日本の水はどのように運び出され奪われるのか。農作物や製品に変えてから運び出す裏技
水を運ぶコストは高額
「土地を買ったからといって水をポンプで汲みあげて輸送するには多額のコストがかかる。だから外国資本が土地を買ったからといって水目的ではない」、「水を運ぶコストは水の値段に比べて高いから、輸送するより海水を淡水化したほうが安くすむ」という見方がある。
水を運ぶ代表的な方法は管路での送水。自然の傾斜を使えばコストはさほどかからないが重力に逆らうとポンプ代がかかる。でも、この方法で国境を越えて水を運ぶことも可能だ。
マレーシア南部にジョホールバルという町がある。1997年に日本がサッカーフランスW杯の出場切符を獲得したした歓喜の舞台。ジョホール海峡をはさんだ対岸にシンガポールが見え、海峡にかかる橋のわきを直径1.5メートルの管路が走っている。シンガポールの国土は平坦で水の確保が難しい。その一方、水の需要は増加したために隣国からの水を輸入した。
管路以外で国境を越えることもある。タンカーなどの液体輸送船に「荷物」として積む方法、大型タンカーやばら積み船のバラスト水浄化装置を活用する方法、「水バッグ」を活用する方法、フェリー・コンテナにフレキシブルタンクを積載して輸送する方法などが知られている。これらの方法を選択すると、コストはより高くなる。とりわけタンカーなどの液体輸送船に「荷物」として積む方法ではまったく割に合わない。
安全保障の視点
ただ、技術的に可能か、採算が合うかだけでなく、生活に必要な淡水を他国に依存してよいかという輸入国側の安全保障の視点もある。命の水を他国に依存したくないという気持ちだ。
たとえば、トルコは昔から水の輸出に熱心だった。1980年代後半、ジェイハン川とセイハン川の水を管路でアラブ諸国に提供しようとした。トルコには影響力を拡大する狙いがあったが、打診された側は危険な誘惑に気づいた。水不足の国がいったん他国から水を買ってしまうと、その国に依存することになる。水価格が上げられたり、関係が悪化すれば、水を止められてしまう可能性もある。
前述のシンガポールとマレーシアも両国の関係がぎくしゃくすると、マレーシアメディアが「管を閉じてしまえ」などと報道し、シンガポールに緊張が走るということが、かつてあった。
変身させた後に運び出す方法
水を運ぶといった場合、多くの人は水そのものを運ぶことをイメージする。でも、水として運び出さずに現地で使うというアプローチがあるのではないか。
日本の民法には「土地の所有権はその上下に及ぶ」と明記され、土地を所有すると井戸を設置し水を利用することができる。病院、ホテル、工場はこの方法で自前の水を利用し、水道コストを削減することがある。
もっと水を使うのが農業(食糧生産)だ。世界の淡水の7割は農業に使われている。あまりにも大量に使用するので、輸送するのは不可能だ。
この場合、どうするか。土地を買う(借りる)のである。水を運び出さなくても、そこの水で農業をして、できた農作物を運び出せばい。むしろこのほうが効率的だ。たとえば、サウジアラビアは地下水枯渇を懸念し、自国の砂漠を灌漑して穀物生産することをやめた。その代わり、巨額のオイルマネーで海外の農地を買っている。これまでインドネシア、スーダン、ウクライナ、パキスタンなどの農地を取得している。そして、できた農作物を自国に運ぶ。
水と土地は一体
現在、土地の取引は、国境を越えて活発に行われている。途上国・貧困国が金を呼び込む手段として、農地や未開発地を外国へ売却したり、長期貸与するケースもある。
国連食糧農業機関(FAO)は、こうした動きについて、「自国の食料安全保障リスクを軽減するため、食料輸入国が海外で農地を確保する動きは『新植民地主義』を作り出すリスクがある」と警告している。「世界的に見れば食糧増産につながる」と期待する意見がある一方で、「先進国による農地収奪」という意見があるわけだ。
近年、日本の土地も外国資本に買われるケースが増えている。森林だけでなく農地が売買されるケースも増えている。
水と土地は一体のもの。土地から地下水を汲み上げ、ペットボトル水として販売するだけでなく、その土地で生産活動を行い、製品を輸送したほうが技術的にも簡単でコストも安い。
では、その影響で、周辺の水が枯渇する危険性はないだろうか。水循環基本法に「水は国民共有の財産」と明記されるが、財産を守るには水と土地の関係性をもっと理解し、水と土地利用を一体的に見る必要がある。