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製造業には紙の図面からデジタルデータへの転換が必要だ

坂口孝則コメンテーター。調達コンサル、サプライチェーン講師、講演家
図面のデジタル化は、調達部門の検索性とアクセシビリティを向上させる(写真:イメージマート)

「調達部門には三種の神器が失われています」。

まったく大げさな表現ではあるものの、その深刻さは重大だ。製造業の調達部門は対外折衝が主な業務だ。しかし、新たな調達品を価格交渉するとき「三種の神器=調達履歴、相見積書、査定価格」が欠落するという。

調達履歴=過去に調達した単価を見れば「この程度の価格ね」と理解し、相見積書=競合他社から入手する価格を「ふむふむ」と確認できる。最後に、査定価格=自らが原価計算した値があれば何重にも確認できる仕組みだ。

しかし、まったく同一品を調達するならまだしも、多くの場合はカスタマイズした調達品を扱う。そうなると、過去の類似品を探すしかない。しかし図面がうまく管理できておらず、相見積書、査定価格と進まない。

冒頭のコメントはそんな調達部門管理者からのボヤキだった。なるほど、製造業の調達部門はいまだスタートラインにも立っていないらしい。

製造業において図面は、製造の根本となる情報を提供し、品質、一貫性、効率性の実現に寄与する。しかし、図面を紙ベースでのみ保管している場合は様々な問題を引き起こす。図面が見つからない、図面のバージョンが混乱している、図面が破損しているなど、これらの問題は製造業の効率性と一貫性を阻害する。

これらの問題に対する効果的な解決策が図面のデジタル化だ。デジタル化は図面を電子フォーマットに変換するプロセスで、これにより図面の検索、アクセス、共有、更新が容易になる。デジタル化は図面の管理を大幅に改善し、製造業の調達担当者にとっての図面管理の難しさを軽減する。

このところ作成された3D図であればCAD上に存在している。しかし厄介なのが過去の2D図だ。設計部門はもとより、調達部門には紙図としてファイルに綴じられ倉庫奥で寝てしまっている。

これら図面のデジタル化は、高度なスキャン技術と図面管理ソフトウェアを利用して行うことができる。ただ、PDFなど単純な手法でもいい。スキャン技術は紙ベースの図面をデジタルイメージに変換し、図面管理ソフトウェアはそれらの図面を一元化し、簡単にアクセスできるようにする。たとえばPDFベースで良ければ、前回に参照した「CADDi DRAWER」(https://caddi-inc.com/drawer/)は一つの選択肢になる。

デジタル化された図面の管理は、図面のバージョン管理とアクセシビリティを強化するだけではない。調達部門からすれば検索性が向上する。調達担当者は、新たな調達品を購入する際に過去の図面と比較し、価格と品質のバランスを最適化することが可能となる。

デジタル化はまた、図面の保管と管理に必要な物理的なスペースを大幅に減らし、紙ベースの図面の紛失や破損のリスクを低減する。データのバックアップと復元機能を利用すれば、データの損失や破損からも図面を守ることができる。

まず図面のデジタル化に必要なリソースとタスクを特定し、それに基づいてプロジェクト計画しよう。デジタル化に必要なハードウェアとソフトウェア、データの保存とバックアップのためのストレージサービスを選定する。

次に、紙ベースの図面をデジタルイメージに変換し、必要な情報を電子データとして保存する。現在ではOCR技術も向上しており、スキャンの品質と精度は費やした投資に見合うものになるだろう。毎日スキャンする必要はなく、週に一度、月に一度など頻度を決めて実施すればいい。図面は宝であり、その宝を活用可能にしておくのは当然のことなのだから。

そこで問題意識に戻ろう。図面を単に検索するだけではいけない。過去の調達履歴から類似品を探すことが重要だった。そこで、仕様を抽出できるソフトウェアを選んでおこう。調達担当者が機能を適切に利用すれば、実効性のある調達決定を実行できる。「実行」が伴わないものは「実効」が伴わないのだ。5分ほど考えたがあまり面白くないギャグだったものの、それはいいとして、図面のデジタル化は調達部門における図面の共有を容易にする。デジタル化された図面は、価格査定の勘所や、相見積書の入手取引先への示唆も与えるだろう。

同時に、図面情報には注意が必要だ。図面情報は製品の設計や機能に関する重要な情報を含んでいる。先に「製造業において図面は、製造の根本となる情報を提供し、品質、一貫性、効率性の実現に寄与する」と述べた。図面とその処理分析データについては、セキュリティを確保する必要がある。そのため、強靭なシステム、適正なパスッワード管理、ログイン権限、さらに。アクセス制御、またシステム内の監査機能の構築などを含む。

また、最終的な目標は、製造業としての自社の競争力を強化することだ。現在、DX(デジタルトランスフォーメーション)なる単語が流行しているが、その先にCX(カンパニートランスフォーメーション)があるべきだ。調達担当者が過去の図面を効果的に利用し、より効率的に調達決定を行うための基礎を築く。その効率化できた時間を、付加価値業務にシフトできるかが鍵となる。

*なおこれはアフィリエイト等の記事ではない

コメンテーター。調達コンサル、サプライチェーン講師、講演家

テレビ・ラジオコメンテーター(レギュラーは日テレ「スッキリ!!」等)。大学卒業後、電機メーカー、自動車メーカーで調達・購買業務、原価企画に従事。その後、コンサルタントとしてサプライチェーン革新や小売業改革などに携わる。現在は未来調達研究所株式会社取締役。調達・購買業務コンサルタント、サプライチェーン学講師、講演家。製品原価・コスト分野の専門家。「ほんとうの調達・購買・資材理論」主宰。『調達・購買の教科書』(日刊工業新聞社)、『調達力・購買力の基礎を身につける本』(日刊工業新聞社)、『牛丼一杯の儲けは9円』(幻冬舎新書)、『モチベーションで仕事はできない』(ベスト新書)など著書27作

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