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新型コロナウイルスで先行きへの不安強まる…2020年7月景気ウォッチャー調査の実情をさぐる

不破雷蔵グラフ化・さぐる ジャーナブロガー 検証・解説者/FP  
↑ 感染者数増加で不安は強まる。(写真:ロイター/アフロ)

現状は上昇、先行きは下落

内閣府は2020年8月11日付で2020年7月時点における景気動向の調査「景気ウォッチャー調査」(※)の結果を発表した。その内容によれば現状判断DI(※)は前回月比で上昇、先行き判断DIは下落した。結果報告書によると基調判断は「新型コロナウイルス感染症の影響による厳しさは残るものの、持ち直しの動きがみられる。先行きについては、持ち直しへの期待がみられるものの、感染症の動向に対する懸念が強まっている」と示された。2019年2月分までは「緩やかな回復基調が続いている」で始まる文言だったことから、景況感がネガティブさを見せる形が2019年3月分以降、17か月連続する形となっている。

2020年7月分の調査結果をまとめると次の通り。

・現状判断DIは前回月比プラス2.3ポイントの41.1。

 →原数値では「変わらない」「やや悪くなっている」が増加、「ややよくなっている」「悪くなっている」が減少、「よくなっている」が同値。原数値DIは41.3。

 →詳細項目は「小売関連」以外のすべての項目が上昇。「非製造業」のプラス8.2ポイントが最大の上げ幅。基準値の50.0を超えている詳細項目は皆無。

・先行き判断DIは前回月比でマイナス8.0ポイントの36.0。

 →原数値では「よくなる」「ややよくなる」が減少、「変わらない」「やや悪くなる」「悪くなる」が増加。原数値DIは35.8。

 →詳細項目はすべての項目が下落。「非製造業」のマイナス2.2ポイントが最小の下げ幅。基準値の50.0を超えている項目は皆無。

現状判断DI・先行き判断DIの推移は次の通り。

↑ 景気の現状判断DI(全体)
↑ 景気の現状判断DI(全体)
↑ 景気の先行き判断DI(全体)
↑ 景気の先行き判断DI(全体)

現状判断DIは昨今では海外情勢や消費税率引き上げによる景況感の悪化を受け、基準値の50.0以下を示して低迷中。今回月は前回月に続き新型コロナウイルスによる影響を受けてはいるが、持ち直しの動きを継続中。新型コロナウイルス流行前の水準にまで戻ったと判断できる値である。

先行き判断DIは海外情勢や消費税率引き上げによる景況感の悪化から、昨今では急速に下落していたが、2019年10月以降は消費税率引き上げ後の景況感の悪化からの立ち直りが早期に生じるとの思惑を持つ人の多さにより、前回月比でプラスを示していた。もっとも12月は前回月比でわずかながらもマイナスとなり、早くも失速。2020年2月以降は新型コロナウイルスの影響拡大懸念で大きく下げ、4月を底に5月以降は大きく持ち直したものの、直近月の7月では再び小さからぬ下落。コメントの限りでは新型コロナウイルスの影響再拡大への懸念、少なくとも見通しがつかない状況に対する不安が大きく足を引っ張っているようだ。

DIの動きの中身

次に、現状・先行きそれぞれのDIについて、その状況を確認していく。まずは現状判断DI。

↑ 景気の現状判断DI(~2020年7月)(景気ウォッチャー調査報告書より抜粋)
↑ 景気の現状判断DI(~2020年7月)(景気ウォッチャー調査報告書より抜粋)

昨今では2020年2月以降において新型コロナウイルスの影響による景況感の悪化が一気に噴き出した形となり、大きな下落。4月で景況感悪化の動きは底を打ったようで、5月以降は盛り返しを示している。今回月は前回月比においては1項目を除くすべての詳細項目でプラスとなった。

なお今回月で基準値を超えている現状判断DIの詳細項目は皆無。

続いて先行き判断DI。

↑ 景気の先行き判断DI(~2020年7月)(景気ウォッチャー調査報告書より抜粋)
↑ 景気の先行き判断DI(~2020年7月)(景気ウォッチャー調査報告書より抜粋)

