SNSを駆使したノルウェーの高校生ドラマ『SKAM』が北欧で人気沸騰中 テレビの常識を打ち破る

「恥」という意味のノルウェーの高校生ドラマ『スカム』が北欧諸国で大きな話題を集めている。ノルウェーのテレビドラマの歴史において、間違いなく記録に残るシリーズとなるだろう。
2015年9月にスタートした同番組は、現在3シーズン目を迎えている。オスロにある高校に通う10代の若者たちが主人公で、シリーズごとに主役が変わり、若者たちのリアルな日常生活や社会問題が描かれている(以下、一部ネタバレあり)。
シーズン1では女子高生のエヴァが主役で、彼氏との恋愛や友達作りの難しさ、いじめがテーマ。宗教、外見のコンプレックス、精神的ストレスも頻繁に取り上げられる。特に話題を集めたシーズン2では、女子高生のノーラの周囲で起こる恋愛、そして強姦が焦点に。レイプや写真による恐喝など、現地の若者にとっては他人ごとではない出来事を描写。登場人物の対応に、ノルウェーの警察署がSNSで喝采したほどだ。ノーラの相手役である、格好いい男子高校生ウィリアムは、女性ファンたちから圧倒的な支持を得た。

シーズン3では、男子高生のイーサックが主人公。同性愛者の自分に葛藤し、女性を無理やり好きになろうとしたり、周囲に打ち明けるまでの悩みなどが表現されている。自然なキスシーンを含め、テレビや映画などで、男性同士の恋愛がこれほどまでに「普通に」描かれたことはなく、多くの人々に勇気を与えるとして、LGBTIの団体などから大絶賛されている。

褒めたたえたのは若者たちだけではない、政治家たちも「スカム見ましたか?」と様々な場で話題にするほどだった。
各シーズンは10~12話で構成されており、各回の放送時間は約20分ほどと短い。公式HPでは、ほんの数分の映像やSNSでの登場人物たちとのやり取りが毎日更新されており、それがまとまって金曜日に放送される。
フェイスブックメッセンジャーやインスタグラムでの会話のやり取りは、現在の若者らしい、今のコミュニケーションといえる。テレビを見るだけではなく、公式HPやインスタグラムなどを毎日少しずつチェックするという、新しいドラマやメディアの楽しみ方は、これまでのドラマの常識を打ち破っている。
テレビの「当たり前」を無視した国営放送局
また、この大人気ドラマを製作しているのが「国営放送局」NRKだということもすごい。日本でいうNHKだが、大ヒットドラマが公共放送から発信され、若者の飲酒、同性愛者、レイプ、イスラム教徒の同級生という難しいテーマを取り上げている。カップルの性行為シーンも自然なものとして放送される。同局は、これまでも未編集の同じ映像を延々と流し続ける「スローテレビ」などを生み出してきた。
『スカム』は、すでにいくつもの「今年最高のテレビドラマ賞」やテレビ業界における「イノベーション賞」などを総なめにしている。
北欧各国を中心に欧州他国でもネット視聴者が増加しているようだ。だが、飲酒シーンが多く、社会問題を多く扱っていることから、文化的な違いで放送の権利購入にためらう国があるとNRKは伝えている。ネットを使いこなすことで、その面白さが実感できる構成のため、スマートフォンやSNSが普及している国から徐々に浸透していくのではとも期待が高まる。
筆者の周りでもスカムファンが圧倒的に多い。金曜日になると、フェイスブックのタイムラインがスカムの感想を書いた投稿で埋まりがちだ。
アストリ・フグレヴォーグさん(23)は、シーズン2でノーラとウィリアムのカップルのとあるシーンを見た後、感動して泣いている姿を写真に撮られていた。演技ではないこの写真だが、スカムが大好きなノルウェーの人たちをうまく象徴している。

「私がスカムを好きな理由は、すごくリアルだから。たくさんの人が、怖いぐらいにドラマのシーンをどこかで経験したことがあるし、知っている。大事な議論のテーマも含んでいて、それがメディアで話題になることはよいことだと思う。若い人たちが普段なにを思っているか、それを社会に伝える手助けをしてくれるドラマ。あと、テレビは今人気がない時に、短い映像シーンや携帯メールで作るっていうのも面白い」。

アグネス・ナーラン・ヴィリュグラインさん(19)は高校を卒業したばかり。「スカム大好き!このドラマは若者の姿をそのまま表現できているの。それは、“パーフェクトじゃない”青春時代。いい時も悪い時も、ありのままの若者が描かれている。同性愛者がカミングアウトすることだって、今では大したことではない。日々のアップダウンのニュアンスがよくでている」。
ノルウェーの高校生って、本当にこんな生活をしているの?
ドラマでは18才以下の未成年が飲酒をしているシーンが多い。筆者が話した何人かのノルウェー人たちは、「人にもよるけれど、15~16才からビールを飲もうとする人は多いかも」、「俺はもっと飲んでた」と話す。親がいない自宅で飲み会をしているシーンも、「ノルウェーでは家庭環境がめちゃくちゃな人もいるから、保護者の目がないのは不思議じゃないよ」という意見が。
ノルウェーの若者の日常生活や心理がたくさん詰まっているというドラマ。今後もシリーズは続くのではないかと見られており、当分スカムの話題は収まりそうにない。
筆者には、よくノルウェーのスローテレビについて日本のメディア関係者から問い合わせがくるのだが、今後は『スカム』もテレビ業界の常識を破った一例として参考になるのではないかと思う。
日本では放送される日がくるかはわからないが、「北欧」の違う一面をみるには良い資料となりそうだ。
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Text: Asaki Abumi