釣り人を死に至らしめることもある消波ブロックの落とし穴
消波ブロックの隙間に落ちて死亡する事故が続いています。消波ブロックのうち、釣り人の身近にあるのが消波根固ブロック、そしてその中でも特に平型と呼ばれるブロックに思わぬ落とし穴が潜んでいます。
人工構造物の付近では釣り人の水難事故が発生する
海岸や河川には人工構造物があって、水の波や流れの勢いを弱めたりして、人命や財産を守っています。でも、こういった構造物の目的が水のもつパワーを分散することですから、構造物の直近では常に複雑な波や流れが発生し、時にはそこに不用意に近づいた人の命を脅かします。こういった事故は、特に天候の変化に伴って起きやすく、例えば今の時期では冬型の気圧配置が急に強まった日に発生するものです。そういう日に釣りに出かけると、いつもの平穏な日には発生しないような事故に釣り人がしばしば巻き込まれます。
消波ブロックはまさに釣り人に身近な人工構造物の一つと言えます。多くの方がイメージする消波ブロックはまさにカバー写真にあるようなものではないでしょうか。こういったブロックが防波堤に沿うように置かれていると、それらは消波根固ブロックと呼ばれる人工構造物です。さらに、カバー写真のようにブロックに4本の脚が4方向に伸びているテトラタイプは立体型と呼ばれる製品となります。
立体型での水難事故の定番
敦賀市白木の白木漁港では過去に渡り釣り人の事故が続いており、例えば2022年11月にもブロック上で釣りをしていた人が海に落ちて死亡しています。当時のニュース映像から、現場のブロックはテトラタイプの典型的な立体型ブロックであることがわかります。
さて立体型ブロックでの水難事故はどのようにして起こるのでしょうか。釣り人だったらブロックの積んである現場をよく見ているので、だいたい想像がつくことでしょう。
1.ブロックの上から転落して頭を打った
2.ブロックの上から転落して水たまりで溺れた(凍死した)
3.防波堤から越波した波にさらわれてブロックの隙間に落ちた
4.落とし物を拾いにブロックの隙間を下りたら、自力で上がれなくなった
特徴として、立体型のブロックでは隙間に高さがあり、人の背丈を優に超えるものです。そのため、致命的な怪我を負ったり、背丈ほどの海水がたまっていたり、はたまた自力で上がれなかったりと様々です。
この中でも救命胴衣を着装していたのにもかかわらず命を落とした事故には「自力であがれなかったのだろう」と推測されるものがありました。特に命にかかわるような外傷等が見当たらないし、溺れたわけではなさそう、でもとても寒かった日の出来事だったということです。
ブロックに吸い込まれることがある
昨日、たいへん残念な事故が発生しました。
この記事の配信のあとで、現場の状況がニュース動画で配信されました。そして亡くなった小学生は消波ブロックの隙間に落ちたこと、救命胴衣を着装していたことが報道されました。悪いことが重なったことによる事故のように感じます。
現場の動画より、現場にあった消波ブロックは、消波根固ブロックのうち平型と呼ばれるものだということが見て取れます。平型のブロックの高さは50 cmから90 cmの間に入る程度であることが多く、幼児が隙間に落ちたら背が立たないこともありますが、小学生なら普通に考えれば背が立つような隙間の高さです。
ところが、このような恐ろしい事故が過去にありました。
「吸い込まれていった。」こうなるとブロックの高さが吸い込まれた人の背丈より低くくても、足が隙間に吸い込まれて入ってしまったら、ブロックの隙間の中で座ったような姿勢となり、顔が水面下に潜ってしまって、どうしようもありません。たとえ救命胴衣を着装していても、吸い込まれる力には普通の救命胴衣の浮力では太刀打ちできないこともあります。
今回の事故が吸い込みによるものかはまだ判断できませんが、ここで重要なことは「平型には危険性があまり見て取れない」という落とし穴があるということです。実際に一緒に釣りに来ていたご両親は「目を離していた」とお話しされていることがそれを伝えているように感じます。
平型ブロックの落とし穴
図1をご覧ください。これは海における堤防の根固を目的としたブロック配置の典型例です。
図1の下の図をご覧ください。右に堤体工とあります。通常はコンクリート製の構造物でわれわれが防波堤と呼んでいるものを断面で見ています。そこから左方向に敷き幅、法面(のりめん)部、垂れ部とあり、それぞれ四角いブロックがイメージとして配置されています。
図1の上の図をご覧ください。このような所に配置されるブロックには種類があります。
例えば右のブロックは底面が法面にしっかりと接触するように設置してあります。もしこのようなブロックの縦方向の隙間に人が落ちたとしても、立っていることができます。時には海からの波をかぶることにはなりますが、波は赤矢印のようにブロック表面を元に戻りますから、顔に水がかぶる程度ですし、救命胴衣を着装していれば、その波の動きに従って顔が上下します。
例えば左のブロックには、底面と法面との間に斜め方向の隙間があります。もしこのようなブロックの隙間に人が落ちたら、次の波によって底面と法面との間の隙間に足が吸い込まれてしまいます。海からの波は赤矢印のように上から下へと次々に流れ込んできますので、救命胴衣を着装していても、場合によっては顔が水面にでなくなります。
さいごに
図1はあくまでも一般的な吸い込まれ事故の一例です。今回の阿南市で発生した事故がどのような原因で起こったのかは、これから行われる調査の結果を待ってから理解することになるかと思います。
ただ今回の事故を教訓にするとすれば、海面上に出ている形だけでブロックの底面の形状まで想いがおよばないことが普通だということ。人工構造物の付近では「想定外の危険がある」と常に心掛けながら釣りをすることが求められるのではないでしょうか。