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【NHL】18歳で戦力外。無名選手ばかりのマイナーリーグから這い上がり、史上初の3階級制覇を達成!

加藤じろうフリーランススポーツアナウンサー、ライター、放送作家
3階級制覇を達成したジェイ・ビーグル(Photo:Jiro Kato)

 ベガス ゴールデンナイツとのスタンレーカップ ファイナル(SCF)を4勝1敗で制して、今季のチャンピオンに輝いたワシントン キャピタルズの選手たちが、ラスベガスから空路ワシントンD.C.の郊外(バージニア州)にあるダレス国際空港に到着。

 創設44季目での初優勝とあって、数多くのファンが空港へ詰め掛けたのに加え、テレビのニュースでも生中継されました。

▼CAPSフィーバーが続く

 既に当サイトで紹介したとおり、SCFの戦いが続いている間、ワシントンD.C.は大熱狂!

 地元に戻ってからも、多くの取材を受ける予定なのはもちろん、今日(現地時間)は、ナショナルズパークで行われる MLBのワシントン ナショナルズ戦に、全選手とコーチが招かれ、コンスマイス トロフィー(プレーオフMVP)に輝いたキャプテンの アレックス・オベチキン(FW・32歳)が始球式に臨みます。 

 さらに、12日には優勝パレードを行うなど、オフシーズンに入っても、CAPS(=キャピタルズの愛称)フィーバーが続きそうです。

▼DFよりもゴールが少ないFW

 しかし、多くの注目が集まるワシントンの中にも、あまりスポットライトを浴びることがない選手もいます。

 その一人が、ジェイ・ビーグル(FW・32才/タイトル写真)です。

 熱心なワシントンファン以外は、名前を聞いても思い当たらない方が多いでしょうが、それもそのはずで、前述したオベチキンのように、チームに次々と得点をもたらすような選手ではありません。

 今季のプレーオフでも、23試合に出場しながら、FWだと言うのにゴールは2つだけ。

 レギュラーシーズン(全82試合)に至っては、79試合も出場したにもかかわらず7得点に終わり、二桁得点を記録したDFのドミトリー・オーロフ(26歳)よりも少ない数字です。

▼18歳の時に戦力外通告

 カナダ西部のカルガリー(アルバータ州)で生まれたビーグルは、ホッケーの盛んな土地柄とあって、小さい頃からスティックを握り、パックを追い掛けていました。

 そんなビーグルが、最初に「挫折」を味わったのは、18歳の時。

 地元にあるWHL(ウエスタンホッケーリーグ=トップレベルの北米ジュニアリーグの一つ)のカルガリー ヒットメン(多くのNHL選手を輩出し、最大規模のテディベアトスを毎年開催しているチーム)のトライアウトを受けたものの「戦力外」だと通告されたのです。

「戦力外通告をされたあと、その部屋を出ていく時のことを忘れることはないだろう」

 ビーグルは当時の気持ちを打ち明けました。

 「18歳で戦力外通告」

 大きな夢を抱いて努力し続けてきた少年には、残酷とも言えるほどの言葉を聞いたビーグルを、部屋の外で待っていた父親と祖父が迎えてくれたそうです。

▼決定的な瞬間

 その後、ビーグルはヒットメンの下部チームであるカルガリー ロイヤルズ(既に解散)で、プレーをする決断を下しました。

 しかしロイヤルズは、ヒットメンと違って、同じアルバータ州内のチームだけのリーグに加盟しているとあって、お世辞にも高いレベルだとは言えません。

 それにもかかわらず、ビーグルがロイヤルズを選んだのは、部屋の外で待っていた父親と祖父が口にした、こんな一言があったからだそうです。

「これからも(ホッケーを)続けていったらどうだ?」

 ビーグルは、その言葉を耳にした時のことを、こう振り返りました。

「ボクの人生の中で、そしてホッケーキャリアの中で、決定的な瞬間だった」

▼カルガリーからアラスカへ

 ビーグルは19歳の時に、アンカレッジにあるアラスカ大学に進学。

 同校のアイスホッケーチーム(シーウルフ)を、新たなステージに選びました。

 とはいえ、同校からはNHL選手が誕生するどころか、1990年代前半まで、NCAAの傘下に所属していなかったとあって、お世辞にも高いレベルのチームとは言えません。

 名前を知られていない、文字どおり”無名選手”ばかりが揃う環境へ身を投じました。

 「まだプロになれる力がなかった自分には、ベストの選択だった」と自らを冷静に見定めたビーグルは、2年ほど腕を磨き続けてから、プロ転向を決意したのです。

▼史上初の3階級制覇!

 ビーグルが最初に契約したのはECHL(NHLから数えて二つ下のリーグに相当)のアイダホ スティールヘッド

 レギュラーシーズン終盤に契約を結んだビーグルは、フィジカルプレーを武器にチームの勝利に貢献し、プロに転向してから約3ヵ月で、いきなり優勝!

 さらに、翌年にはECHLの一つ上のリーグに相当するAHLのハーシー ベアーズの一員に。

 初年度こそ美酒を味わえませんでしたが、翌年、翌々年と2連覇を達成!

 そして、ワシントンのレギュラーの座を不動なものとして迎えた今季のSCFで、見事にNHLのチャンピオンに!

 史上初めてとなる「北米のプロホッケーリーグ3階級制覇!」を成し遂げました!!

▼最大の魅力は献身的なプレー

 史上初の快挙達成と言っても、前述したようにビーグルは、決して得点力に長けたプレーヤーではありません。

 ビーグルの最大の魅力は、何と言っても下の動画で見られるような献身的なプレー!(白#83)

 加えて(FWながら)守りでの働きや、ペナルティキリング(ペナルティによる退場者が出て、相手チームより氷上のプレーヤーが少ない状況)に加え、自陣でのフェイスオフ(ラインズマンが落とすパックをスティックを使って奪い合うプレー)など、勝負の分かれ目になりそうな局面。

 そして逃げ切りを図る試合の終盤では、ワシントンをチャンピオンに導いたバリー・トロツヘッドコーチ(HC・55歳)が、オベチキンを起用しないことはあっても、ビーグルは必ず起用し続けていました。

▼トロツHCの悩みは・・・

 余談になりますが、ビーグルの年俸(サラリーキャップヒット額)は、オベチキンのおよそ1/5弱。

 ビーグルは今季をもって契約が満了し、(制限なし)フリーエージェントの資格を手にすることから、トロツHCはビーグルとの再契約交渉がまとまるか否か、きっと気をもんでいるに違いないはず。

 無名選手ばかりのマイナーリーグから這い上がり、史上初の3階級制覇を達成した選手のオフの動向が注目されます。

 

フリーランススポーツアナウンサー、ライター、放送作家

アイスホッケーをメインに、野球、バスケットボールなど、国内外のスポーツ20競技以上の実況を、20年以上にわたって務めるフリーランスアナウンサー。なかでもアイスホッケーやパラアイスホッケー(アイススレッジホッケー)では、公式大会のオフィシャルアナウンサーも担当。また、NHL全チームのホームゲームに足を運んで、取材をした経歴を誇る。ライターとしても、1998年から日本リーグ、アジアリーグの公式プログラムに寄稿するなど、アイスホッケーの魅力を伝え続ける。人呼んで、氷上の格闘技の「語りべ」 

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