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永瀬拓矢九段、藤井聡太王将への挑戦権獲得 王将戦リーグ・プレーオフで西田拓也五段に勝利

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 11月25日。ALSOK杯第74期王将戦挑戦者決定リーグ・プレーオフ▲西田拓也五段(33歳)-△永瀬拓矢九段(32歳)戦がおこなわれました。

 10時に始まった対局は18時40分に終局。結果は118手で永瀬九段の勝ちとなりました。

 永瀬九段は藤井聡太王将(22歳)への挑戦権を獲得。七番勝負第1局は1月12日・13日、静岡県掛川市・掛川城二の丸茶室でおこなわれます。


 永瀬九段は2020年度以来の七番勝負登場となります。

 藤井王将(七冠)と永瀬九段は4回目のタイトル戦番勝負での対決となります。


永瀬「少し前から藤井さんと2日制を指したことないなっていうのに気づきまして。指したいなというふうには思っていたので。そこで結果を出すことができてよかったなというふうに思います。藤井王将と2日制を指していないということは、七番勝負を指していないということですので。これまでのタイトル戦が五番勝負でしたので、また少し準備の仕方が変わる番勝負になるんじゃないかなというふうに思います」

 一次予選、二次予選を経て初のリーグ入りで旋風を巻き起こした西田五段。プレーオフまで進みながら、惜しくも届きませんでした。

西田「(本局は)自分なりに、それなりにがんばって将棋指せたと思うんですけど。力及ばずという感じでした。(プレーオフ進出は)もうできすぎですね。(来期)せっかく残留してまたチャンスがあるということで。また来期もがんばりたいと思います」


西田五段、得意の三間飛車で挑む


 「本割」のリーグ戦は事前の抽選により、あらかじめ先後が決められています。そちらの対局では、振り飛車党の西田五段は先手で四間飛車。永瀬九段は居飛車穴熊で、途中に致命的なうっかりがあり、西田五段快勝となりました。

 プレーオフでは振り駒がおこなわれます。記録係が歩を5枚振った結果、表の「歩」が2枚、裏の「と」が3枚出て、西田五段の先手となりました。

 本局、西田五段が選んだのは三間飛車。対して永瀬九段はやはり居飛車穴熊です。西田五段は左端9筋から桂を跳ねて、相手の飛車先の歩をかすめ取る手法を選びます。

西田「ずっと難しいというか、よくわからなくて。午前中も互角なのかなとは思ってました」

 37手目、西田五段はじっと5筋の歩を突きました。

永瀬「(37手目)▲5六歩△2二銀までは予定だったんですけど。▲5六歩が、指されてみると△8四飛車▲6五歩の展開がちょっと、読みでは成算が持てなかったので。▲5六歩とされてみて、指す手が難しいんだなというふうに思いました」「▲5六歩とされた局面が一手難しかったですし。ちょっと本譜では(38手目)△8三飛車は変な気がしましたので。そこらへんを精査してみたいなというふうに思います」

 昼食休憩が終わり、対局が再開された直後の41手目。西田五段が角筋を開いて角交換がおこなわれ、本格的な戦いが始まります。

西田「ずっと互角というか。そんな自信があるわけでもなかったですけど。別にわるいかもわからないし。いい勝負かなと思ってました」

永瀬「全体的にうまく指されているような感じがしていて。こちらは神経を使って、バランスを取れるかどうかの展開かなというふうに思っていました」

 47手目。飛車先を通す銀引きも有力そうな局面で、西田五段は駒台の角を自陣に据えます。永瀬陣の香取りで、これもよさそうな手。対して永瀬九段が軽く歩を突き出して角の利きを止めたのがうまい手段で、西田五段の角の動きは封じられることになりました。

西田「(▲4六角の代わりに▲6七銀引きは?)それももちろん考えました。銀引きには△8九角という手がちょっと気になったんですけど。そのへんは調べてみないとわからないですね。本譜もまずかずかと思ったんですけど。△5五歩からうまく対応されて、難しかったです」

永瀬九段、プレーオフを制す


 68手目。永瀬九段は穴熊を構成する金を上がり、相手の飛車にぶつけます。さらに72手目、持駒の銀を自陣に投入して、相手の飛角を圧迫しながら穴熊を強化します。受けに特長のある永瀬九段らしい指し回しで、形勢は次第に永瀬ペースとなっていきました。

永瀬「(受ける代わりに攻めるのは)ちょっと難しいところあると思ったんですけど。ちょっとまずい可能性もあるような気がしていたので。こちらとしてはなにか(相手からの)端攻めをうまくケアできないとわるくなってしまうので。そこらへんを注意して指していました」「(飛角両方の利きを止めるため)△3五歩と打ちたいんですけど、現状は▲同角とされて。飛車角いますので。△3五歩をどう実現するかという考えだったんですけど。△4四銀とすると△3五歩という手が実現するので、そういう考えのプロセスではありました」

西田「▲4四銀と打たれるのはかなり、こちら見えてなくて。その手を見てなにか・・・。それまではむしろ、ちょっと指せてるのかぐらいの気持ちでいたんですけど。銀打たれて」

 78手目。永瀬九段は相手のと金で当たりになっている自陣の桂を逃げず、相手陣の香を取ります。これも好判断でした。

西田「▲7一歩成に(△9八馬と)香車取られて、お互い桂香取り合う将棋。まあそれで(相手の)馬が手厚いので。ちょっとそこらへんで自信がなくなってきました。▲7一歩成に(△9三桂と)桂馬ぶつけられるものだというのもあって。そうじゃなくて、単に△9八馬と(香を)取られるのも、ちょっと軽視してて。そのへんで誤算があって、苦しくなったのかなと思います」

 永瀬九段は自陣の穴熊の堅さをキープしながら、少しずつ優位を広げていきます。挑戦権がかかった大一番。西田五段は辛抱を重ねてチャンスを待ち続けます。

 109手目。永瀬九段は飛車で質駒の桂を取ります。この手が気持ちのよい決め手となりました。西田五段が飛車を取り返してくれば、西田玉は詰みます。

永瀬「△8五飛車と桂馬を取ることができましたので。駒得で攻める形が見込める形になって、指せている可能性があるかなというふうに思いました」

 西田五段は飛車を取ることなく粘ろうとしましたが、永瀬九段が押し切って、118手で勝利を収めました。

 西田五段に勝って、本割での借りを返した形の永瀬九段。2020年度と同様に、5勝1敗でのプレーオフを制して、挑戦権を獲得しました。

 また永瀬九段にとっては、14回目のタイトル戦登場となります。

 将棋界の歳時記では、王将戦七番勝負が始まると、将棋界は年度終盤戦を迎えます。寒い季節ではありますが、今期も熱戦が期待できそうです。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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