マスクを使用しない北欧で変化 デンマーク推奨で広まるか
北欧の今
北欧諸国では3月から新型コロナの感染が拡大し始めた。各国の政府は外出禁止令は出さないが、補償をしながら一部業界では営業停止を命じるなど、厳しい規制を次々と続行した。現在ではどの国でも第1波は抑えたといえる。
スウェーデンだけは世界でも注目を集める「集団免疫戦略」という独自の路線を貫いた。4~6月に続いていた感染者数と死亡者数の増加の波は7月に入ってからは減少傾向にあるため、「収束へ」という見方がされている。それでも犠牲となった命の数は北欧の中で突出している。
現在は数週間に及ぶ夏休み期間とあり、国境規制緩和によって各国を旅行する人が急増。この人の動きにより、8月中には第2波とみられるような事態が起きてもおかしくはない状況だ。
北欧諸国のコロナ患者数
- スウェーデン(人口1032万人)感染者数80422/死亡者数5743/人口100万人あたりの死亡者数 568
- デンマーク(人口582万人)感染者数13789/死亡者数615/人口100万人あたりの死亡者数 106
- フィンランド(人口552万人)感染者数7432/死亡者数329/人口100万人あたりの死亡者数 59
- ノルウェー(人口537万人)感染者数9208/死亡者数255 /人口100万人あたりの死亡者数 47
- アイスランド(人口36万人)感染者数1885/死亡者数10/人口100万人あたりの死亡者数 29
- 日本(人口1億2596万人)感染者数35836/死亡者数1011/人口100万人あたりの死亡者数 7
※人口は各国の統計局、数値はWHOを参考(2020/8/1時点)。 北欧諸国は人口が少ないので、コロナの話をするときはそこに注意しないと問題を見誤りやすい。感染者数の多さは検査数の多さにも関係しているので、死亡者数をどれだけ抑えられているかにより着目を。
今でもマスク姿の人が少ない北欧
北欧では未だにマスクをしている姿はとても少ない。
私がノルウェーの首都オスロの中心部を歩いたとしても、1日に10人も見かけることはない。
病院内でもマスクなし
7月初旬、私はオスロ大学病院で手術・入院をした。手術日の2日前にはPCR検査を受けた(義務)。福祉制度が充実しているため、手術費・医療費・PCR検査は全て無料で、私は1円も払っていない。
驚いたことに、病院でマスクをしている医療関係者や患者はひとりもいなかった。手術室だけでは医師たちがマスクをしていた。
病室では医師や看護師がすぐ目の前で私に話しかけてくるのだが、飛沫を気にしているようには見えなかった。
「院内でもマスクをしないなら、街でマスクをする人が増えるのはまだまだ先なのだろう」と思った。
マスクに懐疑的、他国の研究は参考にせず
マスクに懐疑的な目線がどうしても消えない北欧諸国。日本や他国でマスクの効果が証明されていたとしても、自分たちが信頼する自国の研究機関が調査してからではないと実行に移さないという姿勢は崩さずにいた。
フィンランドでは5月末に「マスクの効果はほぼない」という調査結果がフィンランド政府に提出された(フィンランド公共局)。しかしこの内容は改めて見直され、マスクには一定の効果があると先日発表されたばかり(公共局/7月31日)。
デンマークでは4月から6000人を対象に18万のマスクを使用して、マスクの効果を試す研究が病院の主導で行われる予定だった。しかし、医療従事者にマスクを100%用意できるかが確実ではないため、研究は延期されることになった(デンマーク公共局)。
デンマークの病院は2800人のデンマーク人を対象にマスク効果を試すプロジェクトを実施中。とはいえ調査結果がでるのは2021年4月予定で、「この調子だとノルウェーではまだまだマスクは先だ」と私は思っていた。
「市民がマスクの正しい使い方を知らないし……」
ノルウェーの政府や医療関係者がよく言っていたのは、効果が確認できる研究結果がないことに加え、「市民が正しくマスクを使用しなければ意味がない」ということだった。私はこれが不思議だった。
個人的な感想だが、「社会的距離や手洗いなどの感染防止対策の習慣はこの数か月で時間をかけてみんなで身につけてこられたのに、どうしてマスクに関しては『市民は正しく着用して習慣づけることができないだろう』と社会のトップの人たちは思い込んでいるのか。自国市民はそれほど賢くないと思っているのかな」。
