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知人とのおしゃべりやみんな揃っての食事が愛おしい!実在する洋館の裏長屋に住む人々の日常を映画に

水上賢治映画ライター
「旧グッゲンハイム邸裏長屋」の前田実香監督 筆者撮影

 映画「旧グッゲンハイム邸裏長屋」は、そのタイトル通りに、神戸に実在する旧グッゲンハイム邸の裏長屋を舞台にしたフィクション映画になっている。

 旧グッゲンハイム邸は築100年を越える洋館。その裏にある裏長屋はシェアハウスとしていまも使われている。

 作品は、その旧グッゲンハイム邸の裏長屋で実際に撮影。そこで暮らす住人たちのたわいもない会話やキッチンで料理を作る姿、共有スペースで一緒にのんだり、くつろいだりと、なんでもないふだん通りの日常風景が収められている。

 目の離せなくなるような強烈なキャラクターが登場するわけでもなければ、特にドラマティックなことが起きるわけでもない(ミステリーなことはちょっとだけ起こる)。

 でも、名もなき人々のありふれた営みを丁寧にすくいとった物語は、平凡な日常の中にある眩い瞬間や愛おしい時間を映し出す。

 その光景は、コロナ禍が続くいま、ウクライナの悲惨な状況を日々目にしているいまこそ、いかに平凡で穏やかな日常がかけがえのないものであるかに気づかせてくれるに違いない。

 知人とのおしゃべりが、みんな揃っての食事が、ちょっとした近所のお散歩が、なんだかとても愛おしくなる映画「旧グッゲンハイム邸裏長屋」。

 本作が劇場デビュー作となる前田実香監督に訊いた。(全四回)

わたし自身がこの事実にびっくりしています(笑)

 まず前田監督は、こう言うのが当たらずといえども遠からずというか。監督デビューするのが不思議なようにも、不思議ではないようにも思えるキャリアの持ち主だ。

 神戸芸術工科大学メディア表現学科映画専攻(※学生時代、監督作を発表している)を卒業後、神戸市内の文化複合施設に勤務し、映像事業を担当して映画関連イベントなどの企画運営を手掛けている。

 その後、神戸市のフィルムコミッショナーとして数々の劇場映画やテレビドラマなどをサポート。実は先月までフィルムコミッションに勤務(※現在は別の仕事に転職)しており、本作は業務の傍らで制作した作品になる。

「監督として作品を発表して、その作品が劇場公開される。わたし自身がこの事実にびっくりしています(笑)。

 ただ、映画を作りたい気持ちはずっと抱いていました。

 神戸芸術工科大学に入学したのが2006年のこと。その年にいまは名称が変わっているんですけど、メディア表現学科映画専攻ができて、わたしはその1期生なんです。

 この学科に進んだのは、もちろん映画を作りたいから。

 石井岳龍監督が教鞭をとられていて、そこで学んでいました。なので恩師は石井監督です。

 ただ、卒業後は、映画を作る方ではなく、映画を上映する側の劇場の業務について。2017年に先月まで働いていた神戸市のフィルムコミッションに転職しました。

 ですから、大学卒業後は、自分で映画を作るということにはまったく触れてこなかったんです。

 でも、映画を作りたくて映画の勉強をしてきたので、ずっと映画を撮りたい思いは心のどこかに常にありました」

「旧グッゲンハイム邸裏長屋」
「旧グッゲンハイム邸裏長屋」

『もうこれを逃したら、わたし一生映画を撮れないかもしれない』と思って

 今回、映画作りに至った経緯をこう明かす。

「(映画を)撮りたいと思いながらも、お金もかかるし、スタッフや役者の当てもなければ、つてがあるわけでもない。だから、作りたい気持ちはありましたけど、ずっと踏み出せないでいたんです。

 きっかけはほんとうに偶然というかタイミングで。

 実は、旧グッゲンハイム邸の裏長屋に実際にわたし住んでいたんです。少し前に引っ越したんですけど、都合8年ぐらい住んでいました。

 旧グッゲンハイム邸は、趣のある洋館で、その場所からは海が見えて、すぐそばには山もあって緑も多い。

 その裏長屋のシェアハウスに住んでいたわけですけど、ほかの住人との交流も楽しくて、居心地もよくてなかなか離れることができなかった。

 それから、わたしは神戸生まれ神戸育ちなんですけど、旧グッゲンハイム邸があるエリアの塩屋という街は、同じ神戸市内ながら、ゆかりがなくて住むまではほとんどなじみがなかったんです。

 でも、住めば都でこの街の良さに少しずつ気づいて、街のことが好きになっていった。

 そういう中で、映画というよりも、まずは旧グッゲンハイム邸裏長屋とこの街の風景を、動画でも写真でもいいからなにかの形で残しておきたいという気持ちが芽生えました。

 それで、2018年に、当時、裏長屋に住んでいた子たちにわたしの思いを話してみたんです。

 『わたし、映画をずっと撮りたいと思っていて。旧グッゲンハイム邸とこの裏長屋とこの街を映画に残したい』といったようなことを。

 すると、けっこうみんなが賛同してくれたんです。『いいんじゃない』『やってみたら』と。

 それで背中を押された感じもあって、ちょっと勇気も出て本格的に考えてみようとなり、いまはプロの映画の現場で仕事をしている神戸芸術工科大学の同級生とかに相談したら、『手伝うよ』とか、『機材を貸せるよ』とか、なんだかみんな協力を申し出てくれた。

 そのとき、『もうこれを逃したら、わたし一生映画を撮れないかもしれない』と思って。

 ずっと考えていたことをまとめて一気に脚本を書き上げて、そのまま撮影に突入したというのがおおまかな経緯です(笑)」

(※第二回に続く)

映画『旧グッゲンハイム邸裏長屋』イメージビジュアル
映画『旧グッゲンハイム邸裏長屋』イメージビジュアル

映画『旧グッゲンハイム邸裏長屋』

監督・脚本:前田 実香

出演:淸造 理英子、門田 敏子、川瀬 葉月、藤原 亜紀、谷 謙作、平野 拓也、

今村優花、ガブリエル・スティーブンス、エミ、渡邉 彬之、有井 大智、

津田 翔志朗、山本 信記(popo)、森本 アリ ほか

撮影:岡山 佳弘 録音:趙 拿榮 編集:武田 峻彦

テアトル新宿ほか全国順次公開中

<監督と出演者による舞台挨拶決定!>

4月16 日(土)21:00の本編上映後(予告なし)

登壇者:淸造 理英子(せぞちゃん)、門田 敏子(としちゃん)、

川瀬 葉月(づっきー)、藤原 亜紀(あきちゃん)、

平野 拓也(なりちゃん)、今村 優花(まむちゃん)、前田実香監督

※ゲストは予告なく変更する場合あり

イメージビジュアルおよび場面写真は(c)ミカタフィルム

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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