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アマゾンが米政府を提訴した理由 国防総省のクラウド契約でトランプ氏の関与を疑う

小久保重信ニューズフロントLLPパートナー
トランプ大統領とエスパー国防長官(写真:ロイター/アフロ)

 米アマゾン・ドット・コムが米政府を提訴したと米ブルームバーグ米CNBCなどが昨年11月に大きく報じた。

トランプ大統領の動画を提出

 米国防総省は2019年10月にクラウドサービスの事業で米マイクロソフトと契約を結んだが、その業者選定過程に誤りがあったとアマゾンは主張しているという。

 訴状の内容は公開されていない。アマゾンのクラウド事業の機密情報や企業秘密、非公表の財務情報などが含まれていることなどから、公表しないように同社が裁判所に求めたからだという。

 ただし、アマゾンはトランプ大統領の発言が含まれた動画などを裁判所に提出している。このことから選定過程に大統領の関与による政治的な影響力が働いたと主張しているようだと、ブルームバーグは伝えている。

最大100億ドルのクラウド契約

 これは、「JEDI(Joint Enterprise Defense Infrastructure)」と呼ばれる国防総省のIT(情報技術)システム近代化計画に関するサービス契約だ。期間は、同省がオプション契約の全選択権を行使した場合で10年。契約額は最大で100億ドル(約1兆1000億円)になる。

 当初、米オラクルや米IBMなども入札に参加していたものの、19年4月にこれらの企業は選考対象から外れた。そして、候補に残ったアマゾンとマイクロソフトのうち、アマゾンが最有力視されていた。

 しかし、トランプ大統領は同7月18日、入札プロセスについて他のテクノロジー企業から苦情を受けたとして、契約の選考を精査すると発言。そして国防総省は、同7月23日に就任したばかりのマーク・エスパー国防長官が再調査を行っているとし、決定を保留した。

 ブルームバーグによると、トランプ大統領はこれまで、アマゾンが米郵政公社に支払っている業務委託料が安すぎると批判したり、ジェフ・ベゾス最高経営責任者(CEO)がオーナーであるワシントンポスト紙を口撃したりしてきた。

 国防総省とマイクロソフトの契約締結は、こうした経緯の後、同10月25日に発表された。今後マイクロソフトは、職員の業務と作戦任務を支える「IaaS(インフラストラクチャー・アズ・ア・サービス)」と「PaaS(プラットフォーム・アズ・ア・サービス)」を提供することになる。

アマゾンに勝ち目なし?

 しかし、アマゾンはこれに異を唱えている。米ウォール・ストリート・ジャーナルなどの米メディアによると、同社は同11月14日に出した声明で次のように主張した。

  • 評価過程の多くで明らかな不備や誤り、偏見があった。十分に調査し、是正することが重要だ
  • 政府とその選ばれた指導者たちが、政治的影響力を受けずに客観的に調達を実施することが、我が国にとって重要だと信じる

 ただ、国防総省とマイクロソフトの契約を覆すことは困難だろうとブルームバーグは伝えている。たとえ大統領がアマゾンに不利になるような発言を繰り返してきたとしても、国防総省がそれらを考慮したことを証明することは難しいという。

  • (このコラムは「JBpress」2019年11月26日号に掲載された記事をもとに、その後の最新情報を加えて再編集したものです)
ニューズフロントLLPパートナー

同時通訳者・翻訳者を経て1998年に日経BP社のウェブサイトで海外IT記事を執筆。2000年に株式会社ニューズフロント(現ニューズフロントLLP)を共同設立し、海外ニュース速報事業を統括。現在は同LLPパートナーとして活動し、日経クロステックの「US NEWSの裏を読む」やJBpress『IT最前線』で解説記事執筆中。連載にダイヤモンド社DCS『月刊アマゾン』もある。19〜20年には日経ビジネス電子版「シリコンバレー支局ダイジェスト」を担当。22年後半から、日経テックフォーサイトで学術機関の研究成果記事を担当。書籍は『ITビッグ4の描く未来』(日経BP社刊)など。

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