生があわや遭難 山の天気なぜ変わりやすい?
防災にも役だつドラマ
令和3年(2021年)5月17日から、NHKの朝ドラ「おかえりモネ」が始まりました。
現在は、モネと呼ばれている主人公の永浦百音が、生まれ育った宮城県気仙沼市を離れ、宮城県登米市の森林組合で働き始めるというところまでドラマは進んでいます。
この「おかえりモネ」は、百音が平成7年(1995年)9月に実際に関東地方に接近した台風12号の中で誕生するなど、少しデフォルメしていますが実際におきた自然現象を使っているほか、防災上の知識もふんだんに盛り込まれているので、実際の生活に役だつことも多いと思います。
第2週の放送では、林間学校の植樹体験後、斜面から落ちたときに足をくじいた小学生と一緒にモネが山で雷雨にあい、遭難する場面が描かれました。
山の中での雨は真上から降るというより、斜めや真横から降ったりしますが、その降り方も含め、山の天気が急変する様子はとてもリアルに再現されていました。
なぜ山の天気は変わりやすいのか?
ドラマにあるように、山の天気は平地の天気に比べて変わりやすく、雷雨が発生しやすいという特徴があります。
これは、山では上昇気流が発生しやすく、平地より雲が発生・発達しやすいからです。
理由は2つあり、1つは山の斜面に風がぶつかると、風は強制的に山の斜面を吹き上がることです。
もう1つは、晴れた日は、太陽の熱によって山肌が温められると、同じ高度の空気に比べ、山に接した空気のほうがより暖かくなって上昇気流が作り出されることです。
空気中に水蒸気が多く含まれている場合は、上昇気流によって雲は大きく発達して強い雨や雷雨を降らせる可能性が高くなります。
モネが、朝岡覚気象予報士に電話し、雷雨の見通しや避難の方法について聞いたとき、朝岡気象予報士は、「1分待ってください。こちらで調べます」と言って、アメダスなどの細かい観測値を使った細かい天気予報を調べています。
そして、アドバイスは「風向が変わり雨足が弱くなったときに避難小屋へ移動。よく風の音を聞いて」でした。
山で遭難したときは避難小屋にゆくのが一番ですが、すぐにではなく、安全を確認してからです。
雷が鳴っていたり、強い雨が降っているなど、荒れているときの避難は、かえって危険です。
雷が止み、雨が弱まっても、風向が変わっていなければ、雷雲が完全には通過しておらず、再度落雷の可能性がありますので、このときの移動も危険です。
「雷雲が通過したことを確認してから移動する」ということを、パニックになりかかっているモネにどう伝えるか、朝岡気象予報士は「風の音」を使っています。
さすがスーパー気象予報士と思いました。
強く吹く風は、木々に当たると渦が発生したり、消滅することで音が生じますが、これが「風の音」です。
「風の音」は、木々にどのように風が当たるかで変わります。
森の中では風がどちらから吹いているのかわかりにくいのですが、「風の音」が変わったときは、風向が変化したときです。
「風の音」が変わったときは雷雲が通過したときで、次の雷雲がくるまでの間に移動というアドバイスはわかりやすいと思いました。
また、「風向が変わったときに避難する」というアドバイスは、雷雲が過ぎ去るまでは動くなという適切なアドバイスを含んでいます。
日が暮れると山での移動は、がけ下への転落などの危険を伴います。
また、気温がどんどん下がってきます。
標高が高くなると気温が低くなりますが、低くなる割合は、大気が湿っている場合のほうが小さくなり、平均的には、100メートルにつき0.6度の低下です(図)。
5月といっても、米山(登米)の最低気温の平均は10.0度ですが、これまでの5月の最低気温の記録は平成22年(2010年)の2.2度です。
モネが遭難した日時や標高は不詳ですが、平成26年(2014年)5月の米山(登米)の最低気温は、5月6日が4.8度、8日が5.2度などとなっています。
仮に、標高500メートルで遭難したとすると、日が暮れてくると、米山(登米)での観測値より3度引いた、2から3度まで下がる可能性があります。
春といっても、凍える寒さです。
春でも山は真冬なみ 実際に山で遭難してしまったら?
山で一番怖いのは雷雨にあったときです。
そのときは、安全を確認し、すみやかに避難小屋に移動することが大事です。
すぐに避難小屋までゆくことができない場合は、ドラマでも朝岡覚気象予報士などがアドバイスしていましたが、「大きな木から離れること」や「うずくまること」が重要となります。
大きな木の下にいた場合、大きな木への落雷が誘導雷となって周辺に影響を及ぼします。
雷は金属を身に着けていると危ないとよく言われますが、電気に対して絶縁性が高い空気の中でも放電がおきています。
多少の金属の有無よりは、体を低くしたりするなど、地表面の突起物にならないことの方が大切です。
うずくまっていないと自分自身が落雷を呼び込んでしまいます。
また、体を低くするといっても、手を地面につけたり、寝そべるのはだめです。
雷が地表面に沿って走ることがあり、この場合は、心臓の近くを強い電流が流れることになり、生死にかかわるからです。
雷雨のあとは上空の寒気がおりてきますので、気温が下がります。
体を冷やさないように、新聞紙やビニール袋を服の中に入れるなど、少しでも風に当たらないようにする工夫や、レインコートの袖口を絞るなど、少しでも雨に濡れない工夫が必要になっていきます。
避難小屋に移動できても、近くの落雷で影響の可能性がある窓際や電線の引き込み口付近は要注意です。
朝岡気象予報士がモネに言ったように、「建物の中でも危険があるので注意」です。
避難小屋の中では、モネがやったように、濡れた服をぬいで乾いたもので体をくるんだり、暖房器具をつけて体を温めることが重要になります。
モネたちが避難小屋に移動したあと、登米の診療所の菅波光太朗医師から電話で「低体温症になりやすいので温めて」というアドバイスがありましたが、体力のない子供だけでなく、大人にとっても注意すべき事項です。
事実、春山では「春と考えて油断していたら、真冬なみの寒さだった」という遭難者が少なくありません。
春山で遭難してしまったら、まず考えるポイントは寒さ対策です。
ドラマの中でモネがやったことは、そのまま山で遭難したときの対策です。
ネット検索で再度楽しめる朝ドラ
冒頭でも書いた通り、「おかえりモネ」は、少しデフォルメしていますが実際におきた自然現象を使っていますので、ドラマ中の場所や日時等からネットで検索し、「少し強調している」とか、「少し場所をずらしている」などと推測する楽しみがあります。
また、「北上川の川霧」や「気仙沼のけあらし」など、実際におきる美しい現象の映像がふんだんに使われています。
例えば、5月21日の第5回では、朝岡気象予報士の願いで、モネたちが同行して夜明け前の北上川の川霧を見物しています。
そしてモネは、今後のドラマの核の1つになると思われる「気仙沼のけあらし」を思い出しています。
こうした美しい自然現象についてネットで検索したり、その場所を訪れて観光したりする楽しみも生まれそうです。
これまでも、気象や気象予報士を取り扱ったドラマや映画はいくつかありましたが、「気象のリアルの部分」については、ありえないような設定が少なくありませんでした。
「おかえりモネ」は、気象考証がしっかりしており、ドラマの構成上、少しデフォルメがあるだけですので、ドラマを見た後にネット検索で再度楽しめるという、新しいタイプの朝ドラだと思います。
今後の物語展開が楽しみです。
図の出典:著者作成。
【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】