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正月休み明けにスムーズに仕事や学校に復帰する方法:年末年始の素敵な過ごし方

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
(写真はイメージ)(ペイレスイメージズ/アフロ)

1年の終わりと始まり。どう過ごすのが良いか。心理学からのオススメです。

■1年を振り返る

「あなたにとって、2016年はどんな年でしたか?」。 テレビのインタビューにありそうな質問ですが、ちょっとその気になって考えてみましょう。今年はどんな1年だったか、人に発表するつもりでセリフを考えてみてください。

これは、1年を一言でまとめる作業です。人に話すのですから、あまりグダグダのことは言えません。少しかっこよく1年をまとめることになるでしょう。

この1年をどう語ろうが、過ぎてしまった1年の出来事は何も変わりません。しかし、心理的な影響は変わります。何となく過ぎてしまった1年だとしても、この1年に意味を持たせることができます。

あなたが記憶を整理して、言葉や文字にしたことが、あなたにとっての1年になるでしょう。せっかくですから、良いまとめ方をしましょう。

「ピーク・エンドの法則」と呼ばれるものがあります。物事の一番のピークと、それから物事の最後が、物事全体の印象を作り上げるという意味です。

1年の中で最も印象的だった良いことを思い出し、1年の終わりに言葉に出してまとめる。これで、あなたの1年は良いものになるでしょう。良い形で1年が終われれば、良い形で正月が迎えられます。

良い形で正月休みを終えられれば、良い形で休み明けの学校や仕事を始められるでしょう。

この1年、失敗もあって不十分なことがあっても、そんな自分を責めすぎると逆効果です。反省は大切ですが、自分を責めるより自分を許す方が、物事はうまくいきます。

1年を振り返ると、社会にも個人にも悲しい出来事はあります。でもそんな出来事も、心の中でモヤモヤしているぐらいなら、きちんとまとめた方が心は整理されるのです。整理できれば、年明けの再スタートもスムーズです。

■年末年始に家族が集まって

季節感がなくなりつつあるとはいえ、それでも年末年始は特別です。ストレスのたまる仕事から離れて、家族と一緒の時間を過ごします。

家族親戚が集まって、時間もあるのですから、みんなで思い出を語りあいましょう。アルバムを開いたり、昔話に花を咲かせるのも良いでしょう。

ポジティブ心理学の研究によると、このように人生を深く味わうことは、幸福感を高めます。高齢者が、かつて大活躍していた若い時のことを思い出すのは、心身の健康につながります。

若い人たちも、自分が子どもの頃に親や祖父母に愛されてきた話を聞くのは、心の癒しと勇気づけになります。子どもの頃の失敗談も、ユーモラスに大笑いして語れれば、心の栄養です。

みんなが集まって楽しくしていると、昔の楽しかった記憶が思い出しやすくなります。誰かが思い出を語れば、それにつられて、さらに別の人が思い出を語り始めるでしょう。

楽しかった思い出、無邪気だった子ども時代。そんな昔を思い出すことは、心のリフレッシュになり、休み明けのスムーズなスタートにもつながります。

■年末年始には意味のないことをしよう

年末年始のおしゃべりは、会社の会議ではありません。年末年始のテレビ番組も、お気楽なものが増えます。年末年始は、意味のないことをしましょう。そんな時間を過ごすのも、ストレス解消と心のリフレッシュには有効です。

「馬鹿も休み休み言え」と言いますが、「真面目も休み休み」です。たまにはおバカなことも良いでしょう。

たとえば大昔のお正月遊び、「福笑い」(目隠しして顔を作るゲーム)。それはどんな意味があるでしょう。何の教訓もなく、ほとんど何の訓練にもなりません。こっけいで、馬鹿らしい遊びです。正月だからこその遊びかもしれません。

羽根つきで、失敗した方の顔に墨をぬるなどという昔の遊びも、いかにも正月らしい遊びですね。

みんなでゲームしたり、ゲームしている芸能人をテレビで見たり、楽しく笑いましょう。笑いは心身の健康に役立ちますし、それに、意味のない会話をしながら一緒に過ごすことは、実は家族にとってはとても意味のあることなのです。

家族関係を良くすることは、勉強や仕事へのやる気の土台です。

■新年のポジティブ・イリュージョン

年末は暗い話題が多いのに、新年になると急に明るくなって「明けましておめでとうございます」。今年の仕事も勉強も始まっていない新年は、1年の中でもっともポジティブになれる時でしょう。

楽観主義は大切です。きっと良い年になると思えることで、私たちは物事にチャレンジできるようになります。

ただし、形だけ前向きなことを言っても効果はありません。会社の新年の集まりで、無理やり今年の目標などを言わされても、効果はないでしょう。落ち込んでいる時に無理に明るいことを言わせると、かえって抑うつ気分が高まるという研究もあります。ポジティブ・シンキングを一方的に勧めているのではありません。

新しい年には、地元で災害があったり、家族が病気になったり、自分がリストラされるかもしれません。確かにその可能性はあります。備えも必要です。しかし、それでもきっと良い年になると思った方が、心は健康になり、実際に物事は順調に運びやすくなることが、心理学の研究からわかっています。

