NASAが出資した無限エンジン「マッハ効果スラスター」その開発状況と実現性に迫る!(後編)
前回の記事では無限に加速を続けられる「マッハ効果スラスター」の原理をご紹介しました。本記事では、カリフォルニア州立大学のジェームズ・ウッドワード教授が、NASAから研究資金を得て進めているマッハ効果スラスターの開発状況をご説明します。
■ピエゾ素子の振動を利用し推進力を生み出す!?
ウッドワード教授の推進システムの中は、円板状のピエゾ素子を積層したものです。積み重ねた結晶はわずかな量のエネルギーを保持しているため、電流を流すと毎秒数万回振動します。この振動の中で、質量が軽いときにはディスクを引っ張り、重いときに押し出すことで、小型のドライヴが少しづつ前に進むという原理です。
ウッドワード教授の試験では 30K~35KHzの周期でピエゾ結晶を振動させることで推進力を得ることに成功し、 100mN程度の推進力を生み出すことができたそうです。
■アメリカ軍もマッハ効果スラスターの研究を開始!?
初期フェーズでのこの研究結果はNASAを十分に満足させることができ、現在はフェーズ2のテストを実施中です。開発が続けられているマッハ効果スラスターは、一辺が6センチの小さな立方体とのことです。宇宙船の外部に必要な数だけこのスラスターを取り付けることで、推進力を得ることができます。
また、アメリカ軍の調査研究所もこのスラスターの実験結果の並行検証を始めているとのことです。NASAも資金を提供しているということは、マッハ効果スラスターは決してSFの世界のエンジンではなく、本当に将来に実現する可能性が十分あり期待できますね。
■マッハ効果スラスターはロケットではなく宇宙船で使用される?
ちなみにこのマッハ効果スラスターは、通常のロケットのように速やかな加速を行うことは難しいという前提があります。そのためウッドワード教授は、まずは宇宙船での利用を考えています。宇宙船が太陽電池や原子力電池により発電を続けられる限り、ピエゾ結晶による小さな加速を半永久的に持続できることとなります。宇宙船は長期間をかけて徐々に速度を上げ、宇宙空間を猛スピードで進んでいくことになるでしょう。
このマッハ効果スラスターは太陽系内だけでなく、星間飛行を可能にする技術とも言われており、実現すれば宇宙科学における大発明となります。また、エンジンに電気を利用するのは高い運用効率が得られますし、同時に宇宙船の寿命を伸ばすこともできます。今後の研究の進捗が楽しみですね。
しかしながら、ウッドワード教授はマッハ効果スラスターについて、多くの研究者から「ナンセンス」や、「無理ではないか」との言葉をかけられたとのことです。そんな中でも、人生の大半をつぎ込み研究を続けてきました。このマッハ効果スラスターが宇宙船規模にスケールアップするには、更なる技術革新や粘り強さが必要になるかもしれませんが、是非成功させて欲しいですね。
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