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「息子の過剰報道はやめて」皇太子妃がマスコミに手紙、マリウスのプロフィールが王室公式HPから削除

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会理事
皇太子結婚式、シングルマザーだった皇太子妃と連れ子のマリウス(写真:ロイター/アフロ)

「公人ではない息子への過剰報道はやめてほしい」。12日、メッテ・マーリット皇太子妃がノルウェーのメディアに向けて公開した手紙が、注目を集めている。

かつて、一般人であったマーリット皇太子妃。ホーコン皇太子との結婚前には、別の男性との間にひとりの子どもを身ごもっていた。その息子マリウス・ホイビーには王位継承権はないが、公式な王室のイベントには姿を現すこともある。皇太子と皇太子妃の間には、その後、王位継承権をもつ2人のこどもが生まれる。

13日に20歳を迎えるマリウス。息子の将来を心配して、母親の皇太子妃は、マスコミに対して、過剰な報道をやめるように手紙を書いた。しかし、現地のマスコミからは疑問の声があがっている。

皇太子妃自身は麻薬にも手を染めたことがある。ノルウェー王室と現地マスコミの関係は深く、結婚前には批判的な記事が目立った。皇太子妃が涙を流しながら国民に謝罪したことで、現在はロイヤルファミリーの一員として、国民からの信頼も厚い。

しかし、権力者への批判体制が強く、王制廃止論が時に議論として浮かびあがるノルウェーでは、王室の日常生活に対するマスコミの目線は厳しい。

「私生活を尊重してほしい」と王室は望む。しかし、国のお金で生活しているため、税金の使い道に市民やマスコミからは厳しい監視の目が光る。

皇太子妃はノルウェーのマスコミに向けて、これは1人の母親としての責任だと書いた。

これまでマリウスは、公の場で定義することが難しい立場に立ってきました。私たちが結婚した時の、普通とは言い難い人生の選択のシンボルとなってしまいました。同時に、妹や弟のように、公的な義務はありません。マリウスは公人ではないのです。

マリウスが幼かった頃から、記者たちは私たちの家の外に張り付いていました。

ここ数年間、マリウスはノルウェーのメディアからの圧力にさらされてきました。

マリウスはこのような人生を望んではいません。母親の責任として、一部のノルウェーのメディアに、私はお願いをすることを選びました。マリウスが望んではいない注目を浴びせることを、やめてください。それが原因で、マリウスは留学することを決めたのです。明日、海外へと旅立つ息子を私は誇りに思います。

出典:王室公式HP「マリウス 20歳」

偏見のこもった小さな空間に、若者を無理やり押し付けないでほしいと、皇太子妃は手紙につづり、これまでの報道の在り方を批判した。

手紙の一部で名指しされたのは、国営放送局と(ゴシップ雑誌の)『Se og Hor』。しかし、皇太子妃が書いた「一部のメディア」が誰を意味し、どのような記事がマリウスを悩ませたことについては、明記されていない。

結果、地元のメディアはすぐさま批判のコメントをだした。

「1人の母親がこのような手紙を送ることは、全く問題はないと思います。しかし、我々が何をしでかしてしまったのかさえもわからずに、非難されていることは理解しがたく、対応のしようがない。ノルウェーのように、王室の子どもをここまで丁寧に扱う国は少ない」と、ノルウェー編集者協会のリーダーであるオイ氏はダーグブラーデ紙に語る。

複数の現地報道では、母親としての心情は理解できるが、マリウスが圧倒的な権力をもつ王室の一員であることには変わりなく、一定の注目度は避けようがないとしている。

ノルウェーでは、個人が報道機関にプライバシーなどを傷つけられたと感じた場合は、第三者機関に苦情を申し立て、審査されることがよくある。しかし、TV2によると、2013年以降、王室はそのような届けをだしていない。

マリウスのページ削除を説明する王室公式HP Photo:screenshot
マリウスのページ削除を説明する王室公式HP Photo:screenshot

この日を境に、マリウスの名前や顔写真は、王室の公式HPからは消去されることとなった。今後、家族の集まりとしての自然な形を除いて、王室の公式行事には参加しないとされている。

マリウスのここ最近の話題といえば、ノルウェーの人気ネットドラマ『SKAM』第二シーズンの最終話に、エキストラとして出演していたことだろう。また、一般市民がよく使う、様々な商品が売買・譲渡されているサイトで、王室の公式の住所を掲載して、高価な私物を売っていたことや、一般市民である恋人の存在も報道された。

国営放送局NRKの記事が掲載されたフェイスブックのコメント欄には、読者から「母親なら、誰もが同じことをしたでしょう」、「頑張れ、マリウス!」という応援の声が殺到。同時に、「これまで息子を公の場に自分たちで出しておいて、その結果を考えなかったのでしょうか」と、マスコミだけを批判する姿勢に疑問の声も書き込まれている。王室のフェイスブックページには、「お誕生日おめでとう」というコメントが続いている。

王室公式HPでは、マリウスの留学先はカリフォルニアとされている。

ノルウェー国民ショック! 王室の選択

Text: Asaki Abumi

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会理事

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信16年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。北欧のAI倫理とガバナンス動向。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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