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毎年、ずれている茂木健一郎氏の新卒一括採用批判 そのリクルートスーツの向こうに個性がある

常見陽平千葉商科大学国際教養学部准教授/働き方評論家/社会格闘家
茂木健一郎氏の新卒一括採用批判には毎年、反論してきました

今年も茂木健一郎氏が新卒一括採用批判をしている。

茂木氏「この国は終わっている」就活生の没個性指摘(日刊スポーツ) - Yahoo!ニュース

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170607-01836561-nksports-ent

「今日の夜、東京のある駅の近くを歩いていたら、全く同じようなリクルートスーツをきた学生の集団が数十人、騒ぎながら通り過ぎていた」

「画一性。没個性。この国は、本当に終わっているんだなあ、と思った。経団連のお墨付き」

などと、就活、新卒一括採用を批判している。

これは、春の風物詩とも言えるものであり。もう7、8年、彼のこういうツイートを見かけてきた。それに対して、私が批判するのも、もはやじゃれ合いのようなものである。そういえば、池田信夫氏立ち会いのもと、ニコ生で対談したこともあるし、2015年には朝日新聞のオピニオン欄で対論企画が組まれたこともある。

彼の気持ちもよく分かる。茂木氏なりに若者のことを心配しているのだろう。ただ、毎年のことだが、彼の批判はズレている。若者を応援していそうで、まったく救わないものである。今年もちゃんと批判することにしよう。それが、私なりの誠意だ。

リクルートスーツか否かだけで没個性だと決めつけるのはナンセンスである。採用担当者の仕事とは、その没個性に見えるリクルートスーツの向こうにある個性を味わうことである。そのために、どれだけの努力をしているのか。採用担当者として、学生の良い部分を見落としてはいけないし、他社にいかないように、口説き落とさなければならないのだ。なんせ、未完成の学生の可能性に限るのだ。

そもそも、ある時期にまとめて大量に採るからこそ、集団内での多様性が確保される。未経験の若者も社会にデビューすることができる。ド左翼で、集団行動が苦手で、会社にも社会にも適合しない私が会社員を15年続けることができたのも新卒一括採用のおかげである。

たしかにリクルートスーツは没個性に見えるかもしれない。ただ、その画一的に見えるリクルートスーツも、実は多様で。4年前に青山商事のスーツカンパニー担当役員でリクルートスーツの生き字引のような方に取材に行ったが、実際は、色は黒・紺・グレーの3色展開、男子だけで型は5つあり、さらに3体型、6サイズ用意しているという。売上の8割は黒だが、他の色も売れている。最近では、リクルートスーツがマストではない企業も散見される。

リクルートスーツ「売り上げの8割が黒」の理由を専門家検証│NEWSポストセブン

https://www.news-postseven.com/archives/20130929_214084.html

行動としては画一的に見える新卒一括採用も、彼がTwitterで批判するようになった10年くらい前からは変化をしている。就活時期は見直されたし、要件緩和の動きも見られる。

もっとも、プロセスにおける摩擦、平等を装った不公平な選抜など問題点はある。リクルートスーツ批判も結構だが、実はそれは表面的な批判にすぎないのだ。

と、ここまでは実は茂木氏の新卒一括採用批判に対して、毎年、反論していることである。この部分では、茂木氏と私はずっと噛み合わないだろう。茂木氏のような問いかけがあるからこそ、議論が活性化される。

今年は少し違う話をしよう。そして、この点においては、私も答が明確にあるわけではなく、深く議論したいのだ。

それは、茂木氏を始めとする新卒一括採用批判論者、もっというと、いかにも新しい才能を評価しているぞ、俺は系の人が、論拠とする「個性」や「多様性」は、それほど素晴らしいものなのか、という問いである。

いや、私自身、どうやら見た目も言動も個性的だと世間では思われているらしく。フラフラと生きてきて、様々な仕事を経験しているという意味では、程度の差こそあれ「個性」と「多様性」を体現している人なのだと思う、世間なみから言うと。豊かな世の中とは、多様性と可能性がある社会だと思っている。

もっとも、個性と多様性をめぐって、人は常に綺麗事を言い、実際には争っている。私は意識高い系から嫌われている。いや、意識高い系という言葉を広め、徹底的に批判したのだから、恨まれて当然なのだが。しかし、個性だ多様性だという言葉を連呼する連中は、私の個性や生き方を認めない。

それは個人的な恨みつらみにすぎないが、世界的に「格差」や「分断」が社会問題となっている。個性や多様性について分かり合えない時代になっていないか。時代は「働き方改革」の大合唱だ。各社がメディアで話すことと、本音は違う。個性尊重、多様性の確保の過程で痛みも伴っている。まあ、その多様性も働く人の多様性と、働き方の多様性を混同し、議論は錯綜しているのだけれども。

というわけで、リクルートスーツの画一性を批判するなどの、多様性称揚論の向こうにあるのは、実は人間は分かり合えないという絶望でしかないのではないか、と考える日々なのだ。

なお、日本の労働社会の根本的な問題については、最新作『なぜ、残業はなくならないのか』(祥伝社新書)にまとめてあるので、ご一読頂きたい。

というわけで、茂木氏の新卒一括採用批判も大事な警鐘だと思いつつも、そろそろ個性と多様性はきれいごとにすぎないんじゃないかという問いに向き合わなくてはならないのではないかな。

・・・今年はマイルドに書いたな。茂木さん、久々にお会いしたいです。

千葉商科大学国際教養学部准教授/働き方評論家/社会格闘家

1974年生まれ。身長175センチ、体重85キロ。札幌市出身。一橋大学商学部卒。同大学大学院社会学研究科修士課程修了。 リクルート、バンダイ、コンサルティング会社、フリーランス活動を経て2015年4月より千葉商科大学国際教養学部専任講師。2020年4月より准教授。長時間の残業、休日出勤、接待、宴会芸、異動、出向、転勤、過労・メンヘルなど真性「社畜」経験の持ち主。「働き方」をテーマに執筆、研究に没頭中。著書に『なぜ、残業はなくならないのか』(祥伝社)『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞出版社)『「就活」と日本社会』(NHK出版)『「意識高い系」という病』(ベストセラーズ)など。

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