Yahoo!ニュース

激戦のフィギュアスケート女子五輪代表争い。最有力は紀平梨花、ダークホースは?

折山淑美スポーツライター
松生理乃。2021年10月2日ジャパンオープンの演技(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

 フリープログラムで競い合った10月2日のジャパンオープンでは、4選手がトリプルアクセルに挑戦した女子。昨季から挑戦している樋口新葉(明治大学/ノエビア)は、「GOE(出来栄え)加点をもらえたのは初めて」と喜ぶように2・40点の加点にし、後半のジャンプでミスはあったが136・27点を獲得。また河辺愛菜(木下アカデミー)も「練習で調子が良かったので余裕を持てた」と、2年前の全日本ジュニア以来の成功で134・91点を獲得と次への期待を膨らませた。

 来年2月の北京五輪の日本の女子出場枠は3。これまでの実績からみれば最有力は紀平梨花(トヨタ自動車)だが、カナダを拠点にしたためか10月14日からのアジアンオープントロフィーの出場を取りやめて、初戦は10月29日からのスケートカナダ。18年平昌五輪6位で昨季の世界選手権6位の坂本花織(シスメックス)はトリプルアクセルや4回転挑戦を断念したが、ジャパンオープンからスケートアメリカまで4週連続で試合というハードスケジュールの中で、プログラムの完成度を高めて勝負しようとしている。

 五輪代表争いとなるとそのふたりが若干抜け出している状況だが、他の選手たちもトリプルアクセル含めたプログラムを完成させれば争いに加わる可能性は十分。その争いも激化する予感が、ジャパンオープンでのトリプルアクセル挑戦から見えてきたのだ。

 そんな中、ダークホースとして注目したいのは今季からシニアに移行した松生理乃(中京大中京高)だ。ジュニア2シーズン目だった19~20年に、初参戦のジュニアGPのリガ大会では193・03点で3位になって注目された選手。昨季は全日本ジュニアで初優勝すると、その4日後からのNHK杯では198・97点を獲得して3位になり、全日本選手権は204・74点で4位と安定した結果を出した。

 しなやかで指先まで意識を巡らせた滑りをするのも特徴だが、彼女の持ち味はジャンプの質の良さだ。力をあまり使わずに跳ぶ、回転軸も細いジャンプは完成度も高い。昨年の全日本のSPでは滑り出しで最初のジャンプの前に転倒したが、その後の短い助走で跳んだ3回転ルッツはしっかり加点をもらうジャンプにしている。さらにそのジャンプの特性を生かしてSPでは後半に、フリーでも基礎点が1・1倍になる最後の3本をすべて連続ジャンプにして得点源にする、他の選手にはない強みを持っている。

 ミスが許されないSPでは、連続ジャンプを最後にすると失敗した時はリカバリーできないリスクもあり、ロシア勢のトップはやっているが日本では坂本が昨シーズン途中から挑戦したくらい。またフリーの後半は疲労も出てくるため、多くの選手が後半に連続ジャンプを入れても2本にしている。その構成への挑戦は、あまり力を使わないジャンプで、自信も持つからこそできるもの。昨季のNHK杯と全日本ではSPの連続ジャンプはミスをして4位と7位発進だったが、フリーで盛り返したのはその強みを存分に生かした結果だった。

 その松生は今季はフリーでトリプルアクセルに挑戦中だ。9月の中部選手権に続き、ジャパンオープンでもダウングレードになって基礎点を大きく落とす結果になったが、「試合で右足で立てたのは初めて。トリプルアクセルは練習時間のうち3分の1はやっている」と、前向きな意欲を見せた。さらに目を引くのは、最初でミスをしたのにかかわらず、その後のジャンプは後半の3回転ルッツからの3連続ジャンプのセカンドの3回転トーループが4分の1の回転不足になり、GOE加点が0点に止まったのみという安定感だ。

「自分は坂本花織選手のようにジャンプが特別大きくて上手というわけではないし、宮原知子選手みたいにステップがすごく上手で繊細というわけではなく、これといったものはない。トリプルアクセルを跳ぶことができれば全部がちょうど整うと思うし、それが代名詞にもなると思う。そういう面で点数が伸びればと思って練習しています」

 こう話す松生はS Pでも今季は、後半の連続ジャンプを昨季の3回転フリップ+3回転トーループから3回転ルッツ+3回転トーループにして基礎点を0・66点上積みし、中部選手権では69・48点と70点台を目前にしている。フリーもジャパンオープンではトップの樋口に1・15点差の135・12点で2位だったが、トリプルアクセルを成功させれば140点台中盤も見えてくる。また演技構成点も今は抑えられているが、今季のともに新プログラムだけに滑りこなしてくれば伸ばせる可能性は大だ。

 4年前の平昌五輪は、シニアデビューの坂本が17歳で一気に五輪代表まで駆け上がった。それと同じように17歳で挑む松生が、シニア初の海外勢との戦いになる11月のNHK杯やロステレコム杯から、どんな道を歩みだすか楽しみだ。

スポーツライター

1953年長野県生まれ。『週刊プレイボーイ』でライターを始め、徐々にスポーツ中心になり、『Number』『Sportiva』など執筆。陸上競技や水泳、スケート競技、ノルディックスキーなどの五輪競技を中心に取材。著書は、『誰よりも遠くへ―原田雅彦と男達の熱き闘い―』(集英社)『船木和喜をK点まで運んだ3つの風』(学習研究社)『眠らないウサギ―井上康生の柔道一直線!』(創美社)『末続慎吾×高野進--栄光への助走 日本人でも世界と戦える! 』(集英社)『泳げ!北島ッ 金メダルまでの軌跡』(太田出版)など。

折山淑美の最近の記事