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大技2本成功で、ジュニアGPファイナル連覇。島田麻央が目指す、次へのステップ。

折山淑美スポーツライター
島田麻央。12月9日、試合から一夜開けた北京の会場。

 北京で開催されたフィギュアスケートGPファイナル2日目、12月8日のジュニア女子フリー。大会連覇を目指す島田麻央(木下アカデミー)は、笑顔を見せて滑りきった。

「昨日の試合は笑顔で滑ったり、終わることができなかったので、今回のフリーは絶対に笑顔で滑って笑顔で終われるように、というのが目標だったので笑顔で滑りました」

 こう話す島田は、前日のSPでは涙を流した。ひとり前のジア・シン(韓国)が69・08点を出したあとの滑走。ジュニアGP2戦では自己最高の73・78点を含め、2戦とも73点台を出している彼女にすれば、余裕を持って戦える状況だった。

 だが前半のダブルアクセルと3回転フリップ+3回転トウループを確実に決めたあと、後半の3回転ルッツは「体の調子がよくて練習の時より高く上がったかんじがあった」と、回転し過ぎた感じでステップアウトのミス。2位ながらも1位に0・81点差の発進だったが、「両手を上げるルッツは得意だと思っていたジャンプだったし、2大会連続ショートでミスしてしまったのが悔しい」と話していた。

 前戦の全日本ジュニアでは3連覇は果たしたが、その大会で決まるユース五輪代表を意識し、SPでは連続ジャンプでミスをして63・34点の4位発進という想定外の結果だった。「連覇は気にしなかったけど、全日本ジュニアで大きなミスをしてしまったので、今日は『絶対にミスをしてはいけない』という緊張感があった。ショートでミスをしないように練習してきたが、その成果を出せなかったのが悔しい」と言う。

それが涙の要因だった。

 その失敗に加え、当日朝の公式練習の手応えが悪かったことで「もう思い切りやるしかない」と気持が吹っ切れたことが、フリーの笑顔につながった。

 ユース五輪出場とともに掲げた今季の目標は、フリーでトリプルアクセルと4回転トウループ、両方のジャンプを成功させることだった。ジュニアGP大阪大会と全日本ジュニアはトリプルアクセルは成功したが、4回転トウループはともにダウングレードで転倒。ジュニアGP2戦目のアルメニア杯ではともに回転不足と判定され、4回転は転倒だった。

 だが今回、直前の6分間練習では「今日の朝の方が良かったと思う」といいながらもトリプルアクセルはしっかり降りると、4回転トウループも1回転倒したあとに若干の回転不足ながら着氷し、「悪くはない」という手応えを得た。それが本番につながり、最初のトリプルアクセルは1・60点の加点で、4回転トウループは2・17点の加点の成功ジャンプにした。

 その喜びもつかの間、その後にミスは出てしまった。次の連続ジャンプの最初の3回転ルッツがアンダーローテーションになり、後半の3連続ジャンプの2番目の3回転トウループが4分の1の回転不足。そして3回転ループは1回転になってしまった。

 これまでの島田は前半の大技のジャンプでミスが出ても、その後のジャンプをノーミスで跳ぶことで高得点を出し続けていた。シニアでもなかなかいない、ジャンプの安定感。その理由を「すごく自信があるというわけではないし、練習でも絶対に失敗しないわけではないけど、そこを失敗していたら挑戦はできないので‥‥。最初のジャンプが失敗しても成功しても、そこからもう一回違う演技が始まってと思って毎回やるようにしています」と話していた。

 今回は「2本成功したことがなかったので、それに少し動揺してしまったという感じで。逆にその後もノーミスにしたいって思いが強くなってきて力が入ってしまいました」という理由のミスだった。

 そんな悔しさがあっても、笑顔は自然にこぼれだしていた。「2本揃えることをずっと目標にしていて。それがずっと出来なくて悔しい思いをしても、続けてきてよかった。海外の試合で認められたことがなかったので、それができてすごく今は嬉しい」と話す。それは本心からの笑顔であり、15歳の少女らしい自然のものだった。

 以前のルールなら、来季からシニアに移行できる年齢になっていた島田。22年北京五輪後の段階的な年齢制限の変更で、シニアに上がれるのはシーズンインする7月1日時点で17歳になっている、26年ミラノ・コルチナダンペッツォ五輪の翌シーズンからになる。

 浅田真央やキム・ヨナが誕生日の関係で06年トリノ五輪には間に合わなかったという例もあるが、周囲から見れば「残念」と思えるような状況だ。

 だが島田はそれを悔しがることはない。「シニアに上がるまですごく時間があるので、いろいろなジャンルの曲を滑れるようになりたいなと思うし、スケーティングでもシニアの選手のように1歩の伸びがあるスケーティングが出来るようにしていきたい」とジックリ成長し、自信を深めてシニアの舞台にいくことを冷静に意識する。

 これまで15歳でシニアに上がった女子選手たちは、その舞台で戦うために大人っぽさを演じることを求められ、急がされていたような部分もある。だが今の島田にはまだ、急ぐ理由はない。ジュニアで結果を出しながら、自身の精神的な成長とともに表現の世界もジックリと広げていける。

 そのための新たな第一歩を、今回のトリプルアクセルと4回転トウループの成功で踏み出した。

スポーツライター

1953年長野県生まれ。『週刊プレイボーイ』でライターを始め、徐々にスポーツ中心になり、『Number』『Sportiva』など執筆。陸上競技や水泳、スケート競技、ノルディックスキーなどの五輪競技を中心に取材。著書は、『誰よりも遠くへ―原田雅彦と男達の熱き闘い―』(集英社)『船木和喜をK点まで運んだ3つの風』(学習研究社)『眠らないウサギ―井上康生の柔道一直線!』(創美社)『末続慎吾×高野進--栄光への助走 日本人でも世界と戦える! 』(集英社)『泳げ!北島ッ 金メダルまでの軌跡』(太田出版)など。

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