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ウィシュマさん死亡の反省無し、入管は存在してはいけない組織―法令・人命軽視、差別助長、自浄能力の欠如

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
ウィシュマさん(写真中央)

 このところ、出入国在留管理庁(入管)の動きが活発だ。メディアに対する情報のリークやブリーフィングなどが行われているのは、一部報道でも報じられているように、次の通常国会での入管法改定案(実体は「改正」とは言い難く、むしろ「改悪」案であったので、本稿では改定案と表記する)の再提出を目論んでいるからだろう。入管法改定案は今年始め、国会に提出されたものの、名古屋入管に収容中であったスリランカ人女性ウィシュマ・サンダマリさんが著しい健康状態の悪化にもかかわらず、適切な医療を受けられないまま死亡したことで、入管への批判が高まり、政府与党は入管法改定案の国会会期中の成立を断念したという経緯がある。そもそも次の国会で審議されるべきは、入管自体を根本から作り変えることだろう。過去20年余りに渡り国内外の勧告にもかかわらず改善されず、憲法や国際人権規約、DV防止法、被収容者処遇規則...etc.と言った法令やそれに準じる規則よりも、差別主義を優先し、人権侵害を何度でも繰り返し、人命まで奪うような行政機関は存在してはいけない。まずは、一度、入管を解体し、野党提案にあるような組織に作り変える。それこそが、次の国会で審議されるべきことなのだ。

注:本記事は有料記事であるが、公益性を重視し、全体の半分ほどを無料公開している。

○ウィシュマさんを死なせた差別意識

 先に配信した記事で書いたように、入管は今月21日に報道関係者向けの資料を発表し、記者達に対するブリーフィングも行なった。その内容は、難民その他の帰国できない事情を抱える外国人達に、「送還忌避者」というレッテルを貼り、かつ「送還忌避者は危険で排除すべき存在」と、実際の統計を歪めてのネガティブ・キャンペーンであった。

 ウィシュマさんを死なせてしまった最大の要因は、「送還忌避者は危険で排除すべき存在」なので、「死んでもいい存在」という入管の差別意識ではないのか。無論、入管は建前では、「死んでもいい存在」というようなことは主張していない。だが、ウィシュマさんが今年2月15日の尿検査で「飢餓・脱水」状態にあることを、看護師が職員達に周知させていたにもかかわらず、名古屋入管はウィシュマさんに適切な医療を受けさせず、入院のための仮放免よりも、送還させることを優先していた。

ウィシュマさんが、飢餓・脱水状態にあったことは、入管側の検査で明らかに 入管の調査報告書から
ウィシュマさんが、飢餓・脱水状態にあったことは、入管側の検査で明らかに 入管の調査報告書から

 既に健康状態が悪化していたウィシュマさんの一度目の仮放免申請を不許可にした理由は、「仮放免を許可すれば、ますます送還困難となる」「一度、仮放免を不許可にして立場を理解させ、強く帰国説得する必要あり」というのものだったことが、入管のウィシュマさん死亡の調査報告書にも書かれており*、肉体的・精神的に追い詰め、送還に導く手段、言い換えれば拷問として長期収容を利用していたことがうかがえる。拷問とは、身体的・精神的な苦痛を与えることにより、本人の意志を曲げ、拷問する側が望む言動をさせることであり、ウィシュマさんに対する名古屋入管の仮放免不許可処分は、正に拷問そのものであり、「公務員による拷問及び残虐な刑罰は、絶対にこれを禁ずる」とする日本国憲法第36条に反したものだと言えよう。

*同報告書には、名古屋入管がウィシュマさんを詐病扱いしていたこと、「外部医療機関 での診療の結果特段異常はなし」という認識であったことが明らかにされている。しかし、

その診療とは、胃カメラによる検査等で、内科診療としては不十分であったことは、その後、2月15日の尿検査で「飢餓・脱水」状態にあることが判明したことからも明らかだ。

 上述の入管の報道発表資料は、ウィシュマさんを死なせてしまったことへの反省が入管にないことをうかがわせるものであった。同資料では「仮放免の問題」として、以下のように書かれている。

「中には、自らの健康状態の悪化を理由とする仮放免の許可を受けることを目的として、拒食に及ぶという問題も生じている」

 近年、仮放免が許可され難くなり、2年以上の長期収容が常態化している中で、最後の抵抗としてハンガーストライキを行なう被収容者達がいたことは事実であるが、そもそも、他の先進国の国々と異なり、日本の入管法では、収容期間の上限が無く、仮放免の可否を迅速に司法機関が判断する仕組みも無い、という問題がある。この点は、国連人権理事会の恣意的拘束作業部会や、国連特別報告者達からも「国際人権規約に反する」と指摘されていることであるが、上述の入管発表資料では、触れられていない。

 また、ウィシュマさんがそうだったように、拒食が自らの意志によるハンガーストライキではなく、収容中の健康状態の悪化が原因であるケースもあることを見逃すべきではない。正に「自らの健康状態の悪化を理由とする仮放免の許可を受けることを目的として、拒食に及ぶ」との発想を名古屋入管が持っていたからこそ、健康状態の悪化したウィシュマさんに対し適切な対応をしなかったのだろう。それにもかかわらず、拒食をあくまでも被収容者側の問題とする、入管の発表資料は、ウィシュマさんを死なせてしまったことへの反省が微塵もないものだと言えよう。

○難民へのヘイトスピーチ

 一事が万事で、入管の発表資料は、廃案となった入管法改定案を復活させるため、つまり、難民認定申請者の送還禁止の例外を設けることや、送還を拒むことへ

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フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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