公共交通機関で大声で話す国
ノルウェーの人たちは公共交通機関の中で大声で話す(家庭内のいざこざや仕事の重要な話が丸聞こえだ)。
しかしコロナ禍においても「大声で話すことによる空気中に放出される唾液の飛沫」についての情報周知はほとんどないままできた。
今でも電車などで人は大声で話すので、「うわぁ」と私の心の中でざわめきが起こることもある。
人口が少ないので、日本のような満員電車の状態にならないのが救いだ。
夏休み旅行でもマスク人口が増えたわけではなかった
北欧諸国は夏休みの人の移動のために各国の国境の出入りの規制を緩和した。だから感染率が低いと認定された国々からは観光客が来ている。
「ロックダウン後に、国境を越えて旅行にくるのだから、マスクをする人はさすがに多いだろう。北欧圏外の人たちはマスク意識が高いのだろう」と思ったら、オスロで見かける外国人観光客にマスクをしている人は予想以上に少ない。北欧旅行では安心してしまうのだろうか。
そのような感じなので、北欧でマスクはまだまだ先かなと改めて思っていたが、先週あたりからマスク関連の話題が増えている。もしかすると、年内には北欧でもマスク使用率がぐいっと高まるかもしれない。
北欧でマスクをし始めるとしたらデンマーク
もし、北欧諸国でマスクをし始めるとしたらデンマークだろうと私はずっと思っていた。
北欧諸国のニュースを3月からずっと比較しても、マスクを使ったほうがいいのか気にする記事が多いのはデンマークだった。
「北欧」といっても、言語と文化が似ているスカンジナヴィア3国(ノルウェー、デンマーク、スウェーデン)と他国は分けて考えたほうがいい。フィンランドとアイスランドは言語なども違うために、カルチャーも社会行動も異なる傾向がある。
集団免疫戦略をするスウェーデンは今回はあまりに独特すぎるために、周囲の国々はコロナ対策においてはスウェーデンの後追いはしていない。
そこでノルウェーはデンマークの対策を参考にしている傾向がある。アイスランドはもともとあまりに話題にならないのだが、デンマーク政府が発表する対策は数日後にノルウェーでも似たような形で実行される場合が目立つ。
アイスランドとデンマークがマスク義務・推奨へ
アイスランドでは7月31日から距離をとることが難しい場合の美容院や公共交通機関(首都のバスは除く)などでマスク着用が義務付けることになった(アイスランド公共局)。
デンマークでも同日、保健庁がマスク着用を推奨すると発表した。混雑した公共交通機関ではマスク着用が推奨される(義務ではない)。現地の薬局やスーパーではマスクを買おうとする人が殺到しているようだ(デンマーク公共局)。
デンマーク現地メディアは一生懸命に「マスクの正しい使い方」を伝えている。
ノルウェー「僕たちもマスク推奨したほうがいいのかなぁ」
で、私の住んでいるノルウェーではどうかというと、兄弟ともいえるデンマークがマスク推奨となって、もちろんざわめき始めている。
オスロ・メトロポリタン大学の学長は「教室でマスク使用を推奨したい」という意見を公にして大きな注目を浴びた(VG紙/7月30日)。
7月31日、デンマークとアイスランドが話題になる中、ノルウェー公衆保健研究所はマスク使用に関してはこれまでと変わらないと発表。
しかし「他者との距離をとることが難しい場合などにおいてはマスク推奨は今後あり得る」ともしている。そのために保健省にノルウェーでのマスク推奨を検討するように提案したそうだ。だがその回答がくるのは8月中旬になるとのこと(やはりどこかのんびりしている)。
8月に新しい段階へと入る北欧諸国
ノルウェーはフィヨルドなどの自然や絶景スポットを目的とする観光客が多い。すでに全国各地の観光地で感染者増加のニュースが出始めている。
8月は長い休暇が終わり、職場や学校に戻る人が増える。夏休みのんびりモードから気を引き締めないと、感染者が増えてもおかしくはない。
私はまだ一度もノルウェーの首相や閣僚がマスクをして自国で記者会見をしている光景を見たことがない。政府と市民の信頼関係が深い北欧諸国では、まずは政府がマスクを推奨しないと、市民はこれまでの行動を変えようとはしないだろう。
新しいノーマルの中でどう過ごしていくか、北欧諸国は次の段階へと入る。
Text: Asaki Abumi