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「冨安さんは自分も目指している選手」。17歳のCB古賀塔子、アジア大会決勝で抜群のパフォーマンス

川端暁彦サッカーライター/編集者
アジア大会決勝で北朝鮮を撃破。金メダルを獲得して喜ぶDF古賀塔子(写真:ロイター/アフロ)

アーセナルのCBを彷彿とさせるプレーぶり

 6日に行われたアジア大会女子サッカー決勝戦。日本女子代表のCBを務めた古賀塔子(JFAアカデミー福島)のパフォーマンスに目を奪われたのは私だけではなかったはずだ。

 173cmの長身に加えてスピードも備え、相手の鋭い突破を止め切ってしまうプレーぶりから、男子の日本代表CB、冨安健洋(アーセナル)を思い浮かべたのも、どうやら私だけではなかったらしい。

 X(旧Twitter)のタイムラインには「冨安みたい」といったコメントが多々流れてきていた。当の本人にそのことを聞いてみると、少しはにかみながら、こう語ってくれた。

「冨安さんは自分も目指している選手なので、そう言ってもらえてるなら嬉しい」

異質な大観衆の中で

優勝を勝ち取った日本女子代表の選手たち
優勝を勝ち取った日本女子代表の選手たち写真:ロイター/アフロ

 決勝に詰め掛けた大観衆が作り出す雰囲気は独特のものがあり、決勝戦という緊張感も当然ある。今回の日本女子代表で最年少となる17歳の古賀にとっては心理面でも試される舞台には違いなかった。

 ただ、古賀は「中国との準決勝も完全アウェイみたいな中でやっていたので、そういう面も慣れたところはあったんだと思います」と笑って振り返る。すでに「免疫」を付けていたということなのか、試合中もまるで動じた様子を見せることはなかった。

 今年の女子ワールドカップには、その資質を買われてトレーニングパートナーとして帯同。なでしこジャパンの練習相手として奮闘する一方で、「自分も国際舞台で戦いたい」という思いも募らせる機会ともなった。「そこ(なでしこジャパン)に入れるようになりたいと思って今大会もやってきた」という思いは、ピッチ上のパフォーマンスにも現れていた。

ピンチで「よっしゃ来たな!」と思えるか

アジア大会の日本女子代表を率いた狩野倫久監督
アジア大会の日本女子代表を率いた狩野倫久監督写真:森田直樹/アフロスポーツ

 今大会に向けて臨時編成されたチームの指揮を執った狩野倫久監督(U-19日本女子代表監督でもある)は今大会、「失敗したからダメということはない。まずチャレンジしていこう」と選手の挑戦と成長を促してきた。

 攻撃でミスを恐れぬトライを促す指導者は多いが、狩野監督は守備に関してもこう語る。

「例えば、守っていて数的不利の状況になってしまった。もちろん、そうなりたくはないわけですが、でもそこを止め切れたらDFの価値は大きく上がるわけです。そこで『よっしゃ来たな!』『ここでいっちょやったるか!』と楽しむマインドを持てるか。そういうマインドを持ってピッチに送り出すようにしてきた」

 つまり古賀はまさに「よっしゃ来たな!」と止め切ってしまっていたということだろう。

「(古賀のことは)大阪にいた小学生のときから知っています」と言うように、狩野監督はJFAナショナルトレセン(女子)関西コーチを務めていた当時からその才能と成長を見守ってきた。

「劣勢の中でもタフに逞しく戦えるようになってきた。実戦経験の中で、何か自信を掴んでいると思う。少しずつステップアップしていって、彼女ができることを増やして実績を積んでいけば、どんなときも頼りになる選手になっていく」(狩野監督)

 もちろん、まだ高校3年生である。未熟な部分も当然あり、本人も「競り合いには絶対負けないつもりだし、スピードには自信を持っています」と胸を張る一方で、今大会でのプレーについて「CKでのマークだったり、最後に体を張って失点させない部分には課題が出た」とも言う。ボールを持ってのプレーを含め、まだまだ成長していく余地はあるだろう。

 来年はU-20女子ワールドカップへ出場する可能性もあり、もちろんパリ五輪という大舞台も夢ではない。いずれにしても、「こういうアウェイの舞台で勝てて、自分のプレーも出せた」と笑った17歳が、確かな可能性を感じさせた90分だったのは間違いない。

サッカーライター/編集者

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。2002年から育成年代を中心とした取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月をもって野に下り、フリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』を始め、『スポーツナビ』『サッカーキング』『サッカークリニック』『Footballista』『サッカー批評』『サッカーマガジン』『ゲキサカ』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。著書『2050年W杯日本代表優勝プラン』(ソルメディア)ほか。

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