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元体操五輪代表・岡崎聡子被告が薬物裁判の法廷で涙ながらに語ったこと

篠田博之月刊『創』編集長
岡崎聡子被告がいる東京拘置所(筆者撮影)

 9月18日10時から、元体操五輪代表・岡崎聡子被告の薬物裁判の第3回公判が開かれた。下記の前回記事に書いたように、その前の8月15日の第2回公判では私と薬物治療関連機関アパリの女性スタッフ、それに沖縄ダルクの代表が情状証人として出廷し、彼女を今後どうやって立ち直らせるか証言した。

https://news.yahoo.co.jp/byline/shinodahiroyuki/20190816-00138673/

 度重なる逮捕と服役でわかるように、岡崎さんの薬物依存は相当重度で、更生が簡単でないことは明らかだ。でも10年以上関わってきた者として、彼女がこのまま人生の半分を塀の中で過ごすというのを見ているのはあまりに切ないと思った。それに、そういう重度の依存症であっても本人の強い意思と努力、それに周囲のサポートがあれば、立ち直ることも不可能でないことを何とかして実例で示してほしい。それは社会的意味も大きいと考えた。

 幸い、今回は本人も彼女の人生で初めてといってよいほど治療に前向きになっている。第3回公判前日の17日に東京拘置所で彼女に接見したが、本人も服役するなら札幌刑務所がいい、と言っていた。札幌刑務所は、女性の薬物依存治療プログラムを先進的に取り入れているところで、岡崎さんはそこで治療に取り組みたいというのだった。今回は、出所後は沖縄ダルクで治療に専念することも既に決まっている。

証言台で泣きながら過去の人生を振り返る

 さて第3回公判での被告人質問での主なやりとりを紹介しよう。

弁護人(以下、弁)あなたは前回の出所後、どういう生活を送っていましたか。

被告人(以下、被)生活保護を申請しました。体調が悪くて医者に通ったりしていました。

弁 そのことで誰かに相談とかはしなかったのですか?

被 大丈夫だろうという自信があって、一人で何とかなるだろうと思っていました。

弁 今回、4月28日に尿検査で陽性となって逮捕されたわけですが、いつから使用していたのですか。

被 4月10日頃に使いました。以前のように気分が良くならないので残りを捨てようと思っていたのですが、10日くらい後にまた使ってしまいました。

弁 前刑を終えて出所後はどのくらい使用したのですか?

被 出所して3カ月くらい後に使ってしまいました。

弁 昨年の6月頃ですね。

被 精神的に怖くなったり、体調が悪くなったりしたので使ってみたのですが、気持ちが落ち着くどころか、逆に嫌な気持ちになりました。ですからやめたいと思っていたのです。

弁 それでも誰かに相談はしなかったのですか。

被 落ち着いた後は、一人でも大丈夫と思ってしまいました。

弁 今の気持ちや今後のことについてはいかがですか?

被 今までは助けてくれる人がいても「助けてください」という一言が言えないところがありました。今回は、真剣に支えてくれる方々や、弁護士先生が気持ちをわかってくれたので、素直に前向きになれました。

 このまま世の中に背を向けていてはいけない、たとえ失敗してもその方が良いと思いました(このあたりから証言しながら泣き出す)。周囲に感謝の気持ちを示したいし、期待に応えて薬物と決別したいと思います。

弁 これまではそういう安心できる場所がなかったのですか?

被 どうしてもひいてしまう部分があって、孤立するのが怖いし、排除されていると思いたくないという気持ちでした。気持ちが固まっていたと思います。

弁 今回、素直に考える時間を持てたことが大きかった。

被 私の人生にとても大きな意味があったと思います。

 今まではなかなか仕事に就けなかったりして、そうすると再び薬物関係の人に電話してしまったり、悪循環になっていました。

弁 今後は沖縄ダルクにお世話になるわけですが、人間関係とか環境を変えるわけですね。

被 同じ悩みを持った人と話してみたいし、自分の考えを広げていきたいと思います。

弁 その治療はどのくらいを考えていますか?

被 最低でも1年間はがんばろうと思います。

弁 これまでダルクなどへ行かなかった理由は?

被 施設についてあまり良い話を聞かなかったから先入観がありました。依存症を治したいという本気の気持ちも足りなかったので、中途半端な気持ちでは施設に行けないと思いました。

弁 前刑で薬物治療プログラムを一部受けたそうですね。

被 今回は、何とかしてもらおうというのでなく、自分で何とかしなきゃという素直な気持ちになれました。(以下略)

裁判官 今回はこれまでと異なるというわけですね。

被 家族を始めたくさんの方に迷惑をかけてきたので今回は誓います。

検察は「依存性高く酌量の余地もない」と4年半を求刑 

 ここで検察官から質問がなされた。

検察官(以下、検)今回の入手方法はどうしました?