今回月で基準値を超えている先行き判断DIの詳細項目は皆無。さらに前回月比ではすべての詳細項目がマイナスを示している。景況感持ち直しへの不安、懸念の表れと解釈できよう。特に「飲食関連」「サービス関連」の落ち込みが大きいが、人の流れが新型コロナウイルス流行前の通常状態に戻るのはしばらく先であるとの失望が出ているものと考えられる。

特別定額給付金の影響失速、天候不順、新型コロナへの不安

報告書では現状・先行きそれぞれの景気判断を行うにあたって用いられた、その判断理由の詳細内容「景気判断理由の概況」も全国での統括的な内容、そして地域ごとに細分化した内容を公開している。その中から、世間一般で一番身近な項目となる「全国」に関して、現状と先行きの家計動向に関する事例を抽出し、その内容についてチェックを入れる。

■現状

・県民宿泊プランのおかげで週末を中心に予約が入っている。しかし、新型コロナウイルスの感染者が増えると途端にキャンセルが増え、予断を許さない状況にある(観光型旅館)。

・入店客数は、前月より増加しているため、売上も徐々に戻りつつある。ただし、新型コロナウイルスの影響で、高齢者の動きはまだ少ない(百貨店)。

・前月と比べて、特別定額給付金の影響は弱くなってきている。今月は前年比104%で着地しそうである。天候不順も景気に影響している。冷蔵庫や洗濯機などの家事関連商材が人気で、好調である(家電量販店)。

・天候不順や新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受けて、7月中旬から回復の動きが失速し始めている(一般レストラン)。

■先行き

・新型車が発売されるため、新型コロナウイルスの影響があっても多少は上向く(乗用車販売店)。

・花火大会を含めた各種イベントなどが中止になっており、その分、来客数減少が見込まれ、販売も減るとみている(コンビニ)。

・新型コロナウイルスの影響で戻りかけた夜の客が再び遠のきそうである。昼の客やテイクアウト販売でしのいでいるが、単価も来客数も下がっている(一般レストラン)。

・Go To Travelキャンペーンは始まったが、新型コロナウイルス感染者も増えてきていて、また振出しに戻らないか怖い(旅行代理店)。

2020年1月分まででは見受けられた消費税率の引き上げや暖冬、米中貿易摩擦の話がほぼ吹き飛び、新型コロナウイルスへの懸念で埋め尽くされている。他方、新型コロナウイルスの影響だけに留まらず、7月中の悪天候、そして特別定額給付金の影響の失速など、複数の要因が景況感の足を引っ張っていることがうかがえる。特に夏のイベントが軒並み中止となったことで、関連業界の失望は大きいようだ。

企業関連でも新型コロナウイルス流行の影響が見受けられる。

■現状

・自動車各社の工場の稼働が進み、関連業界の先行きに明るさが出てきているが、採算ラインに乗るまでには時間が掛かる(金属製品製造業)。

・中小事業者や個人事業主は、セーフティネットや給付金などで資金的には落ち着いているが、肝心の営業面で売上が、春先から今月に掛けて、特に飲食業や旅行業、旅館業中心に売上が落ちており、売上が50%以下の状態が続いている(金融業)。

■先行き

・国から在宅勤務7割の要請が出たため、リモートワークの見直しや、設備投資などで問合せが増えている(通信業)。

・前月と同様に新型コロナウイルスの影響で、生産数減少傾向となっている。まだまだ見通しの付かない状況にあり、生産負荷の減少が続くと考えられる(精密機械器具製造業)。

経済が動き始めたことへの好感触もあるが、人の動きがほとんど止まったままであることから、人の動きが前提となっている業界の苦境が見て取れる。この状況の打開見通しがつかないことへの不安も大きい。

