「更年期」になったら辞めるしかない? 症状を訴える女性の1割が退職する現実
5月26日、個人加盟労組・総合サポートユニオンなどが、更年期症状に起因する不本意な退職、いわゆる「更年期離職」に関して厚生労働省に署名を提出し、記者会見を開いた。
「更年期離職」をめぐっては、今月初めに、厚生労働省がその実態調査に乗り出すことを発表するなど、この間、注目が集まっている。本記事では、「更年期離職」の深刻な実態と、これが問題化した経緯、そして求められる対策・政策について紹介していきたい。
一人の女性の「告発」が社会を動かすキッカケに
「更年期離職」の実態が初めてマスメディアで報じられたのは、昨春のことだ。コールセンター大手のKDDIエボルバで働くAさんが、更年期症状に伴う体調不良での出勤率の低下を理由に、昨年4月末で雇い止めされたことがNHKのWeb記事で報じられた。
まず「更年期離職」を初めて社会に告発したAさんの事例をみていくことにしよう。Aさんは、2018年6月にコールセンターのオペレーター業務を担う3ヶ月更新の契約社員としてKDDIエボルバに入社した。
その後、10回近く契約を更新して仕事を続けてきたが、2020年8月頃から、ひどい頭痛に加え、めまいや吐き気が続き、「更年期障害」と診断されたという。月に2日ほどの欠勤が続いたところ、2020年12月末の契約更新の面談で、上司から「出勤率を9割以上に改善できなければ次の契約更新はない」と言われた。
その後も体調は回復せず、出勤率9割を満たすことができずに迎えた2021年3月末の更新面談で、上司から次の契約更新をしない旨を告げられ、4月末で雇い止めされている。
そこで、Aさんは、労働組合・総合サポートユニオンを通じて、勤務先のKDDIエボルバに対し、雇い止めの撤回を求めて団体交渉を申し入れた。
総合サポートユニオンには、Aさんからの相談を機に、「更年期離職」に関する相談が複数寄せられことから、これらは氷山の一角だと考え、他団体とも連携して調査を実施することにしたという。
「更年期離職」の実態調査と署名キャンペーン
2021年5月、総合サポートユニオンは、若者の労働問題に取り組むNPO法人POSSEや、「生理の貧困」の改善を訴える団体である#みんなの生理とともに、更年期症状を抱えている女性労働者285人を対象にオンライン調査を実施した。
調査の結果、「更年期の症状のために、仕事で悩みを抱えたり労働問題に遭ったりしたことのある人の割合は37%であり、3人に1人が職場での悩みや労働問題を抱えている」こと、「更年期の症状が原因で会社を休んだことがある人(113人)のうち、会社を休んだことを理由に不利益な取り扱いを受けたことがある人の割合は29%」にものぼることが明らかになった。
また、NPO法人POSSEがNHKなどと共同で実施した「更年期と仕事に関する調査2021」(更年期症状を抱える40~59歳の女性労働者4,296人を対象)では、「更年期症状が出ている時期に仕事を休むのを我慢したことがある人は約75%に及ぶ」こと、「更年期症状を経験する女性の約1割が退職に追い込まれている(更年期離職)」ことなどが明らかになった。
同調査からは、更年期症状を抱える女性労働者が「有給休暇や生理休暇を使いやすい職場環境の整備」(43.6%)や「更年期症状で休んだ時の収入保証」(41.6%)、「更年期症状で休んでも不利益な取扱い(解雇や嫌がらせなど)を受けない支援」(37.6%)、「更年期症状の時に使える休暇制度の新設・拡充」(37.3%)を求めており、「更年期離職」を防ぐためには安心して休める制度・環境の整備が必要とされていることが見えてきた。
こうした調査結果を受けて、総合サポートユニオン、POSSE、#みんなの生理の3団体のメンバーは、「更年期の体調不良等で仕事を休んだことなどに対する不利益取り扱いを禁止する」よう求めるオンライン署名キャンペーンを行った。
署名キャンペーン立ち上げから3ヶ月弱で2,131筆の署名が集まり、5月26日、厚生労働省へ署名を提出し、記者会見が開かれたのであった。
「更年期離職」に抗議するストライキの実施
これだけ深刻な広がりを持つ更年期障害に伴う労働問題だが、日本社会ではまだまだ認知が行き届いていない。労働相談の現場では、企業側の受け止めも不十分であり、今後の改善が急務であると感じる。
冒頭で紹介したAさんは、総合サポートユニオンを通じて勤務先のKDDIエボルバに対し雇い止めの撤回を申し入れていた。だが、1年以上が経過した現在も雇い止めは撤回されていないという。
総合サポートユニオンのnote によれば、KDDIエボルバは「更年期障害だけを特別扱いはできない、他の病気と『平等』に扱う」と主張し、「法律上(解雇は)問題ない」との見解を示しているそうだ。
こうした会社側の対応については、Aさんだけでなく、Aさんの同僚たちの間でも反発が広がっているという。5月26日には、Aさんに対する雇い止めの撤回と更年期の体調不良での欠勤等を理由とする不利益取り扱いをやめることを求めて、Aさんの同僚の女性労働者2人が終日ストライキを行っている。
また、同じ日に、Aさんや同僚女性二人が所属する労働組合・総合サポートユニオンは、KDDIエボルバや親会社のKDDIに対して、抗議のアクションも実施している。
労働力不足や女性の社会進出が叫ばれる中で、更年期症状への対応は必要不可欠である。今回の調査結果や署名の集まりを受けて、企業側が更年期障害を多くの女性にとって重大な問題であることを認識するとともに、労働者の就労継続を図るために、政労使が協力して取り組んでいくべきだ。
「更年期離職」に関する労働相談やイベントも
最後に、更年期症状を抱えながら働く女性などに向けて、「更年期離職」に関する相談窓口を紹介したい。
というのも、上述の調査結果によれば、「更年期症状が原因で、勤め先から不利益な扱いを受けた、あるいは職場で嫌な思いをしたと回答した人のうち、「誰にも相談しなかった」という人が60.8%」にものぼり、労働問題の専門機関に相談できた人は2%にも満たないことが明らかになっているからだ。
総合サポートユニオンなどは、5月26日~6月1日にかけて、「更年期症状・生理に関する労働相談ウィーク」を開催しており、メール(gsu.seiri.konenki@gmail.com)またはLINE(アカウント名:更年期症状・生理に関する労働相談ウィーク、ID:@558odyex)で相談を受け付けている。
また、6月19日(日)には、オンラインイベント『ジェンダーから労働・貧困を考える~「生理の貧困」と「更年期離職」の現場から~』 を企画しているそうだ。こちらは、労働問題を女性の身体やジェンダーの視点から考えることに関心のあるすべての人に開かれたイベントだという。
「更年期離職」は、現在更年期を迎えている女性だけでなく、すべての女性、さらには男性にも関係してくる「社会問題」である。ぜひ、この機に、関心を向けてみてもらいたい。
常設の無料労働相談窓口
03-6699-9359
soudan@npoposse.jp
*筆者が代表を務めるNPO法人。訓練を受けたスタッフが法律や専門機関の「使い方」をサポートします。
03-6804-7650
info@sougou-u.jp
*個別の労働事件に対応している労働組合。労働組合法上の権利を用いることで紛争解決に当たっています。
022-796-3894(平日17時~21時 土日祝13時~17時 水曜日定休)
sendai@sougou-u.jp
*仙台圏の労働問題に取り組んでいる個人加盟労働組合です。