無償ボランティア参加率が世界一位!国民の61%が参加、国を支え団結力を強めるノルウェーの文化とは
北欧のノルウェーとスウェーデンといえば、無償ボランティアに従事する国民の数が世界で第一位を誇る(ノルウェー市民社会・ボランティア機関研究センター調べ、2015年10月発表)。ノルウェーでは、住民の61%が毎年なんらかの無償の社会活動に参加。520万人という小国にも関わらず、その組織や団体の数は10万以上に及ぶ。61%という数には16歳未満は含まれていないため、子どもを含むと実際の数字はもさらに大きいとみられる。
ノルウェーの特徴のひとつといえば、多くの人々が「組織や団体を通して」ボランティアに参加したがることだ。1人ではなく、誰かと一緒にやることが一般的。人脈を広げ、趣味を深め、社会とつながる効果がある。
典型的な活動分野は、スポーツや福祉分野。サッカークラブで子どもに教える父親たち、宿題の手伝い、病院や老人ホームでの入居者の話し相手など。音楽や映画などのフェスティバルでも、多くの若者が働いている。
5日、首都オスロでは文化大臣も同席して、ボランティア賞授与式が開催された。最も偉大な今年の賞を受賞したのは、地元のスポーツクラブを30年以上支えてきた、車椅子に乗ったカイ・ステンスルードさん。他にも、移民がノルウェー語を学ぶフェイスブックページを開設した人々、ゴミ拾いを長く続ける人などがノミネートされた。
「インターネットが普及している国だが、ボランティア参加者に限っては、セルフィーなどを撮って、SNSでその活動内容を伝えようとする人はとても少ない。自慢したがらず、“こっそりと、静かに”地域に貢献している人ばかり。国を支えている文化なのだから、ロールモデルとなる人々はもっと注目を浴びてもいいはず」と、主催者たちは授与式を開催する理由を語る。
ノルウェーで暮らしていると、至るところでボランティアをしている人々を見かける。街や電車の中などで、赤十字社などのプラスチックの募金箱を手にして、募金を募る子どもたち。国営放送局も年に1度、大規模な募金活動特集を放送。この番組には、首相や王室御一家など、政治家や各企業も参加し、一般市民ボランティアたちが家を戸別訪問し、募金を募る。
絶景の岩場トロールの舌、遭難者を無償で救助するのも地元の市民
日本人観光客が多く訪れる絶景の岩場、「トロールの舌」で救助活動を行うのも、警察ではなく、赤十字社を通した一般市民ボランティア。外国人登山客は、「助けてもらって当たり前」と思っているかもしれないが、地元の人々の親切心がなければ、遭難したままだったとは知る由もない。
政治家や国王が頻繁に口にして感謝する「ボランティア」
「ボランティアなくして、この国はない」。国王、首相、企業のトップたちは、頻繁に人々に感謝の言葉を述べる。
「ボランティア」が、ノルウェーを象徴する言葉として大きな注目を浴びたのは、昨年の難民危機が話題となった時だった。突然訪れた大量の難民申請者に、政府や受け入れセンターは対応しきれず、その時大きな助力となったのが、一般市民ボランティアだった。緊急事態の中、首相は与野党の政治家や国民に、「今こそノルウェー全土でボランティアに従事するときだ」と、垣根を超えた協力を呼び掛けた。
「政治家がボランティアという言葉を使うときは、意味がちょっと違います。国全体でのボランティアという意味で、“少しでもいいから、みんなが何か行動をしなければいけない”という意味です」。
「誰も商業的に稼がないほうが、良い結果を生む」?
そう取材で語るのは、ノルウェー・ボランティア団体のリーダー、スティアン・シュロッテロイ・ヨンセン氏。「ノルウェーが他国と異なる点といえば、ボランティア活動の多くが文化やスポーツ分野だということかもしれません。人と人をつなげる社会的ネットワークの役割を果たしており、無償ボランティアスタッフがいなければ、国中で開催されている行事活動は存在していなかったでしょう。無償で動こうとする人は、給料をもらって働くスタッフとは、課題に対して異なるモチベーションを持っています。結果的に働き方も異なります。誰も商業的に稼がない、無償で働く人々で成り立っているほうが、良い結果を生むと思いますよ。もちろん、医者や教師など特別な専門知識を持っている人には、対価を支払うべきだと思いますけどね」。
筆者が普段取材してるイベント会場では、無償で働く人々を頻繁に見かける。好きなことに参加できる、地域に貢献できる、時給の代わりに入場チケットが無料で入手できることなどが、彼らにとっては嬉しいらしい。
金銭という対価を払うことよりも、無償の社会活動を理想とし、団結力を強めるとされるボランティア文化は、ノルウェーの社会主義的な一面ともいえる。
一人で悩み、孤独を感じている人を減らしたい
活動の多くでは、「社会の外」という課題の克服が含まれていることも多い。悩みを抱え込み、「自分には居場所がない」と孤独を感じながら、社会やコミュニティの「外」にいる人々を、少しでも減らそうという狙いがある。
移民、難民、難民申請者が増加する中で、社会統合における議論が続いているノルウェー。新しく来た人々が社会に溶け込めるように、今後もこのようなボランティア文化が一層と必要とされるのかもしれない。
Text: Asaki Abumi