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9月20日から接種開始 XBB.1.5対応ワクチンの有効性と安全性は?

忽那賢志感染症専門医
(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

2023年9月20日から、オミクロン株XBB.1.5対応ワクチンの接種が始まります。

このワクチンは、現在広がっている変異株にはどれくらい効果が期待できるのでしょうか。

XBB.1.5対応ワクチンは9月20日から接種開始

XBB.1.5対応ワクチンの接種スケジュール(厚生労働省資料より)
XBB.1.5対応ワクチンの接種スケジュール(厚生労働省資料より)

2023年9月20日からXBB.1.5対応ワクチンの接種が開始されます。

生後6ヶ月以上を対象とした新型コロナワクチンが、全てこのXBB.1.5対応ワクチンに切り替わります。

これまではオミクロン株対応2価ワクチンの接種開始後も初回接種については従来株対応のワクチンを接種することになっていましたが、今後は初回接種もこのXBB.1.5対応ワクチンに切り替わります。

また、今回は高齢者や基礎疾患のある方だけでなく、持病のない若い方も接種可能となっています。

最後の新型コロナワクチン接種から3ヶ月以上経過していれば接種できます。

なお、2024年3月31日までは自己負担なしでの接種となります。

接種には接種券が必要となりますが、配布については自治体によって対応が異なりますので、お住まいの自治体にご確認ください。

XBB.1.5対応ワクチンの有効性は?

XBB.1.5およびXBB.1.16に対する、XBB.1.5対応ワクチンおよびXBB.1.5+BA.4/5 2価ワクチン接種前後の中和抗体価の推移(FDA資料より筆者作成)
XBB.1.5およびXBB.1.16に対する、XBB.1.5対応ワクチンおよびXBB.1.5+BA.4/5 2価ワクチン接種前後の中和抗体価の推移(FDA資料より筆者作成)

2022年9月から接種開始されたオミクロン株対応ワクチンは、2価ワクチンと呼ばれるもので、野生株(流行初期の新型コロナウイルス)とオミクロン株(BA.1またはBA.4/5)の両方のスパイク蛋白の設計図を持ったmRNAワクチンでした。

今回承認されたXBB.1.5対応ワクチンは、2価ワクチンではなく再び1価ワクチンに戻っています。

これは、現在広がっているXBB系統の変異株に対しては、2価ワクチン(XBB.1.5+BA.4/5)よりもXBB.1.5対応の1価ワクチンの方が、より多くの中和抗体を産生することが示されたためです。

現時点では「感染/発症予防率 ◯◯%、重症化予防率 ◯◯%」という現実世界における具体的な有効性については数値として出てきていませんが、この結果からはXBB系統に対して感染や発症、そして重症化を防ぐ効果がある程度期待できるものと考えられます。

特に、重症化リスクの高い高齢者や基礎疾患のある方は、重症化を防ぐために定期的なワクチン接種が推奨されます。

種々の変異株に対するXBB.1.5対応ワクチン接種前後の中和抗体価の推移(doi: https://doi.org/10.1101/2023.08.22.23293434より筆者作成)
種々の変異株に対するXBB.1.5対応ワクチン接種前後の中和抗体価の推移(doi: https://doi.org/10.1101/2023.08.22.23293434より筆者作成)

懸念されるのは、現在主流となっている変異株であるEG.5系統や、これからの拡大する可能性のあるBA.2.86に対しても、このXBB.1.5対応ワクチンは効果が期待できるのか、ということです。

XBB.1.5対応ワクチンを接種する前後で、これらの変異株に対する中和抗体がどれくらい増えるのか検討した研究がありますが、EG.5系統、そしてBA.2.86に対しても十分な中和抗体価の上昇が得られたという結果でした。

このことからは、XBB.1.5対応ワクチンはEG.5系統にもBA.2.86にもある程度効果が期待できると考えて良いでしょう。

過去に感染したことのある人も接種する意義はある?

ハイブリッド免疫の考え方(DOI: 10.1126/science.abj22より)
ハイブリッド免疫の考え方(DOI: 10.1126/science.abj22より)

最近の抗体保有率の調査によって、日本に住む人の4割以上の方がすでに新型コロナに感染したことがあると考えられています。

特にオミクロン株に感染した人は、少なくとも3ヶ月程度は再感染のリスクが低くなります。

しかし、感染した日から時間が経つと徐々に再感染しやすくなっていきます。

すでに感染したことがある人も、ワクチン接種によってハイブリッド免疫と呼ばれるより強固な免疫を得ることができます。

XBB.1.5対応ワクチンの副反応の頻度は?

XBB.1.5対応ワクチンの副反応(CDC. ACIP資料: Moderna - Sept 12 2023 ACIP - 2023-2024 COVID-19 Vaccine_ACより)
XBB.1.5対応ワクチンの副反応(CDC. ACIP資料: Moderna - Sept 12 2023 ACIP - 2023-2024 COVID-19 Vaccine_ACより)

XBB.1.5対応ワクチンは、従来のmRNAワクチンと同じ作用機序を持ったワクチンであり、ターゲットとなっているスパイク蛋白が変わっただけのものです。

したがって、副反応についてもこれまでのmRNAワクチンと同様の副反応が、ほぼ同じ頻度で報告されています。

今回のXBB.1.5対応ワクチンによる心筋炎、心膜炎といった稀な副反応の頻度についてはまだ明らかになっていませんが、これまでの報告では初回接種の2回目の接種が最も多く、3回目は2回目よりも頻度が低く、4回目以降は報告頻度も極めて稀となっています。

ワクチン接種後も感染予防を心がけましょう

XBB.1.5対応ワクチンの接種により、一定期間は感染予防効果が高まることが期待されますが、完全なものではないため、ワクチン接種をしても感染してしまうことはあります。

流行状況に合わせて、手洗い・マスク着用など基本的な感染対策は続けるようにしましょう。

手洗い啓発ポスター(羽海野チカ先生作)
手洗い啓発ポスター(羽海野チカ先生作)

感染症専門医

感染症専門医。国立国際医療研究センターを経て、2021年7月より大阪大学医学部 感染制御学 教授。大阪大学医学部附属病院 感染制御部 部長。感染症全般を専門とするが、特に新興感染症や新型コロナウイルス感染症に関連した臨床・研究に携わっている。YouTubeチャンネル「くつ王サイダー」配信中。 ※記事は個人としての発信であり、組織の意見を代表するものではありません。本ブログに関する問い合わせ先:kutsuna@hp-infect.med.osaka-u.ac.jp

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