新生オープン!“デパ地下”を超えた「渋谷 東急フードショー」スイーツ売り場の歴史と進化とは?
「渋谷 東急フードショー」、2000年の誕生から現在までの歩み
2021年6月1日、「株式会社東急百貨店」が「渋谷 東急フードショー」の「スイーツゾーン」を「渋谷マークシティ」1階にオープンした。7月10日には、渋谷地下街エリアに「デリゾーン」がオープンし、2020年9月に「渋谷マークシティ」地下1階に移設オープン済みの「生鮮・グローサリーゾーン」と併せて、ついにグランドオープンとなる。
「スイーツゾーン」には37ショップが入り、すでに一部がオープンしている「生鮮・グローサリーゾーン」の13ショップ に加え、「デリゾーン」に54ショップの合計104ショップというラインナップだ。
ここ数年、渋谷駅周りは激変している。渋谷駅と直結した東急百貨店の「東横店」は、1934年に開業した老舗百貨店だったが、2020年3月31日、再開発のために営業を終了した。その地下1階で親しまれた食品売り場「東急フードショー」が誕生したのは、2000年4月のことだ。この頃から「デパ地下」グルメがマスコミでも度々特集されるようになり、「東急フードショー」もそんなブームの火付け役と言われている。ちなみに筆者が、テレビ東京で放映されていた番組『TVチャンピオン』の「デパ地下グルメ女王選手権」に出場し優勝した回は、2002年7月放映だった。
今回の改装では、“新たな発見”と“街歩きの楽しさ”を存分に味わってもらいたいという思いを込めて、「SHIBUYA “ENTERTAINMENT” Foodshow」というコンセプトを掲げる。品揃えのテーマは「渋谷ローカライズ」。渋谷駅の乗降客をはじめ、渋谷近隣や渋谷駅に乗り入れる各路線沿線に住まう方々、渋谷に集うオフィスワーカーなどの顧客のニーズに応えた。
この方針は、「東急フードショー」開業時のコンセプトを受け継ぐもので、特に、東急線沿線の人気店の開拓は得意とするところだ。以前の売り場でも長年愛された目黒区の「柿の木坂キャトル」は引き続き、世田谷区三宿の「ラ・テール」は「フェルム ラ・テール美瑛」の新ブランドで出店している。
新規店では、世田谷区太子堂や三軒茶屋、桜新町などにカフェを構える宮城県山元町生まれの「ミガキイチゴ」スイーツ専門店「ICHIBIKO(いちびこ)」、かつて東横線が走っていた線路跡地を再生させた複合施設「渋谷ブリッジ」内に1号店がオープンした「Megan – bar & pâtisserie(ミーガン バー&パティスリー)」などが該当する。
日本の百貨店はその起源によって2つに分類され、江戸時代の呉服商などにルーツを持つ「老舗商店」系と、昭和期以降にターミナル駅直結で開発された「電鉄」系とがある。前者の例として三越伊勢丹や大丸など、後者の例として阪急百貨店などが挙げられる。東急百貨店の歴史を紐解くと、1934年、現在の東急電鉄にあたる「東京横浜電鉄」が、渋谷駅に後の「東急百貨店東横店東館」となった「東横百貨店」を開業。1958年には呉服商がルーツの「白木屋」と合併したが、東横店は、関東における私鉄乗り入れターミナル直結型百貨店の先駆けだったと言える。それだけに、沿線ショップによる新ブランド提案や限定品の販売は、「渋谷 東急フードショー」ならではの歴史を感じさせるのだ。
新生「渋谷 東急フードショー」、注目のブランドや限定商品は?
今回、「渋谷 東急フードショー」が第1号店となるONLYショップとして登場したブランドには、「ラ・テール」の新ブランドとなるショコラスイーツショップ「REICACAO(レイカカオ)」や、2014年に自由が丘に店舗をオープンしている焼き立てチーズタルト専門店「BAKE CHEESE TART」が新たに展開するチーズスイーツ専門店「チーズころん by BAKE CHEESE TART」などがある。
特に面白いのは「REICACAO」で、オーガニックチョコレートをメインに使用し、カカオ本来のおいしさを表現することを掲げるのみならず、「循環するチョコレート」をテーマとして、売り上げの一部を寄付し、カカオの苗木をカカオ農家に提供することに取り組む。今の時代に注目される「サステナブル(持続可能)」なカカオブランドだ。
一方、和菓子売り場にも、新たな風が吹き込まれている。地方にルーツを持つ新感覚ブランドの一つが、兵庫の老舗和菓子店「大三萬年堂」から誕生した御茶ノ水の新感覚和スイーツショップ「大三萬年堂HANARE」。若き13代目による女性ならではの感覚を活かした商品提案が特徴で、本店でも人気の和風パフェをテイクアウトで楽しむ“手持ちパフェ”仕様とした限定品「大三ぱふぇ 抹茶/あんこちょこ」は、プラスチック容器ではなく紙カップを採用したことも注目に値する。
秋田県角館より渋谷初出店となる「くら吉」には、地元産の素材を活かし、和洋の感覚を融合させた商品が揃う。生産者の顔の見える安全安心なシャインマスカットや、秋田県立大学を中心とした産学連携プロジェクトから誕生した秋田県産ラズベリーを使用した「プレミアムウィッチ」シリーズを、「渋谷 東急フードショー」限定品として販売。地元産の食用ほおずきや栗を主役とした品も目を引く。オープニング限定の詰め合わせ用に制作したという紙袋は、まさに渋谷の象徴たる「秋田犬」の柄であり、好評ならば今後も続けたい意向だそうだ。
インターネットやSNSが爆発的に浸透した今の時代は、東京ばかりが流行の発信地とは限らず、地方のすぐれた文化が見出され、より迅速に広まるようになった。今後、ここ渋谷にも、日本各地の新たなカルチャーが集い、発信されていくに違いない。
今回のスイーツゾーンのオープンは、コロナ禍によって、東京都内に緊急事態宣言発令中となったこともあり、積極的な宣伝告知は控えざるを得なかった。その代わり、東急百貨店のネットショッピング( https://www.tokyu-dept.co.jp/ec/cmTopPage/1 )では、「渋谷 東急フードショー」限定商品を含む各ショップの人気・定番商品などをいち早く販売し、外出せずとも「渋谷 東急フードショー」を楽しめるようにしたことも、時代の要請に応じた対応だと言える。
東急百貨店は、2019年11月、渋谷駅直結・直上に誕生した新ランドマーク「渋谷スクランブルスクエア」に、“最旬”をテーマに日本と世界の最先端グルメを一堂に集めることを掲げた「東急フードショーエッジ」をオープン。2020年5月には“伝統と革新”をコンセプトに掲げ、2021年に70周年を迎える日本初の名店街「東横のれん街」を「渋谷ヒカリエ ShinQs」内にリニューアルオープンした。
そして今回、「渋谷 東急フードショー」がグランドオープンを迎えることで、3拠点合計で約240ショップ・9,710平方メートルの「食の一大マーケット」が完成することになる。
渋谷駅の1日の乗降客数は約300万人(2019年度データ)。その食の需要に応えることはもちろん、東急グループの渋谷駅周辺の再開発事業のテーマである「エンタテイメントシティSHIBUYA」の一翼を担う売り場として、「渋谷 東急フードショー」は、次の時代へのスタートを踏み出している。