Yahoo!ニュース

豊島名人、苦戦を耐えて逆転勝ち 竜王戦七番勝負第1局2日目

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 広瀬章人竜王(32)が初防衛を果たすのか。それとも豊島将之名人(29)が初の竜王位を獲得するのか。東京都渋谷区・セルリアンタワー能楽堂でおこなわれた第32期竜王戦七番勝負第1局▲豊島名人-△広瀬竜王(32)戦は10月11日9時に始まり、12日19時55分に終了しました。結果は173手で豊島名人の勝ちとなりました。

 豊島名人は初の竜王位獲得に向けて、幸先のよい1勝をあげました。

 第2局は10月23日・24日、京都市の仁和寺でおこなわれます。

画像

豊島名人、充実の先勝

【前記事】

豊島名人の桂は泣いてしまうのか? 竜王戦七番勝負第1局2日目

 本局、先手番の豊島名人は得意の角換わり腰掛銀でのぞみました。しかし途中までは思わしくない展開だったようです。

「(歩頭に桂を打つ)▲2四桂が空振りしてしまった。王様を移動されて効果が薄くなってしまったので」

「冷静に指されて失敗してしまったような」

 豊島名人は局後にそう振り返っていました。

 豊島名人の気迫の桂打ちを軽くかわした広瀬竜王が、まずはリードを奪ったことは間違いないようです。

「封じ手のあたりでは、難しいんでしょうけれど、後手番としては主張のある展開」

 と広瀬竜王も控えめによさを表現していました。

 しかし2日目。豊島名人は粘り強く指して、差をつけさせません。

「攻めていったけれど、あまり成果が上がらなかった」

 と広瀬竜王。豊島名人は玉を中央に逃げ出して粘ります。そして間隙を縫って反撃の形を作りました。

 豊島名人が早い段階で打った桂は取られてしまいました。しかしその犠牲で歩が前に伸びて、さらにはと金を作って相手の金を取ることができました。こうした展開となれば、形勢はともかく、取られた桂の顔も立ったことになるでしょう。

 残り時間にはかなりの差がつき、先に時間が切迫したのは広瀬竜王の方でした。

 豊島名人は広瀬玉を左右はさみ打ちにする態勢を築きます。また自玉への寄せは巧みに手を稼いで遅らせました。広瀬竜王のリードは消え、勝敗不明の終盤戦に突入したようです。

 最終盤、広瀬竜王はリスクを承知の上で攻防手を指しました。しかしそれが結果的に敗着となったようです。ここで比較的時間に余裕のあった豊島名人は、腰を落として考えました。そして角を捨て、広瀬玉の寄せを目指して踏み込みました。そして受けなしに追い込みます。

 勝負は最後、豊島玉が詰むや詰まざるやの一点にしぼられました。

「最後はかなり危ないので、詰まされたら仕方がないと思っていました」

 局後に豊島名人はそう語っていました。広瀬竜王は終盤の名手であり、また詰将棋解答にかけては棋界屈指の速さを誇ります。

 広瀬竜王は手順を尽くして豊島玉を詰ませにいきました。まずは龍を捨てる、迫力ある王手から入ります。対して豊島名人は、一手でも対応を間違えれば、たちまちのうちに詰まされてしまいます。しかし秒読みの中、豊島名人は正確に応じ続けました。

 広瀬竜王の龍切りの王手から始まって22手。総手数は173手。観戦者にも豊島玉が詰まないとほぼわかるところまで進めて、広瀬竜王は投了しました。

 豊島名人は充実の先勝。初の竜王位獲得に向け、まずは大きな1勝をあげました。

 一方の広瀬竜王は、昨年は挑戦者の立場で、羽生竜王を相手に2連敗からのスタートでした。七番勝負はまだ先が長い。この先どうなるのかはもちろんまだ、誰にもわかりません。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

松本博文の最近の記事