客観的に言えば、新年が良い年になれるかどうかはわからないのですが、健康な人は現実的に物事を見るだけではなく、夢と希望のある「ポジティブ・イリュージョン」を持ちます。ポジティブ・イリュージョンが持てるからこそ、人は活動的になれ、結果的に成功や勝利を勝ち取りやすくなるのです。

ただお気楽になれというのではありません。困難も来るでしょう。でもどのような状況になっても、自分は最高の力が発揮できて何とかなると思えるのが、本当の楽観主義です。

新年は、あなたなりのポジティブイリュージョンを思いっきり持ちましょう。

1年後に自分が素晴らしい状態になっていることを想像しましょう。

■決心だけで終わらない

新年は気分が良くなります。新年の抱負など語れば、さらに良い気分になります。仕事も学校もまだ何も始まっていないのですから、何でも言えます。決心できます。しかし決心だけで終わってしまえば、かえって心は落ち込むでしょう。

仕事や学校という現実が近づけば、ますます気持ちが沈みます。

夢や希望、1年の抱負を、その時だけ気分が良くなるために使ってはいけません。苦しくなってきたら、また心をごまかすために景気の良いことを言う。その繰り返しはむなしいでしょう。

決心したものの、実行しようとすれば苦しいこともあり、結局何もできない。そんな自分を責めたくなることもあります。そうなることが予想できれば、正月明けに仕事や学校に行くのが、とても憂うつになるでしょう。

希望は私たちに力を与えますが、偽りの希望は私たちを苦しめます。

決心をしたら、素晴らしく変わっている自分を想像します。そして、そこに向かって一歩ずつ変わって行く自分を想像しましょう。そうすれば、今すべきことが見えてきます。ともかく一歩を踏み出しましょう。

希望学の研究によれば、本当の希望は、一歩を踏み出した時に生まれます。

大切なのは、習慣化です。習慣になれば、心も体も楽になります。高い目標を立てると気分は良くなりますが、結局続かなければ意味がありません。失敗した自分を責めてしまえば、逆効果です。大人は子どもに高い目標を持たせようとしますが、私はスクールカウンセラーとして、子どもの目標を下げさせることがよくあります。

たとえば「明日から朝8時までに学校に来ます」と語る不登校の生徒に、「10時ごろまでに来ればいいよ」と勧めたりします。できることから始めましょう。

大人でも、たとえば明日からすっぱり禁煙しようと思ってもなかなかできません。少しずつ減らしましょう。さらに、習慣に関する心理学の研究によれば、減らそうとは思わなくてもタバコの本数を決めるだけでも効果的だとわかっています。ゲームで遊ぶ時間が長すぎる子どもなども同じです。

大人や他人に押し付けられるのではなく、自分で決めます。何本でも、何時間でも良いのですが、何とかしたいと思っているなら、無茶なことは言いません。大抵は少なめの目標を決めます。

少なめでも現状維持でも、その決められた以上のことはしないと習慣化できるようになると、自信につながり、さらに次の一歩につながるのです。年が変わる時は、習慣を変えるのにも良い時でしょう。

■休み明けの学校や仕事に向かって

習慣化している通勤や通学が、長い休みで崩れます。休み明けに、また職場や学校に行くのは新たなエネルギーが必要です。歯医者に行くのは、一番最初が大変で、2回目からは楽なのと同じです。でも毎週通っていた歯医者に、しばらく行かなくなってからまた通院を始めるのは大変でしょう。

私たちは忙しい日常を過ごしています。けれども、その疲れは単純な体の疲れではありません。ただの疲労なら、長期休みの後は元気になれるはずです。しかし実際は、長期の休み明けほど学校や仕事が辛くなります。生活リズムが狂いやすい正月休みはなおさらです。

でも、それは休み方次第。毎日寝て過ごすのではなく、心にエネルギーを蓄えましょう。心理学の研究によれば、人生を決めるのは能力でも環境でもなく、行動習慣です。

日常生活でストレスがたまると、行動の制御力が落ちてしまいます。せっかく目標を立てても、習慣化できるほど頑張れなくなります。正月休みでストレス解消して、あなたの制御力を取り戻しましょう。

たっぷり遊んだ、たっぷり休んだと、正月休みの最後に自分に言い聞かせると、正月休みのストレス解消効果が高まります。

「今年もお世話になりました」「1年無事に過ごせて良かった」。年末のそんな感謝の思いが、幸福感を高めます。幸福感が高まると、積極性につながる心のエネルギーがわきます。

「新しい年はこんなことをしたいな」。「新年の目標は○○です」。人はやる気があっても、希望や目標がないと動けません。どこの方向へ向かったら良いかがわからないからです。でも、方向が決まって一歩を踏み出せれば、新しい道が拓けます。

1年が終われば、旧年中のことはリセットです。新年は、新たな思いを持ちやすくなります。この思いを活用しましょう。

大人になればお年玉はもらえませんが、年が明ければ、誰もが平等に新しい365日をもらえます。あとはその時間の使い方でしょう。年末年始は、心と行動をリフレッシュする大チャンスなのです。

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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