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「ひとり旅はさびしい」という人に読んでほしい。ソロ温泉の達人があえて大切にする「孤独」の時間

高橋一喜温泉ライター/編集者

ソロ温泉(ひとりでの温泉旅)の魅力は、なんといっても「ひとり」であることだ。日常の仕事や人間関係から距離を置き、ひとりの時間を満喫する。

しかし、「ひとり旅はさびしい」「わざわざ孤独を感じたくない」と二の足を踏む人も少なくない。

筆者も先日、ある温泉地でお土産屋さんのおばあさんから「あら? ひとりなんてさびしいわね」と言われてしまった。「ひとりのほうが気楽ですよ~」と返したのは本音だが、依然として「ひとり旅=孤独」ととらえる人は多い。

だが、ソロ温泉は決して「孤独」ではない。逆説的だが、「ひとり」だからこそ、人を身近に感じられるのである。

退屈? それがソロ温泉の魅力

ソロ温泉は、自由で身軽な旅である。時間のあるときに、行きたい温泉地に行って、ただただ温泉につかる。これで形式上は「ソロ温泉」が成立する。

このように物理的にはハードルは低いはずだが、意外と心理的なハードルが高いようだ。温泉に行きたいという願望はあっても、「ひとり旅はちょっと……」という漠然とした不安が行動にブレーキをかけてしまう。

ひとり旅をしたことがない人からよく聞かれる声が、「ひとりで温泉に行っても何をしたらいいのかわからない」という漠然とした不安だ。これに対する答えはシンプルである。

何もしなくていい。温泉に入るだけでいい。

「何かをしなくてはいけない」という先入観があるから、面倒くさく感じ、あきらめてしまう。温泉旅なのだから、湯船につかって帰ってくればいいのだ。ゆっくり温泉に入って心身を休めることができれば、それでソロ温泉は成立しているのだから。

「せっかくの温泉旅だからいろいろ楽しみたい」という思いがどうしても消えないなら、今はあなたの心がソロ温泉を求めていないのかもしれない。それなら、ソロ温泉ではなく、家族や友人を誘って温泉に出かければいい。

旅のスタイルに優劣はない。ソロ温泉は、あくまでも旅のスタイルのひとつにすぎない。あまりむずかしく考えてはいけない。

ひとり旅は決して「孤独」ではない

「ひとり旅は孤独なもの」と思い込みも心理的な壁になっているようだ。しかし、それは違う。孤独を感じるどころか、頭の中にはたくさんの人が次々と登場してきて、逆ににぎやかな気分になる。

ドイツ文学者であり、温泉に関する数多くの紀行文を執筆している池内紀さんは著書『ひとり旅は楽し』(中央公論新社)の中で、こんなことを書いている。

「ひとり旅は本当にひとりだろうか。ひとりになると、とたんに想像のなかに人がやってこないか。最初の恋人とも、二十年前に死んだ友人とも自由に会える。話ができる。ひとり旅ほど、にぎやかな旅はない」

本当にそう思う。スマホをいじることなく、時の経過に身を預けていると、家族、友人、知人などの顔が次々と浮かんでくる。

たとえば、「両親としばらく会っていない。元気で過ごしているかな」「学生時代の友人と久しぶりに会いたいな。旅から帰ったら連絡をとってみよう」など、想像の中でコミュニケーションをとるイメージだ。

こんなこともあった。旅先で見かけた柴犬を見て、昔、実家で飼っていた犬のことを思い出し、犬との思い出が走馬灯のように頭の中を駆け抜けていった。日常生活ではなかなか思い出さないような人(犬も)も、ソロ温泉の最中にはよく登場するのだ。

ひとりでも孤独ではない。孤独はある意味、幸せな時間である。こうした時間は、ひとりになってスマホや人間関係を断ち切らないと体験できないものだ。

ひとり旅に興味がある人はぜひ、あえて「孤独」を味わいに旅に出てみてはいかがだろうか。

高橋一喜|温泉ライター

386日かけて日本一周3016湯を踏破/これまでの温泉入湯数3800超/著書に『日本一周3016湯』『絶景温泉100』(幻冬舎)、『ソロ温泉』(インプレス)/温泉ワーケーションを実行中/2021年1月東京から札幌へ移住/InstagramnoteTwitterなどで温泉情報を発信中

温泉ライター/編集者

温泉好きが高じて、会社を辞めて日本一周3016湯をめぐる旅を敢行。これまで入浴した温泉は3900超。ぬる湯とモール泉をこよなく愛する。気軽なひとり温泉旅(ソロ温泉)と温泉地でのワーケーションを好む。著書に『日本一周3016湯』『絶景温泉100』(幻冬舎)、『ソロ温泉』(インプレス)などがある。『マツコの知らない世界』(紅葉温泉の世界)のほか、『有吉ゼミ』『ヒルナンデス!』『マツコ&有吉かりそめ天国』『スーパーJチャンネル』『ミヤネ屋』などメディア出演多数。2021年に東京から札幌に移住。

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