米津玄師MV「Lemon」のダンサーにして映画作家の吉開菜央。話題の「赤いやつ」について語る
吉開菜央。その名になじみはないかもしれないが、あなたもきっと見たことがある!
これまでに7億再生回数を突破した米津玄師のMV「Lemon」で独特のダンスを披露し、鮮烈な印象を残すあの女性こそが吉開菜央。
彼女がダンサー、振付師、そして映画作家の顔をもつクリエイターであることは、昨年末に開催された「吉開菜央特集 Dancing Films 情動をおどる」のインタビュー(前編・後編)で伝えた。
それから約1年、「吉開ワールド」ともいうべき独自の映像表現の道をいく彼女が、今度は初の長編映画を完成させた。
しかも、写真家の石川直樹とタッグを組んだという。その映画「Shari」は、タイトルにもなっているが、北海道・知床半島の斜里(しゃり)町で撮影された。
新たに届けられた一作についてはインタビューを全四回(第一回・第二回・
今回は番外編として、劇中に登場し、メインビジュアルにもなっている「赤いやつ」のエピソードに特化した形の話を訊く。
イメージの出発点としては「肉」ですかね(笑)
まず作品で強烈な印象をの残し、ある場面においては子どもたちに恐れおののかれてしまう「赤いやつ」の衣装についてから。
これが実にユニークな造形をしているのだが、どんな姿かたちをイメージしていたのだろう?
「まず作品内に登場していただいているメーメーベーカリーの小和田さんと、なにか一緒に創作できないかなと考えていたんです。
そうしたら、小和田さんは編み物が趣味なことを知って、それで『赤いやつ』の衣装について相談するようになったんです。
そのメッセンジャーでのやりとりを最近まさに読み返したんですけど、わたし、肉の写真を撮って、『この肉のようなテクスチャーができないか、どうやったら編み物で、この肉のような感じのものが作れますかね』と聞いている(笑)。
だから、イメージの出発点としては『肉』ですかね(笑)」
「赤いやつ」の衣装ははワークショップで創作
こうして小和田さんの監修のもと、ワークショップ形式で事前に募集した20人ほどの町民とともに作られた。
町民にはどう説明したのだろうか?
「まず、以前もお話したこの映画のイメージとして作った紙芝居をみていただいて、『これに出てくる『赤いやつ』を作ります』と説明しました。
伝わるかなと思ったんですけど、みなさん『はー、何だ、これは!』みたいな感じでみながらも、『でも、分からんでもない』みたいな感じでおもしろがってくれて、それぞれにイメージを膨らませて取り組んでくださいました」
どのような工程で作り上げていったのだろうか?
「さきほどのやりとりから、小和田さんが『極太の羊毛があるから、それを腕編みしよう』と提案してくださって、その手法で作っていきました。
まず、胴体を作って、次に腕を作って、胴体に手と足を縫い合わせてみたいな感じで作っていきました。
ただ、予想完成図があるわけではなかったんです。だから、作っていく過程は手探りといいますか。
みんなで『ここはこんな感じでいいかな』とか話しながら、編み込んでいきました。
ほんとうにできるのかな?と不安だったんですけど、なんとなくみんなで『血』『肉』『内臓』みたいなものを想像しながら毛糸を織り込んでいったら、いい具合にうまくいって完成しましたね(笑)」
羊毛を鹿の生き血を混ぜて赤に染めた理由
その羊毛は鹿の血で染めた。その理由をこう明かす。
「全部がそうじゃないんですけど、一部、鹿の血も混じってる毛糸が織り込まれています。
夏にシナハン行ったときに、屠場に連れていっていただいていたので、できたら、羊毛を鹿の生き血を混ぜて赤に染めたいと思ったんです。
斜里の大地から『赤』をイメージしたので、その大地にある『赤』を取り込みたかった。
ただ、町の人に『なにこれ、よくわからない』って言われちゃわないか不安だったんですけど、意外とみなさんのりのりで『おもしろそう』といってくださって実現しました」
その衣装を身にまとい、吉開は「赤いやつ」を演じた。
「こんな大変な役、誰にもお願いできないなと思って、もうわたしがやるしかないと思って自分で演じることになりました。
見た目はかなり重厚にみえるんですけど、それほど重くはないです。
ただ、羊毛なので雪がついて水を含むとけっこう重くなって、大変でしたね」
「Shari」
監督・出演:吉開菜央
撮影:石川直樹
出演:斜里町の人々、海、山、氷、赤いやつ
助監督:渡辺直樹
音楽:松本一哉
音響:北田雅也
アニメーション:幸洋子
配給・宣伝:ミラクルヴォイス
全国順次公開中
公式サイト:www.shari-movie.com
場面写真及びポスタービジュアルは(C)2020 吉開菜央 photo by Naoki Ishikawa