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斜陽の2流G1「凱旋門賞」をオルフェーヴルが勝つことで、日本の競馬に望むこと

山田順作家、ジャーナリスト

■凱旋門賞は本当に「世界最高のG1」なのか?

凱旋門賞が近づき、連日スポーツ紙は「日本馬、悲願の世界制覇だ!」と騒いでいる。オルフェーヴルもキズナも見事にステップレースを制したため、期待は高まる一方になっている。なかには「ダブルVだ!」だと早くもお祭りムードになっているメディアもある。

そこで、言いたい。ここで、日本馬が本当に悲願を達成したら、もう凱旋門賞を含む欧州競馬を崇めるような報道は止めてほしい。凱旋門賞を「世界最高のG1」「世界最高峰の舞台」と表現し、そこに出走することを「挑戦」として、挙句の果てには、勝つことを「悲願」とまで言うのを止めてほしい。

フランスはすでに斜陽国だ。日本もそうだから大きなことは言えないが、EUはいまやドイツ一国が支えているだけで、フランスなど見る影もない。ただ、彼らがしぶといのは、貴族の伝統文化の力で、アラブの富豪をたらし込み、なんとか競馬を続けていることだ。凱旋門賞のスポンサーはカタールであり、フランスも英国もアラブマネーがなければ、いまや牧場も調教師もやっていけない。

それなのに、日本までが、超一流馬を遠征させて、こんなお祭りに協力する必要なんてないだろう。

■こちらから行くのではなく、向こうから来てもらう

とくに、日本の競馬は国営・公営事業であり、国民のなかの競馬ファン、ギャンブルファンのマネー(税金)で成り立っている。かつて、JRAは海外遠征する馬に対して遠征費や優勝馬に奨励金を出していた。これがなくなったことはいいことだが、いまだにジャパンカップを招待レースにしているのだから信じ難い。

ここまで書いてきて、おまえはいったい何を言っているのだと、怒る方もいるだろう。真意がわからない方もいるだろう。

私が言いたいのは、カンタンだ。こちらから行くのではなく、向こうから来てもらう。欧州がアラブマネーを引き入れたように、世界から日本競馬にマネーを呼び込むべきだということだ。

そのためには、凱旋門賞みたいな二流レースを「世界最高峰のG1」なんていう信仰を捨てるべきなのだ。実際、凱旋門賞は、中山のG2ぐらいのレベルのローカル重賞だ。

■日本の独特の芝生が育んだスピード競馬

日本競馬は、かつて欧州競馬に追いつくために、多大な努力を重ねてきた。 

その一つが馬場の改良、芝の改良であり、いまや日本の競馬場は世界一だ。 

かつて日本の競馬場の芝生は、ほとんどが野芝だった。野芝は日本古来の芝で、暖かくなる5月ごろから成長を開始し、8月の一番暑い時期に最盛期を迎える。そして、秋が深まると枯れ始め、11月を過ぎると完全に冬枯れの状態になる。これは、欧州の洋芝が寒さに強く、ほぼ一年中青さを保っているのとはまったく違う。昔は暮れの中山は、ほとんど芝がはがれて土がむき出しになっていた。

そこで、JRAでは1981年の第1回ジャパンカップ以後、欧州の競馬場を手本にして、寒冷に強い洋芝を導入した。洋芝は最適の気温が16℃~24℃で、低温にはめっぽう強く、2~3℃あたりまで耐える。この特性を活かし、洋芝を野芝と混合させることで編み出された技術が「ウィンターオーバーシード法(WOS法)」である。これは、高温多湿に適応した野芝をベースに、寒冷に適した洋芝の種をまいて育成させるもの。この技術の完成により、現在、翌年の春まで青々とした芝を保持できるようになった。

このように独特の芝が張り巡らされたのが、現在の日本の競馬場である(ただし札幌、函館は寒冷地のため、年間をとおして洋芝を導入)。これが日本競馬をスピード競馬にし、ファンにとっても十分に楽しめるものにしてきた。

■2020東京五輪は競馬にとっても大チャンス

ところが、こうした芝で走っている馬を、なんの改良もせず、昔のままの馬場で走らせている欧州に遠征させるのだ。ゴルフもそうだが、なぜか彼らは自然に手を加えるのを嫌がる。多分、ちゃんと芝刈りをしたり、改良したりするのが面倒なのだろう。

その結果、凱旋門賞はいつも重い馬場になり、軽い芝のスピード競馬で勝ってきた日本最強馬ですら、芝に脚をとられて負けてしまう。これを「世界の壁」なんて書くメディアは、明治以来の「欧州コンプレックス」の固まりだ。

2020年東京オリンピックも決まった。その影響で、もしかしたら東京は経済特区になり、お台場にカジノができるかもしれない。となれば、競馬もここで大きく舵を切り、世界から富裕層マネーを呼び込むことを目指すべきだろう。

そうすれば、国内ファンだけで支えてきて、毎年落ちる一方の売上も回復するだろう。

■アラブマネー、チャイナマネーを巻き込め

すでにほとんどの重賞レースを国際レースにしたのだから、次はジャパンカッップ開催をカーニバル開催にし、G1を固めうちする。また、土日・祝日しか開催しないなんて馬鹿なことを一刻も早く止めたらどうだろうか。

TPPに参加したため、やがて競走馬にかけられる関税も撤廃確実のはずだ。ならば、日本競馬の完全グローバル化を目指すべきだ。

それから、アラブマネーはもとより、チャイナマネーも巻き込もう。中国は競馬、カジノが禁止されているから、マカオ、香港に行っているチャイナマネーは、東京にカジノと香港以上の競馬開催があれば、どっと押し寄せるだろう。

そのためには、凱旋門賞をジャパンカップのトライアルレースにすることだ。すでに、日本の競走馬の質、競馬場、馬産、調教などは、世界一に達しているのだから、いまこそ、チャンスだ。

こうなるためにも、今年こそ、オルフェーヴルに1番人気馬として勝ってもらいたい。もちろん、キズナでもいい。過去、フォワ賞を連覇した馬、サガス、アレフランスの2頭は、ともに凱旋門賞を勝っている。オルフェーヴルは、この2頭なんかより、はるかに強いはずだ。楽勝してほしい。

作家、ジャーナリスト

1952年横浜生まれ。1976年光文社入社。2002年『光文社 ペーパーバックス』を創刊し編集長。2010年からフリーランス。作家、ジャーナリストとして、主に国際政治・経済で、取材・執筆活動をしながら、出版プロデュースも手掛ける。主な著書は『出版大崩壊』『資産フライト』(ともに文春新書)『中国の夢は100年たっても実現しない』(PHP)『日本が2度勝っていた大東亜・太平洋戦争』(ヒカルランド)『日本人はなぜ世界での存在感を失っているのか』(ソフトバンク新書)『地方創生の罠』(青春新書)『永久属国論』(さくら舎)『コロナ敗戦後の世界』(MdN新書)。最新刊は『地球温暖化敗戦』(ベストブック )。

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