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裏金問題で冠された「令和の」の元祖「リクルート事件」から25年。双方の共通点をたどり今後を推察

坂東太郎十文字学園女子大学非常勤講師
国会で証言するリクルート創業者(写真:Fujifotos/アフロ)

 国会議員などが立件された自民党派閥による裏金問題は今年に入って東京地検特捜部の捜査が一応終結して国会議員ら数人が立件されました。

 この事件で報道がはしばしば「令和のリクルート事件」と表現したのです。元祖「リクルート事件」は、まさに25年前の1989年2月に特捜部が創業者らを贈賄容疑で逮捕して本格化しました。

 双方は「令和の」と冠されるだけあって共通点も多いのです。そこをたどりつつ今回の問題が今後どのように展開するかまで推察を試みます。

メディア先行

 リクルート事件の発端は1988年6月18日付「朝日新聞」横浜支局がスクープした「『リクルート』川崎市誘致時、助役が関連株取得 売却益1億円」と題する記事でした。神奈川県川崎市が計画した「かわさきテクノピア地区」へ、リクルート社の進出が決まった同時期に助役が「関連会社」リクルートコスモスの未公開株を公開前に取得した後に売却して億単位の利益を得ていたという内容です。

 ここから他社も加わって続々と国会議員が同じようにコスモス株を取得していたと実名報道がなされて一挙にヒートアップ。東京地検特捜部が家宅捜索という明快な形で動き出す10月まで完全なメディア先行でした。

 今回の裏金問題も2022年11月、日本共産党機関紙「しんぶん赤旗」が報じた後に上脇博之神戸学院大学教授が公開情報を元に政治資金規正法違反として特捜部へ数次告発。「赤旗」報道から約1年後の23年11月に特捜部が調べているのをメディアが知って報道合戦へ突入したのです。特捜が公然と強制捜査に踏み切ったのは12月半ばなのでメディア先行といえます。

俗にいう「検察のリーク」とは

 リクルート事件における朝日の一報の内容は日時、金額など詳細です。記事の「朝日新聞社の調べでわかった」「資料や関係者の証言などによると」「模様である」記載から推測するに、捜査当局の動き(常に取材対象)から何らかをキャッチした記者が取材を重ねて責任ある者へ当てて暗黙の確認を得たと思われます。

 俗に「検察のリーク」などといわれますが、当局が記者へ捜査中の案件をベラベラしゃべったりはしません。ただし立件できそうもないケースだと問われれば若干緩くなり得る場面も。

 裏金問題は強制捜査以前から任意での事情聴取を進めており特捜以外からの情報源もあるから「調べる」「調べられる」双方に「関係者」がいて取材結果を突合していけたのでしょう。

リクルート事件で訴追された国会議員は2人

 リクルート事件の容疑は刑法の賄賂罪。賄賂を受け取った(収賄)側の国会議員を立件できるかが最も注目されました。成立させるには職務に関わる賄賂を実行するよう依頼している(請託)という要件が必要です。

 こうした職務権限の有無が収賄罪における高いハードルなのは常ながら、この事件は未公開株の譲渡がそもそも賄賂になるのかという手前の部分が厳しかった。いうまでもなく株式は上がったり下がったりするので損をする場合もありますから。

 結局、国会議員で訴追されたのは中曽根派ナンバー2の藤波孝生元官房長官(在宅起訴)と公明党の池田克也衆議院議員(同)で計2人止まり。後は議員秘書や会計責任者の4人が政治資金規正法違反で略式起訴されただけでした。

裏金問題で訴追された国会議員は3人

 裏金問題も、あれほど騒がれながら国会議員で訴追されたのは池田佳隆衆院議員(逮捕→起訴)と大野泰正参院議員(在宅起訴)の2人と谷川弥一衆院議員(略式起訴)の計3人。他に非議員の秘書・会計責任者5人が起訴・略式起訴。

 大物に届かなかったのは容疑が政治資金規正法違反だから。そもそも罰金刑主体の軽量刑で、議員の身分に関わる議員立法として制定されていて、よほど悪質でないと行政機関である検察が立法府を冒す恐れがあって慎重を期した結果といえます。

 どちらも針に糸を通すように特捜部が何とかバッジ(国会議員)を挙げた出来事で多くの国民は不満と思われるも、これが検察の限界です。

政治的・道義的責任として大臣を辞任

 ただし政治的・道義的責任は別。リクルート事件だとコスモス株の譲渡自体は現職(当時)の竹下登首相を始めとして宮沢喜一大蔵(現在の財務)大臣、長谷川峻法務大臣、原田憲経済企画庁長官(国務大臣)。自民党3役の安倍晋太郎幹事長、渡辺美智雄政調会長も。政治的・道義的責任を取って3大臣は辞任し、中曽根康弘前首相は離党の憂き目に。

 裏金問題も「安倍派5人衆」の閣僚・党役員からの追放劇などがあったとはいえ、使途を含めた説明責任はほとんど果たされておらず、今国会で追及されています。何せ裏金を作った国会議員がどうやら100人近くに及ぶようだから。

共通する「秘書が秘書が」の言い逃れ

 責任転嫁もソックリ。リクルート事件で名前が挙がった某国務大臣の「秘書が秘書が」の国会での答弁は当時の流行語になりました。今回も「秘書に任せていた」「事務的なミス」で知らなかったとの言い逃れが横行している始末。共通点ですね。

 首相の責任はどうなのか。リクルート事件で竹下政権は野党に予算を「人質」に取られて成立と引き換えに総辞職しました。89年は参院選を控えていて、あわよくば衆院解散とともに行う同時選挙をも模索したようですが身内の派内からも反対の声が上がって万事休す。

 岸田首相はどうでしょうか。竹下首相と異なるのは自民が21年総選挙、22年参院選で連勝して自ら衆院を解散しなければ国政選挙が25年までない「黄金の3年間」を手にしている点。

野党は予算審議で揺さぶって首相のクビを取るか解散に追い込めるか

 竹下政権時の野党はリクルート事件の「本命」とみなしていた中曽根元首相の証人喚問を約束しなければ予算の審議を拒否するという戦術を徹底して内閣を追い込みました。もちろん当時ですら審議拒否は国権の最高機関としての機能を果たしていないと非難されてもいたのです。

 さて今国会。野党は安倍派幹部などの証人喚問を求めて当初予算を年度内に成立させたい政権を揺さぶっているものの果たして一致して「首相のクビを取る」まで追い込めるかどうか。

 あるいはこうともいえそう。前述のように検察に疑惑の全解明を望むのは最初から無理筋でした。裏金問題の決着を最終的に決めるのは有権者の1票です。政権が「黄金の3年間」を持つ以上、野党がその機会を提供するためには衆院解散へ追い込まなければいけません。その意味で野党もまた問われているのです。

十文字学園女子大学非常勤講師

十文字学園女子大学非常勤講師。毎日新聞記者などを経て現在、日本ニュース時事能力検定協会監事などを務める。近著に『政治のしくみがイチからわかる本』『国際関係の基本がイチから分かる本』(いずれも日本実業出版社刊)など。

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