被 友達が持っていたのをもらいました。

検 以前ももらったことは?

被 ありました。(以下、入手した際の細かい経緯)

検 どんなふうに使いました?

被 家に帰ってからアルミホイルで下からライターであぶって使いました。

検 使うことに抵抗はなかったですか?

被 言い訳になってしまいますが、体調が悪くて、逃れようと使ってしまいました。やったらよけい悪くなって後悔しました。

検 出所後どのくらい使ったのですか?

被 4~5回使ったと思います。

検 繰り返したのはなぜですか?

被 もっと楽しくなるはずだという以前の感覚があったからです。

検 使用は一人ですね。

被 はい。

検 でもあなたは息子さんとラインのやりとりをした中に、4月10日、〇さんと使ってしまったと言っていますね。

被 息子にそういうメールしたのは初めてです。勧められて断り切れなかったと、誰かのせいにしようとしたのだと思います。実際は一人で使いました。

 ※この後も、検察官からなぜ反省しながら何回も使用するのかなどと追及がなされ、希望が持てなかった、もうだめじゃないかという気持ちになることがあって、薬で楽になりたいと思った、などと答えるやりとりがなされた。

 その後、検察・弁護人双方から論告が行われた。

検 被告人は前回、出所からわずか3カ月で再び薬物を使用しており、依存性は根深く、親和性も高い。酌量の余地もありません。既に6犯を有し、規範意識も低いことが窺えます。

 求刑は4年6カ月とします。

弁 被告人が再犯を繰り返していたことは薬物依存の恐ろしさを示すものといえます。ただ今回は、篠田氏を通じてアパリに接触するなど、これまでになかった変化が見られます。

 薬物は自身の意思や根性だけにゆだねるのでなく、刑罰だけでなく治療が必要です。本人も今回は治療を受けることを希望し、自分の人生を変えたいという思いになっています。ですからできるだけ早い段階で治療プログラムに移ることが必要です。刑の一部執行猶予の判決をたまわりますよう希望します。

依存症克服の闘いのほうが服役より長くて重い

 裁判官から「最後に言いたいことは?」と訊かれた岡崎被告は「ご迷惑をかけたことをお詫び申し上げます」と述べた。

 検察の求刑が厳しいものになるとは予想していたが、「情状酌量の余地はありません」という言葉に、前回の公判でのやりとりが全く認められなかったのかと少々がっかりした。

 次回は10月4日金曜日、10時から725法廷で判決が言い渡される。もちろん判決がどうなるかによるが、いずれにせよ今回は出所後、沖縄ダルクに入所することなどが決まっている。彼女の人生で初めてといってよい本格的治療が始まるわけで、その薬物依存との闘いのほうが服役よりも重くて長いことが予想される。

 でも前回公判の証言でも言ったが、そういう困難な壁を何とか乗り越えて、重度の依存症であっても克服は可能だということを示してほしい。かつて五輪代表選手として有名だった彼女だからこそ、克服できた時の社会的意味は大きいし、それは薬物依存に苦しんでいる多くの人に希望を与えると思う。

 岡崎さんの逮捕後のことをヤフーニュースに書いているために、多くの人からメッセージや連絡をいただいている。最近も、かつて岡崎さんがエアロビクスのインストラクターをやっていた頃の関係者からメールが届いた。

《昨日、聡子さんからお手紙を頂戴いたしました。

 中身を読んで、涙がでました。現在のこと、これからのこと あれだけしっかり自分のことを伝えられることこそ、聡子さんは十分に自立を果たしておられるということ。本当に安心しました。

 まだ、道のりは長いかもしれませんが、沖縄の地で聡子さんが溌剌として、活動されている様子が今はっきりと頭に浮かびます。

 篠田様からのご支援や様々な団体からのご支援が頂けて、本当に幸せだと思います。

 どうぞ、引き続き、聡子さんの心の支えになってあげてください。

 私も、何ができるかわかりませんが、そんな気持ちでいつも応援していたいと思います。》

 

 この女性は東京拘置所の岡崎さん宛にお守りを送ったという。その祈りが届いて、何とか本人が薬物依存から脱却できるようになることを期待したい。

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

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