経済格差が深刻なテレワーク・ハラスメント(テレハラ)を生む
■テレワーク・ハラスメントと経済格差
怒りを禁じえない「書き込み」を読んだ。
「在宅勤務してる部下のアパート、狭すぎて笑った」
「WEB会議中に子どもの声がうるさすぎるので、黙らせろと言ってやった」
新型コロナウイルスの影響で、在宅勤務をする会社員が急増している。慣れないテレワークのせいだ。上司も部下も、それぞれ過去に感じたことのないストレスを覚えている。
そんななか、予想通りというか、「テレワーク・ハラスメント(テレハラ)」が増えている。
これまでハラスメントとは縁がなかった上司であっても、彼ら彼女らの何気ない言葉や態度が、部下の心を傷つけるのである。
その原因は経済格差だ。
在宅勤務する社員が増えれば、当然「WEB会議」を使って連絡を取り合うことも増える。しかし「WEB会議」を実施すると、これまで知り得なかった相手のプライベートな事情と直面することがあるのだ。
■「目から入る情報」を隠せない
たとえば「背景問題」だ。
ZoomやSkype、Google MeetやTeamsなどで「WEB会議」をする際、誰でも背景の様子が気になるものだ。
自分の部屋や書斎がある社長や部長ならともかく、ワンルームに家族4人で暮らしている場合であれば、とくに困るだろう。
背景を加工できる機能があればいいが、そうでないなら、
「雨の日は洗濯物をどこに干そうか」
「子どもが走り回って背景に映ったらどうしよう」
といった悩みを抱える。そうでないと「WEB会議」中に、会議の論点とは異なる話題になったりするからだ。
部長:「おい、Aの家、そんなに暗いのか」
課長:「そういえばそうですね。設定の問題か」
A:「いや、設定の問題ではありません。家の中が暗いんです。窓が一つしかないので」
部長:「窓ひとつしかないのか」
課長:「子どもが2人もいるんだから、もっと広いアパートに引っ越しなさい」
A:「……」
部長:「そんなに給料、低かったか。わが社は」
課長:「そんなはずは、ないですけどねえ」
Aが黙っていると、同僚がとチャット機能を使って会議に参加している10人、全員にメッセージを送った。
「Aは、奥さんのお父さんの借金があるんです。それ以上は言わないでください」
■「耳から入る情報」はもっと深刻
たかが「背景」。されど「背景」だ。
「WEB会議」中に映し出される「背景」から、参加者のプライベートな事情が透けてみえてしまうのだ。
このような視覚的な情報よりも深刻なのが、「聴覚情報」だ。
背景問題は、WEB会議システムを変更したり、機能を追加することで対処できる。しかし会議中に発言する際は「ミュート」を解除するので、家の中の雑音や話し声などが否応なしに入ってしまう。
その聴覚情報からも、プライベートな事情が会議参加者たちに伝わるのだ。
赤ちゃんの泣き声、子どもが喧嘩する声、家族の咳払い、テレビやゲーム、洗濯機、電子レンジの音……。
それら音の量や大きさによって、家の広さや家庭の事情が上司や同僚たちに伝わるのだ。
「イヤホンつけてテレビ観ろって、子どもに言えよ」
「おじいさんと同居してるのか? 咳払いがうるさいな」
家の雑音が伝わらないようにするためには、「ミュート」に設定しておけばいい。しかし黙っていると発言を促される。家族が肩を寄せ合って暮らす、そんな家の様子を知られたくない人にとっては、地獄のような時間だ。
■自分に対してなら我慢できる
本当にテレワークしているのか。監視するためにしょっちゅうチャットでメッセージを送りつけたり、テレワークできる通信環境をちゃんと整備しろと強要する上司もいる。
しかしこのような行為は、まだ程度は軽い。
重いのは、家族に関する嫌みを言われたり、もっとひどいケースは家族に対して嫌がらせが及ぶことだ。
「子どもを黙らせろ」
「この時間帯に電子レンジを使わないよう、お母さんに言え」
自分に関することなら、自分が耐えれば済む。しかし上司からの理不尽な要望が家族へ及ぶと、我慢できないだろう。
職場にいるときは、家族や住まいの事情も隠せた。平等に職場環境が与えられ、同じようなスーツを身にまとって仕事ができた。それなのに、在宅でテレワークを強いられたとたん、それぞれの経済格差が如実に出てしまう。
厳しいのは、極端に狭い住まいの中で暮らしている人たちだ。たとえば小さなリビングを家族4人で共有している場合、どこでテレワークすればいいのか。
そんな事情もおかまいなしに、長時間に及ぶ「WEB会議」に参加させ、家庭事情にまで踏み込んだ発言を会議中にするのは、明らかにハラスメントだ。
■テレワーク・リテラシーが必要だ
今の時代、ITリテラシーが低い人は論外だが、「テレワーク・リテラシー」が低いのも問題だ。
テレワークは上手に利用すれば、仕事の生産性は上がるし、社員の満足度やエンゲージメント(愛着心)もアップする。これは間違いない。
大事な姿勢は、常に「相手の立場にたって考える」こと。どんな環境においてもそうだ。
それができない上司は、「そんなつもりはなかった」と、どう言い訳をしても「ハラスメント」と言われることだろう。
「テレハラ上司」とレッテルを貼られないように、世の中の上司たちは「テレワーク・リテラシー」を身につけたいものだ。それも、早急に。