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勝てば世界切符、負ければ解散。東京五輪世代のU-19日本代表がアジアのデスマッチへ挑む

川端暁彦サッカーライター/編集者
前日練習を終え、現地まで駆け付けてくれたサポーターと記念撮影(写真:佐藤博之)

「10年の空白」に代えて

日本時間の10月24日22時15分から、東京五輪世代に当たるU-19日本代表が最大の決戦に挑む。AFC・U-19選手権準々決勝は過去4大会連続して日本が敗れてきた、まさに鬼門。勝てば世界切符獲得が決まり、負ければチーム解散となる1試合での心理的プレッシャーもあれば、相手のモチベーションも桁違い。一発勝負独特の空気感の中で、何度も苦杯をなめてきた。勝てば10年ぶりの出場となるという事実は、「10年の空白」が生まれてしまったということも意味しており、A代表までじわじわと効いてきてしまっているダメージである。

とはいえ、である。MF堂安律(G大阪)が「4大会出ていないということなんですけれど、自分たちの代は自分たちの代なので」と言ってのけたことも一面の真理である。別に彼ら自身が負け続けてきたわけではないのだ。「10年の空白」を、この世代に対するネガティブな空気として共有する必要はないだろう。もちろん、過去の歴史から教訓を得ることは大切なこと。実際、前回大会のコーチだった内山篤監督はその失敗の反省点を、今大会のメンバー選考と調整法に凝らしてきてもいる。その上で、精神的なものを変に背負い込む必要はない。

初めての同スタメンでタジク戦へ

この試合に向けて、内山監督は「手ごたえがあった」と話していたカタールとのグループステージ第3戦と同じメンバーを並べる見通しだ。ここまで2トップの相方が定まらなかった小川航基(磐田)のパートナーには、岩崎悠人(京都橘高校)が連続先発。裏にもワイドにも走れる京都内定のムービングストライカーを使ってきた。グループステージの序盤は予想以上に苦戦してしまったとはいえ、準々決勝へピークを持ってくる尻上がりの調整自体は事前の狙いどおり。日本側の戦支度としては、悪くない流れである。

この大一番で対するタジキスタンは、オーストラリア、ウズベキスタン、中国と同居するグループから勝ち抜いてきた今大会のミラクルチーム。[5-4-1]システムの並びで徹底して守りを固めてカウンターを狙うスタイルは、むしろトーナメントで強さを発揮しそうで、国としてのネームバリューがなくとも、決して油断できるような相手ではない。GKのハイリエフは負傷を抱えてのプレーながら、驚異的な反応とアグレッシブさを見せる好選手。オーストラリア戦では鮮やかなPKストップも見せており、正直このGKを相手にPK戦にはいきたくない。その他にも身体能力抜群のDFエルガシェフ、攻撃の中心となるFWムハマジョニなど要所に実力者を配している。内山監督も「一人ずつ非常にハードワークするし、組織立っている。メンタル的にも強さを感じる」と警戒を深めている。

最大のポイントは心理面

前日練習はかなりのリラックスムードだった。「初戦は『いい雰囲気を作っていこう、いい雰囲気を作っていこう』とやり過ぎた」(堂安)という反省を踏まえて、「普通に、今までどおりやる」(小川)ことを重んじながらの調整である。カタール戦はまさにそのイメージで臨んで3-0の大勝となっただけに、その継続を狙う形だ。ただ、リラックスも行き過ぎると緩みになるので、このバランスはなかなか難しい。カタール戦は序盤からとにかく攻守でアグレッシブにいく姿勢が実を結んだ面もあるので、調整段階でのリラックスから試合開始からメンタル面のアクセルを踏み込めるかどうかがポイントだ。その意味では、ガムシャラな姿勢で攻守両面のスイッチ役になれる岩崎の仕事に期待したい。

心理面で言うと、もう一つ何より大事なのは「焦らないこと」。守備を固めてくる相手に攻めあぐねるのは、世界中どこのサッカーでも起きる現象だ。セオリーであるサイド攻撃とミドルシュートへのトライは継続しつつ、入らないときには入らないと割り切ることも大切だろう。タジキスタンにまんまと守り切られてしまったオーストラリアは開始5分でのPK失敗から早くも焦り始め、最後はラフプレーも増えて自滅してしまった。彼らの戦いぶりは学びとしておきたい。

この準々決勝がチームにとっての集大成であることは論をまたない。メンバーで唯一、2年前の敗戦を知る主将の坂井大将(大分)は、この試合について「やっと来たか。2年間、この試合を待ってきた。『早く来い!』くらいに思っていた」と笑いつつ、その上で「みんなが一つになって戦えば必ず勝てる」と力を込めた。

日本時間の10月24日22時15分から始まるアジアのデスマッチ。天国と地獄の境界線上で、日本の未来を担う選手たちが、すべてを出し切る戦いに臨む。

サッカーライター/編集者

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。2002年から育成年代を中心とした取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月をもって野に下り、フリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』を始め、『スポーツナビ』『サッカーキング』『サッカークリニック』『Footballista』『サッカー批評』『サッカーマガジン』『ゲキサカ』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。著書『2050年W杯日本代表優勝プラン』(ソルメディア)ほか。

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