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組体操 先生のケガ相次ぐ ▽組体操リスク(11)

内田良名古屋大学大学院教育発達科学研究科・教授
(写真:アフロ)

■落ちてきた生徒がぶつかり入院

秋の運動会シーズン本番である。全国の複数の自治体が巨大組体操に規制をかけるなか、今年もまた多くの学校で巨大組体操へのチャレンジが続いている。

これまで組体操では、子どものケガの多さや深刻さが問題視されてきた。しかしながら調べを進めていくと、教師もしばしば負傷事故に遭っているということが明らかになってきた。

たとえば、かつて10段ピラミッドを完成させて一躍有名になった兵庫県内の公立A中学校では、昨年の9月に11段ピラミッドを練習中に、教師が事故に遭った。ピラミッドが崩れた際に生徒が上から落ちてきて、教師にぶつかったのである。教師は頭部に傷を負い、入院を余儀なくされたという朝日新聞)。

■「上から子どもが降ってくる」

巨大ピラミッドでは子どもが上から「降ってくる」
巨大ピラミッドでは子どもが上から「降ってくる」

巨大組体操を推進してきた関西体育授業研究会の言葉を借りるならば、巨大化した組体操で起きるのは、「上から児童が降ってくる」という事態である関西体育授業研究会「Improve」No. 59)。会の視線は子どものみに向けられているが、当然ながら、「降ってくる」子どもが、教師にぶつかることもある。

今日の組体操では、巨大なピラミッドやタワーを維持する代わりに、その周囲に教師を配置するというのが、定番の安全対策になっている。そこでの教師の役割とは、上から「降ってくる」子どもを、受け止めることである。

しかしながら、拙著『教育という病―子どもと先生を苦しめる「教育リスク」』において指摘したように、はたして教師にそんなことがうまくできるのであろうか。チアリーディング部で鍛えているならともかくも、教師はまったくの、ど素人である。その上、そもそも高所から「降ってくる」エネルギー自体が大きすぎる。

■福岡県では毎年発生

5段タワーの例(『教育という病』第1章「巨大化する組体操」より)
5段タワーの例(『教育という病』第1章「巨大化する組体操」より)

福岡県の地方公務員における公務災害の資料には、「飛来・落下」による災害として、組体操時の教師のケガに対して注意喚起がなされている。資料によると、「組体操の練習中に落下してきた児童・生徒と接触して負傷した事案が毎年発生」しているという。

そして、「重傷事案」として、次の事例が紹介されている。

運動会の種目である組体操の5段タワーの練習を補助していたところ、タワーが崩れ、児童が足の上に落下して負傷(骨折、全治2ヶ月)

出典:地方公務員災害補償基金福岡県支部「STOP公務災害・過重労働」

またその他にも、本部の地方公務員災害補償基金の資料(教育職員の公務災害防止対策に関する調査研究報告書)には、「組体操の指導をしていたところ、児童が組体操から崩れ転倒し、児童のかかとが顔面に当たり、負傷した」という事故が報告されている。

■自分をクッションに・・・

福岡県で毎年発生しているということは、全国各地で教師の側の負傷事故が発生していると考えられる。私の知り合いにも、全治半年の重傷を負った教師がいるくらいだ。

重傷の場合にはこうして公務災害の事例として把握される可能性が高いが、しかし公務災害の申請は手続きが煩雑であるため、手続きを経ない泣き寝入りの事例もあると推察される。

巨大組体操にはあまり乗り気ではなかったある教師は、「自分は子どもを上手に受け止める自信はなかったけれど、せめて自分が下敷きになってクッション代わりになろうと、公務災害を覚悟で臨んでいた」と教えてくれた。

ピラミッドやタワーの周りに教師を配置しても、子どものケガが起きるのはもちろんのこと、教師までもがケガをしてしまう。巨大組体操は、子どもにとっても教師にとっても、危険なものである。そこまでして巨大なものにこだわる正当な理由は、もはやどこにもない。

名古屋大学大学院教育発達科学研究科・教授

学校リスク(校則、スポーツ傷害、組み体操事故、体罰、自殺、2分の1成人式、教員の部活動負担・長時間労働など)の事例やデータを収集し、隠れた実態を明らかにすべく、研究をおこなっています。また啓発活動として、教員研修等の場において直接に情報を提供しています。専門は教育社会学。博士(教育学)。ヤフーオーサーアワード2015受賞。消費者庁消費者安全調査委員会専門委員。著書に『ブラック部活動』(東洋館出版社)、『教育という病』(光文社新書)、『学校ハラスメント』(朝日新聞出版)など。■依頼等のご連絡はこちら:dada(at)dadala.net

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