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元体操五輪・岡崎聡子薬物裁判で判決!懲役3年4カ月という裁判所の判断理由は…

篠田博之月刊『創』編集長
判決公判が開かれた東京地裁(筆者撮影)

 2019年10月4日、元体操五輪代表・岡崎聡子被告の薬物裁判で懲役3年4カ月の実刑判決が出た。問題はその中身で、今回は彼女が初めて本格的治療に取り組むことを表明したのだが、それについて裁判所がどう判断したかだ。処罰から治療へという流れの中で、裁判所がどんなふうに考えているかを示す事例として興味深いケースだからだ。

 開廷は午前10時。岡崎被告は縞模様の洋服で法廷に臨んだが、お守りを携行していたという。前回のヤフーニュースの記事で紹介した彼女の知人から送られたものだ。

https://news.yahoo.co.jp/byline/shinodahiroyuki/20190929-00144577/

元体操五輪代表・岡崎聡子被告が薬物裁判の法廷で涙ながらに語ったこと

 かつて岡崎被告が輝いていた時代の知人だが、今回、このヤフーニュースで逮捕後の経過報告を行ったため、多くの知人などから彼女に激励の声が届いた。本人には相当励みになったようで、彼女が人生をもう一度やり直して薬物治療に取り組むことを決意したひとつの要因でもある。

 岡崎被告は五輪代表時代に「和製コマネチ」などと呼ばれた人気の選手だったが、脚を痛めてリタイアしてからもタレント活動をしながらエアロビクスの普及に携わった。お守りを送った知人はその頃、一緒に仕事をしていた人だ。岡崎被告は、この10年ほど出所しても身寄りもなく孤立して再び薬物に手を染めるということの繰り返しだったが、今回は多くの激励に応えて薬物依存を克服しようと考えている。

裁判長が述べた懲役3年4カ月の理由とは 

 開廷後、岡崎被告を証言台に立たせて、裁判長は判決文を読み上げた。

「主文、被告人を懲役3年4カ月に処する。但し未決勾留の80日を算入する」

 前刑は懲役3年6カ月だった。再犯を重ねるほど懲役期間は延びるのが普通だから、今回、裁判所はいろいろな事情をくみ取ったことになる。興味深いのはその中身だが、「まず当裁判所が認定した事実を申し上げます」と語ってこういう事情を述べた。

 被告人は4月中旬から28日にかけて覚せい剤を使用した。6件の前科があるうえに今回は出所後1年余りでの再犯、しかも出所後3カ月で再び薬物を使用している。よって依存性は深刻と言わざるをえない。一方で、今回は出所後の沖縄ダルクでの受け入れ態勢が決まっているほか、本人に反省の態度が認められるなどの事情もある。そうした事情を斟酌したとしても3年以下の懲役にはできず、刑の一部執行猶予の余地はない。

 つまり今回は、これまでなかったような本人の治療への取り組みなどの事情を考えて前刑より刑期を2カ月短くした。しかし懲役3年以下にして刑の一部執行猶予を適用するまでにはいかない、というものだ。

 「処罰から治療へ」の流れの中で、刑の一部執行を猶予して治療に専念させるという司法制度が導入され、今回は引受先として沖縄ダルクも決まっているので、そういう事情について裁判所がどう判断するか注目されたが、結果は無難なところに落ち着いたという感じだ。

岡崎被告が札幌刑務所を希望している理由 

 このままいくと岡崎被告は控訴しない方針だから2週間後に刑が確定するが、その後、本人はできれば札幌刑務所に行くことを希望している。実は昨今、高齢の女性の薬物依存が深刻な問題になっており、法務省の取り組みを受けて、来年度から札幌刑務所で特別の治療プログラムが導入される。それについて書いたのが例えば下記の報道だが、こうしたものを岡崎被告に渡したところ、かなり関心を持ち、そのプログラムを受けたいと希望するようになった。

https://mainichi.jp/articles/20190213/dde/041/040/013000c

法務省 脱薬物へ女性受刑者支援 男性より回復難、出所後につなげ 札幌刑務支所で検証

 岡崎被告は正式に札幌刑務所に希望を出すことになると思われるが、新たに導入される治療プログラムに彼女のような人がモデルケースとして関わりたいという希望を、法務省があとはどう判断するかだ。彼女が新たなプログラムを受けることになれば、モデルケースとして報道されることもあり得るし、法務省にはぜひ応じてほしいと提案したい。

 またそうした試みとは別に、彼女の場合、既に沖縄ダルクや、ダルクの関連機関のアパリと接触しているため、そうしたところの治療サポートも受けていくことになる。裁判所も語っていたように、彼女は相当重症の薬物依存だから、それを克服するのは簡単ではない。ただ、それゆえにこそ実際に克服できれば、薬物依存に苦しむ人たちにとって、大きな励みになると思われる。

 塀の外よりも塀の中にいる時間の方が長いといった薬物依存の深刻な状況を、今後、果たして彼女が意思と努力によって克服することができるのか。今後も報告を続けたいと思う。

 ちなみに今回、岡崎さんにお守りを送った女性は、最初の逮捕についてこのヤフーニュースに書いた時にこんなメールを送ってきた。

 《岡崎聡子さんが、今も薬物で苦しんでおられることを知りました。1980年代頃でしたでしょうか、日本にエアロビクスが入ってきた頃、チーフインストラクターとして東京と京都、大阪、そして渋谷と、エアロビクスを日本に普及させるべく、各地をはつらつとして、飛び回っておられた聡子さんの姿が今も眼に浮かんできます。何とか、薬物依存の地獄から、何とか抜け出して欲しいと、心から切に願っています。》

 「薬物依存の地獄から、何とか抜け出して欲しい」という切なる願いに本人は応えることができるのだろうか。

 なお本文に出てくるダルクやアパリについては下記ホームページを参照されたい。日本の薬物治療の歴史はこれらの民間機関を抜きには成立しなかったといえる。今回の公判もアパリのスタッフが傍聴に来ていて、公判終了後、弁護人をまじえてお茶を飲みながらいろいろ話したのだが、11月2日にアパリが20周年を迎えるというのでシンポジウムなどが開催されるという。私も足を運んでみようと思うが、関心ある方はぜひアパリのホームページからアクセスしてほしいと思う。

アパリ http://apari.or.jp/

日本ダルク http://darc-ic.com/

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

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