公式セレクションに2年連続で2本参加! サン・セバスティアン映画祭ディレクターが“日本ブーム”を語る
欧州7大映画祭の1つ、スペインで最も権威あるサン・セバスティアン国際映画祭が9月22日から30日まで開催される。
日本映画の紹介にも熱心な同祭では、近年『奇跡』(是枝裕和監督)や『バケモノの子』(細田守監督)が公式コンペティション部門に選ばれていたが、昨年は『怒り』(李相日監督)と『君の名は。』(新海誠監督)がダブルで公式セレクション入りした(前者がコンペティション、後者が特別上映)。
そして、その快挙は今年も繰り返され、公式コンペティションに『ライオンは今夜死ぬ』(諏訪敦彦監督)が参加、『打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?』(新房昭之、武内宣之監督)が特別上映される。さらに『泳ぎすぎた夜』(ダミアン・マニヴェル 、五十嵐耕平監督)、『三度目の殺人』(是枝裕和監督)、『パパのお弁当は世界一』(フカツマサカズ監督)、『ラーメンヘッズ』(重乃康紀監督)も参加が決まった。
こうした“日本ブーム”について同祭の最高責任者ホセ・ルイス・レボルディノスに話を聞いた。
インタビュー・文・協力/Interview & Text by Courtesy of スペインのアジア映画情報サイト『CineAsia.net』
『君の名は。』はスペインでも予想以上のヒット
――最初に聞きたいのは『君の名は。』についてです。昨年の公式セレクションに加えた時、あれほどのヒットになると想像していましたか? 日本映画史上最大のヒットで、あの宮崎駿監督の『千と千尋の神隠し』の興行成績をも超えました。
「正直に言ってノーだ。日本でヒットしていてファンが増えていることは知っていたが、あれほどになるとは。我われはあの作品を大変気に入ったから公式セレクションに加えたのだが、それ以降のことは想像外だったし、スペインでも予想した以上のヒットになった」
――今年もまた岩井俊二作の1993年のテレビドラマをアニメ化した作品が公式セレクションに入りました。
「二匹目のどじょうを狙おうってことかな(笑)。我われは東宝と良い関係を築いていて、『打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?』を見せてくれた。思春期の若者が主人公になっていることなど『君の名は。』と似た点がかなりある。ある夏の少年たちを描いた物語は味わい深く、我われの選考委員も大変気に入った。コンペティション外ではあるが、こうして再びアニメーション作品が公式セレクション入りすることになった」
――公式セレクションには『打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?』の他アジアの作品がいくつか選ばれていますが、その中で諏訪敦彦監督の名が一際光っています。
「その通りだ。日仏共同作の『ライオンは今夜死ぬ』は諏訪監督(彼のことはスペインでは例えば『ユキとニナ』によって知られているね)の作品だ。あのトリフォーやゴダールにも気に入られたジャン=ピエール・レオが素晴らしい演技をしている。映画監督を目指す若者たちの物語という劇中劇。大変良い作品だから気に入ると思うよ」
是枝監督はサン・セバスティアンに第二の家がある?
――このインタビューの時点ではまだ発表されていないので聞きます。サン・セバスティアンに第二の家があるんじゃないか(笑)、と噂される是枝裕和監督の作品が「ペルラス部門」(スペイン未公開で、他の映画祭で称賛されたものがノミネートされる)に選ばれていない、とは信じられません。今年も彼の作品見られるんでしょう?
「まあまあ落ち着いて(笑)。是枝監督の作品はいつものようにペルラスに入ることになったから(笑)」
――スリラーという監督にとって新しいジャンルの作品『三度目の殺人』の出来はどうですか?
「観客には大歓迎されると思う。なぜなら、彼の作品の共通テーマである家族について描かれているからだ。ありきたりのスリラーではなく、法廷の周辺でドラマが展開していく。監督は鑑賞者の心を翻弄しながら、謎とサスペンスを維持していき、最後まで被告人が犯人なのか無罪なのか読めない。この物語の肝はそこにある」
――サバルテギ部門(自由制作部門。野心的な作品がノミネート)にも日本の作品が入っています。
「我われは、ダミアン・マニヴェルと五十嵐耕平両監督による日仏共同作『泳ぎすぎた夜』の選出に非常に満足している。 子どもと漁師の父の絆を描いた美しい物語だ。父は毎朝まだ暗いうちに市場へ行き、子供は一人で学校へ行く。ある日いつもの道を外れ雪山で迷ってしまう。子供役の少年の繊細な演技を見てほしい」
富田治料理人が我われにラーメンを振る舞ってくれる
――日本の作品は料理と映像部門でも常連ですが、今年もノミネートされているんでしょ?
「もちろん、欠かせないよ。今年は日本で最も有名でラーメン王と呼ばれる富田治料理人が我われにラーメンを振る舞ってくれる。彼を追った『ラーメンヘッズ』は重乃康紀監督のドキュメンタリー。もう1本、こちらはフィクションの『パパのお弁当は世界一』。これこそまさに味のあるメロドラマ。毎日高校に通う娘に綺麗に飾り付けたお弁当を作っていた父の話で、実話に基づいている。愛らしい作品だよ」
――まだ誰がサン・セバスティアンに招待されるのかは決まってないのですか?
「未定だからまだ何も言えないな」
――では、是枝監督は毎年来てくれているので今年も来るものと勝手に思っていますね(笑)。今日はどうもありがとうございました。