「反文在寅」の保守大統領候補は「親日」か「反日」か 「野党の希望の星」尹錫悦前検察総長の対日観
韓国の大統領選挙は来年3月だが、日本には現在の文在寅政権が「反日」であることから政権交代への待望論があるようだ。次期大統領については文大統領の後継者ではなく、対峙する保守候補になってもらいたいとの願望があるようだ。
保守候補の中で最有力候補と言われているのが前検察総長の尹錫悦(ユン・ソッキョル)氏である。世論調査を見る限り、現時点では大統領の座に最も近い候補と言っても過言ではないだろう。
(参考資料:尹錫悦前検察総長は大統領になれるか? その可能性を検証する!)
関心を寄せている割には尹氏の日本観をまともに検証したメディアはどこにもない。尹候補の父親が日本の大学に留学した経験があるのでその影響を受けて、尹氏も知日ではないかとの見方が関の山だ。それもこれも尹氏が日本について語るケースが少ないのが理由のようだ。
尹錫悦氏が後にも先にも日本について言及したのは「私は国民と国家の未来に全てを捧げるつもりである」と事実上の出馬宣言を行った6月29日の記者会見の場で日本の記者から聞かれた際の発言が唯一である。
日本では大きく報道されていなかったが、当時尹氏は以下のように回答していた。
「韓日外交は実用主義と實事求是(真実に基づいて真理を探求すること)に立脚しなければならないが、理念偏向的「竹槍の歌」を歌ったためここまで来てしまった。今、韓日関係は修交以後最も劣悪で、回復が最も不可能になるほど壊れてしまった。政権末期に何度か収拾しようとしているがうまく行ってないようだ。常識的に見ても、韓日関係では過去史は真相を明確にする部分もあるが、未来の世代のため実用的に協力しなければならない関係である。慰安婦問題や強制徴用問題、韓日間の安保協力や貿易問題を全部同じテーブルに置いて論議するグランドバーゲンをやる方式で問題にアプローチすべきである。韓日関係も米韓関係のように国防、外務、経済式で2+2又は3+3の定期的な政府当局者間の疎通が今後の関係回復に必要だと思っている」
この発言に韓国国内の「反日派」は「歴史問題を取引材料にするとは何事か」と噛みつき、批判していたが、その一方で日本の「反韓派」の間では記者会見の場所が「尹奉吉(ユン・ボンギル)義士記念館」であったことから「尹錫悦もまた反日」であるとの声が上がっていたのも事実である。尹奉吉は韓国では伊藤博文を暗殺した安重根のような存在であるからだ。周知のように安重根は日本では「テロリスト」(菅義偉首相)であるが、韓国では「独立闘士」として英雄視されている。
出馬宣言後、尹氏は韓国の様々なメディアとのインタビューに応じているが、昨日の保守紙「中央日報」とのインタビューでは珍しく日本について触れていた。これまた、聞かれたから答えただけの話で、自ら進んで切り出した話ではない。
質問者から「日本と我が国の関係について」聞かれた尹氏は「日本の歴史問題については指摘すべきは指摘すべきである。また、後世に対しても必ず歴史真実を伝え、教えていかなければならない。こうした問題は明白にしなければならない。現在と未来の問題については徹底的に国家と国民の利益の側面から協力すべきは協力していかなければならない。これもまた、未来の世代のためになるからだ」と抽象的に答えていた。
「過去と未来を切り離して」の発言は文大統領が常日頃語っている「韓日関係は非常に重要である。両国の関係は未来志向的に発展させなければならない。過去の歴史問題で未来志向的な関係を損ねてはならない」との言葉と大差はない。また、与党の他の大統領候補もみな同じような趣旨の発言をしている。従って、この発言をもってしても尹氏の対日観を推し量ることはできない。
この日のインタビューで唯一、尹候補が与党の候補との違いを見せたのは文大統領の東京五輪への参加問題である。
東京五輪・パラリンピック大会組織委員会の公式ホームページの日本地図の竹島表記を理由に李洛淵(イ・ナギョン)元首相、丁世均(チョン・セギュン)前首相、李在明(イ・ジェミョン)京畿道知事ら与党候補は揃って五輪ボイコットを主張しているが、尹候補は大統領の五輪参加問題について「スポーツは米ソ間の冷戦時代でもお互いに五輪をやり、競い合ってきた。何よりも軍事的対決よりもスポーツを通じた競争で軍事対立や緊張を緩和することもできた。国際スポーツ交流が世界平和に寄与している。葛藤を解消するという点からも考えてみるべきである」とボイコットすべきではないとの見解を示したことだ。
(参考資料:東京五輪への韓国人の複雑な反応 「ボイコット賛成」の世論調査とは真逆の国民請願の関心の低さ)
保守野党「国民の力」の前身の「未来統合党」の黄教安(ファン・ギョアン)元代表や羅卿元(ナ・ウンギョン)元院内代表らを含め多くの与野党の政治家や保守の牙城・慶尚北道の議会など地方自治体がボイコットを叫ぶ中でそれに異論を唱えたところをみると「反日」でも「親日」でもなく、単なるリアリストに過ぎない。