雇用関連でも新型コロナウイルスが大きな影響を与えている。

■現状

・ステイホームの状況下であった4月と比較すると、徐々にではあるが、新店舗オープンに伴う人員募集や営業再開に伴う増員募集の依頼が増えてきている(求人情報誌製作会社)。

■先行き

・新型コロナウイルス感染第2波の影響拡大に伴い、ますます業績が厳しくなるなか、コスト削減による人員削減は継続、拡大する恐れが出てきている(人材派遣会社)。

雇用の観点では新型コロナウイルスの大流行(とそれに伴う各種規制の強化)の再来への懸念が強いことがうかがえる。この問題が解決されれば、「雇用関連」はもちろんだが、他の項目も力強い回復を示すのだろう。

今件のコメントで消費税率引き上げに関するコメントを「消費税」のキーワードで確認すると、現状のコメントで2件(前回月1件)、先行きのコメントで12件(前回月5件)の言及がある。不安や懸念といったネガティブな内容が見られるが、それらですら大部分は新型コロナウイルスの話に付け加える形でのものとなっている。どこぞで主張されている「消費税の増税で財政再建が進むので社会保障への安心感が強まり、消費が活性化される」などとの意見は見当たらない。むしろ消費税率引き下げを望む声すら確認できる。なお「財政再建」は現状・先行きともに一件も言及されていない。

他方新型コロナウイルスに関しては現状で661件(前回月555件)、先行きで956件(前回月707件)。凄まじい言及数で、消費税率の引き上げも米中貿易摩擦も暖冬もすべて吹き飛んでしまった状態。また、直接「新型コロナウイルス」の言い回しではないものの、「緊急事態宣言」「来客数は減少したまま」のような明らかに関連する内容の表現が用いられており、実質的に新型コロナウイルスの影響がほぼすべてと見てもよい。そして内容の性質上、ネガティブな話になるのは当然ではあるが、先行きでは一部で持ち直しへの期待の声も確認できる。

なお「特別定額給付金」については現状のコメントで39件、先行きのコメントで10件が確認できる。肯定的な意見が多いが、効果が薄れるとの指摘や再度の支給を求める声も多々見受けられる。

リーマンショックや東日本大震災を超えるレベルにまで景況感の足を引っ張る形となった新型コロナウイルスだが、結局のところ何らかの形で終息(ワクチンや治療薬の開発、普通の風邪と同レベルまでの弱体化)とならない限り、経済そのもの、そして景況感に大きな足かせとなるのには違いない。世界的な規模の疫病なだけに、一刻も早い状況の回復を願いたいものだが。

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※景気ウォッチャー調査

※DI

内閣府が毎月発表している、毎月月末に調査が行われ、翌月に統計値や各種分析が発表される、日本全体および地域毎の景気動向を的確・迅速に把握するための調査。北海道、東北、北関東、南関東、甲信越、東海、北陸、近畿、中国、四国、九州、沖縄の12地域を対象とし、経済活動の動向を敏感に反映する傾向が強い業種などから2050人を選定し、調査の対象としている。分析と解説には主にDI(diffusion index・景気動向指数。3か月前との比較を用いて指数的に計算される。50%が「悪化」「回復」の境目・基準値で、例えば全員が「(3か月前と比べて)回復している」と答えれば100%、全員が「悪化」と答えれば0%となる。本文中に用いられている値は原則として、季節動向の修正が加えられた季節調整済みの値である)が用いられている。現場の声を反映しているため、市場心理・マインドが確認しやすい統計である。

(注)本文中のグラフや図表は特記事項の無い限り、記述されている資料からの引用、または資料を基に筆者が作成したものです。

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(注)グラフ中では体裁を整えるために項目などの表記(送り仮名など)を一部省略、変更している場合があります。また「~」を「-」と表現する場合があります。

(注)グラフ中の「ppt」とは%ポイントを意味します。

(注)「(大)震災」は特記や詳細表記の無い限り、東日本大震災を意味します。

(注)今記事は【ガベージニュース】に掲載した記事に一部加筆・変更をしたものです。

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ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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