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会社を辞める理由を「昔から●●●がやりたかった」とウソついてもいいが、その後に大切なこと

横山信弘経営コラムニスト
(写真:アフロ)

私は企業の現場に入って目標を絶対達成させるコンサルタントです。そのため、これまでの組織文化を破壊するぐらいの改革をするケースが多々あります。「馴れ合い」になっていることをただし、「ぬるま湯」的な社風を引き締めることが多い。ですから、組織内に多くの「衝突」を生み出します。ただ、「ドラマは葛藤と衝突でできている」と言われるように、多くの衝突や軋轢を乗り越えると、組織のメンバーたちはドラマチックな体験をします。最終的にはみんな笑顔になり、組織の結束力もいっそう高まります。

ただ、その過程で、どうしても新しいやり方に慣れず、「辞めさせてください」と言ってくる人がいます。退職をほのめかすのです。そのときの常套句がコレ。

「実は、昔から私はアパレル関係の仕事に就きたかったのです。この会社に入るとき、ITの知識も必要だろうと思ったのですが、私ももうすぐ28歳。どうしても夢を諦めたくありません。転職するなら今しかない。そう思いました。大変お世話になりましたが、退職することを決めました」

ポイントは、3つ。

● 今とは全然違う業種の仕事に就きたい、と言いだす

●「昔から考えていた」と言うが、ほとんどその事実を誰にも明かしていない

● 日頃から仕事で活躍していない

こういう言葉を聞かされた上司、経営者は、まず驚きます。何に驚くかというと、「そんなこと初めて知った」からです。以前から、

「30歳になったら、実家の印刷会社を継げと言われるかもしれません」

と言っている部下が、「やはり実家の印刷会社を継ぎたいと思います」と言ってくるなら上司も心の準備ができています。

ところが、日ごろから「いずれ課長のようになりたい」とか「いつか新しい商品を開発して会社に貢献したい」などと言っていた部下が、

「実は、昔から建築に憧れていたんです。住宅関係の仕事をやりたいので、辞めさせてください」

「今まで一度も言ったことはありませんが、実は、昔から人に奉仕する仕事をやってみたいと思っていました。そこで、理学療法士になることに決めました。退職します」

などと突然言ってくると、上司は心底驚きます。そしてほとんどの上司がこう思うでしょう。「そんなの、思い付きだ!」と。ですから、大抵の上司は取り合ってくれません。

「理学療法士になりたい? いきなり何を言い出したんだ。当社は鉄工所だぞ。そんなこと言ってないで、目の前の仕事を一所懸命やりたまえ。最近、全然仕事に身が入ってないじゃないか」

このように、一蹴されるだけです。そもそも会社を辞めたいと思っている人のほとんどは職場環境に馴染めていないので、上司から頭ごなしにこう言われたら、黙ってはいられないでしょう。

「何を言ってるんですか! 昔から本当に理学療法士になりたかったんです。ウソじゃありません。私の友人に聞いてもらえばわかります。いずれにしても、もう決めたことですから、辞めさせてもらいます」

たとえ本心ではなく、思い付きであったとしても、形の上では「大切な思いを上司に打ち明けた」のに、それを蹴散らされたらプライドが傷つきます。「理学療法士になるかどうかはともかく、やっぱり、こんな人の下では働けない」と思い込むでしょう。

私がコンサルタントになり立てのころ、脱落者が出るたびに強い「罪悪感」を覚えました。しかし今ではそうではありません。意外とサバサバしています。社長や管理者たちと協力して、時間をかけて思いとどまってもらえるよう、話し合いを繰り返します。とはいえ、限界があります。

「今の会社のやり方には、ついていけません」

と正直に言ってくれたら説得もできますが、

「昔からゲーム開発に憧れていました。どうしても、その夢を諦められません」

と言う部下を説得するのは難しい。本人は「夢を叶えるために決断した」と言っているわけですから、どんなに上司から優しく諭されても、撤回しづらい状況に自ら追い込んでしまっているからです。

とはいえ、辞める人の立場から考えると、「辞める」と決めたのなら、どんな言葉を使って退職理由を言おうが構わない、と私は思っています。重大な決断であるわけですから、今の仕事がなんかイヤだ。なんかしっくりこない。なんか上司が気に入らない。他にもっとやりがいのある仕事があるはず……。などと言ったフレーズを使うことは普通できません。ですから、本心でなくても、「実は昔から●●●をしたかったんです」と言いたくなるのです。肯定的な未来に向かって頑張るので、応援してください的な言い方になるのは仕方がありません。

大切なのは辞めた後です。「実は昔から●●●をしたかったんです」と言ったからといって、馬鹿正直に「●●●」の仕事を目指そうと思わないこと。どうせハードルの高い「●●●」を選択しているのです。自分を追い込むことになります。「理学療法士になりたいなんて言っちゃったけど、どうやったらなれるんだろう」「ゲーム開発って、やったことがないけど、30歳過ぎても目指せるんだろうか」と、別の悩みを抱えることになります。

なんか職場に馴染めない。なんかしっくりこないから辞めたのであれば、素直になりましょう。同じ業界の会社に行っても、別業界でも同じような職種についても構いません。前の会社の上司に見つかり、「おまえ、理学療法士になるんじゃなかったのか! 騙しやがって!」などと言われることなどないですから安心してください。

なんとなく辞めてもいいし、どんな仕事を次に選択してもいいのです。大切なことは、新天地で活躍することです。それだけなのです。

経営コラムニスト

企業の現場に入り、目標を「絶対達成」させるコンサルタント。最低でも目標を達成させる「予材管理」の理論を体系的に整理し、仕組みを構築した考案者として知られる。12年間で1000回以上の関連セミナーや講演、書籍やコラムを通じ「予材管理」の普及に力を注いできた。NTTドコモ、ソフトバンク、サントリーなどの大企業から中小企業にいたるまで、200社以上を支援した実績を持つ。最大のメディアは「メルマガ草創花伝」。4万人超の企業経営者、管理者が購読する。「絶対達成マインドのつくり方」「絶対達成バイブル」など「絶対達成」シリーズの著者であり、著書の多くは、中国、韓国、台湾で翻訳版が発売されている。

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