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豊島将之九段(32)堂々の王座挑戦権獲得! 大橋貴洸六段(29)大胆な金上がりを見せるも実らず

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 7月25日。大阪・関西将棋会館において第70期王座戦挑戦者決定戦▲豊島将之九段(32歳)-△大橋貴洸六段(29歳)戦がおこなわれました。棋譜は公式ページをご覧ください。

 10時に始まった対局は20時15分に終局。結果は123手で豊島九段の勝ちとなりました。

 豊島九段は2014年以来、8年ぶりの王座挑戦。永瀬拓矢王座との五番勝負は8月31日に開幕します。

豊島九段、無冠返上に向けてまた前進

 大橋六段は今年度ここまで11勝2敗。その勝ち星の中には今期王座戦本戦トーナメントの本命と見られた藤井聡太竜王への白星も含まれています。好調の要因を問われ、大橋六段は次のように語っていました。

大橋「なにかこう明確なものがあるのかちょっとわからないんですけど。一局一局、せいいっぱいやった結果かなあ、というふうには思ってます」

 本局がおこなわれたのは関西将棋会館5階、御上段(おんじょうだん)の間。夏らしく、外からは蝉の鳴く声が聞かれました。

 先に対局室に入ったのは豊島九段。4人の永世名人の書が掛かる床の間を背にして上座に着きます。かたわらにおいたのは「お~いお茶」のペットボトル。現在はお~いお茶杯王位戦七番勝負で藤井聡太王位に挑戦中です。

 独特のファッションセンスでも注目されている大橋六段。本局では緑のジャケットに、ピンクのパンツ姿でした。

 両対局者が駒を並べ終わったあと、記録係が振り駒をします。

「歩が3枚出ましたので、豊島先生の先手番でお願いします」

 朝9時。両対局者は「お願いします」と一礼して対局開始。豊島九段はまず、飛車先の歩を伸ばしました。

 4手目。大橋六段は角筋を止めます。以下は定跡形をはずれた、相居飛車の戦いとなりました。

 大橋六段は左美濃に組みます。そこまではしばしば見られる駒組。しかしそこから22手目、金を中段へと上がったのはなんとも大胆でした。

 こうして金を前線へと押し上げていく構想は、なかなか見られません。タイトル初挑戦がかかる大一番で、大橋六段は観戦者を沸かせる指し回しを披露しました。

豊島「△5四金から積極的に動かれて、なんかあまり自信のない立ち上がりでした」

 大橋六段は中段の金と、飛車を一つ横に寄せた「袖飛車」で攻めていきます。金を7五にまで進め、角金交換の駒得という戦果を得ました。

大橋「角と金の交換になったあたりで(玉形は)薄いんですけど、駒得は駒得なので。後手番としてはまずまずという気はしていたんですけど」

 豊島九段はバランスを崩さず、細かくポイントを返していきます。63手目。豊島九段は持ち駒にした金を、大橋陣に打ち込みます。

 これもまた目をひくような金です。遊んでしまうおそれがあるので、成算がなければ指せません。しかしこの場合は最善手だったか。進んでみると、形勢は豊島九段よしとなりました。

大橋「あまり指したことがない将棋だったので、よくわかんなかったところは多かったんですけど。ただ、少し形勢というか、模様がよくなったところもあったとは思うので。そのあたりでうまく指しきれなかったのかな、っていうところで。ちょっとそのあたりが反省点かなという」

 豊島九段が打った金は遊ばずうまくはたらいて、居玉のままの大橋玉を寄せるのに役立ちました。

豊島「(89手目)▲6三歩打って、そうですね、まあなんか、けっこう迫れる形なのかな、と思ったんですけど。まあでもなんか、こちらの玉もけっこう危ないので、よくわからなかったです」

 豊島玉も危ない形となりましたが、広い右側に逃げ出してつかまらない格好に。最後は豊島九段が一手の余裕をいかして大橋玉を受けなしに追い込み、終局となりました。

 ここまで快進撃を続けてきた大橋六段。最後は厚い壁にはばまれて、惜しくもタイトル初挑戦を逃すことになりました。しかし今後もコンスタントに、各棋戦の上位に食い込んでくる存在となるでしょう。

大橋「もうちょっとうまくなんかできたのかなという本局の内容だったので。そうですね、次に活かしていけたらなと」

 豊島九段は堂々の挑戦権獲得です。

豊島「今期(本戦トーナメントが)始まったときは、挑戦とか、そういうのはけっこう難しい感じなのかな、と思っていたんですけど。今期に入ってからは思ったよりか、成績が出ているのかな、という感じがしていて。挑戦が決まったので五番勝負に向けてしっかり取り組みたいと思っています。永瀬さんは鋭い攻めと粘り強い受けと、両方兼ね備えているイメージで。五番勝負は厳しい戦いになると思いますけど、しっかり準備して臨めたらと思います」

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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