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【テディベアトス】アイスホッケーの試合中に、スタンドのファンからテディベアが飛んでくる!

加藤じろうフリーランススポーツアナウンサー、ライター、放送作家
AHLハーシーベアーズのテディベアトス(Photo:Jiro Kato)

クリスマスが近づくにつれて、一年で最も街が華やぐ季節を迎えました。

アイスホッケーシーズンも、まさにたけなわとあって、NHLをはじめとする北米の各リーグの試合には、多くのファンが観戦に訪れています。

そんなアイスホッケーファンたちが、毎年心待ちにしているイベントが、各地のアリーナで行われているを、ご存知でしたか?

そのイベントとは、「テディベアトス」です!

▼カナダ西部のジュニアチームが発祥

北米を中心に、近年ではヨーロッパやオーストラリアなどでも行われているテディベアトスは、カナダ西部のブリティッシュコロンビア州をホームタウンとする、ジュニアチームのカムループス ブレイザーズが始めたイベントでした。

「病気で入院していたり、身寄りのない子供たちにも、クリスマスを楽しんで欲しい!」との思いから、マーケティングディレクターを務めていたドン・ラーソンが、テディベアのプレゼントを思いつき、1993年に初めて開催したのです。

▼テディベアトスって何?

そうは言っても、ただテディベアをプレゼントするのではなく、ラーソンはホームゲームのイベントとして企画を練り上げました。それは、、、

テディベアトスを開催する試合の日時を事前に発表。

観戦するファンにテディベア(または、ぬいぐるみ)を持ち寄ってもらう。

カムループスの最初のゴールが決まった直後にリンクへ投げ入れる !!

と言うものでした。

▼北米アイスホッケーチームの恒例イベントに

カムループスから始まったテディベアトスは、多くのファンやメディアが話題にしたこともあって、「ウチでもやろう!」と続いたチームが次々に現れました。

なかでも最大の規模を誇るのは、カムループスと同じジュニアリーグ(WHL)に加盟するカルガリー ヒットメン

1988年冬季オリンピックの会場となったスコシアバンクサドルドームを、NHLのカルガリーフレイムスとともにホームアリーナとしているチームで、ライアン・ゲツラフ(現アナハイムダックス)や、アンドリュー・ラッド(現ニューヨークアイランダーズ)ら、NHLでキャプテンを担うほどの選手たちを育て上げました。

代名詞にもなっているテディベアトスを開催する試合には、毎年冠スポンサーが付き、スタンドには2万人近くのファンが詰め掛ける、文字どおりの一大イベントです。

例年より早い11月末に開催した影響もあったようで、昨年のテディベアトスゲームで樹立した世界記録(ギネスワールドレコードに認定)の「28815個」には届きませんでしたが、主力DFのマイケル・ジップが最初のゴールを決めた直後に、「23924個」ものテディベアがスタンドから投げ込まれました!(ちなみに、この試合の観衆は17601人)

▼テディベアの片づけはホームチームの選手の仕事

ところで、上の動画でご覧いただいたとおり、テディベアを片づけるのは選手の仕事です。

と言っても、ビジターチームの選手は「オレたちには関係ないよ!」と、ドレッシングルームに戻ってしまうため、ホームチーム(下記の写真はAHLのハーシーベアーズ)の選手をメインに、、、

(Teddy Bear Toss Game at Giant Center/Photo:Jiro Kato)
(Teddy Bear Toss Game at Giant Center/Photo:Jiro Kato)

レフェリーやラインズマンも加わって、、、

(Teddy Bear Toss Game at Giant Center/Photo: Jiro Kato)
(Teddy Bear Toss Game at Giant Center/Photo: Jiro Kato)

とんでもなく大きなテディベアを投げ込むファンもいるので、、、

子供も含めたボランティアスタッフが、総出で片づけをします。

(Teddy Bear Toss Game at Giant Center/Photo: Jiro Kato)
(Teddy Bear Toss Game at Giant Center/Photo: Jiro Kato)

最も多い数のテディベアが投げ込まれるカルガリーは、前述のとおりスポンサーがついていることから、予め用意した透明の袋にテディベアを入れてからファンが投げ込みます。

さらに加えて、数多くのボランティアスタッフを募っているので、手際よく片づけが進みますが、それでも20分~25分程度。テディベアの数が少ない他のチームでも、同じくらいの時間をかけて片づけ作業が続きます。

このような中断時間が避けられないことから、ほぼ全試合がテレビとラジオが生中継されるNHLでは、テディベアトスは行われません。

▼最大の魅力は最初のゴールを待つワクワク感 !!

テディベアトスの最大の魅力は、何と言っても、、、

「最初のゴールが決まる瞬間を待つワクワク感 !!」

これが全てだと断言しても間違いありません。

筆者もあえてメディア申請をしないで、チケットを購入してスタンドで観戦したことがありますが、試合開始前から既に「ホームチームの最初のゴールは、いつ決まるだろう !?」というワクワク感が、スタンドに漂っています。

そして試合が始まり、ホームチームがスコアリングチャンスを迎えると、手に持っているテディベアを握りしめ、「ゴールが決まるぞ!」と立ち上がって投げる準備をするファンの姿が、あちらこちらに!

しかし、ゴールが決まらなかった時には、ため息交じりの声が周囲から聞こえてきます。

なかには「オレがイの一番にテディベアを投げ入れるぞ!」と意気込み過ぎてしまい、思わずフライングをしてしまう人も・・・(苦笑)

と、ここまでならば苦笑いで済みますけれど、過去にはNHLの二つ下のリーグに相当するECHLの試合で、最初のゴールが決まった!とテディベアを投げ込んだところ、、、

レフェリーが協議してプレーを確認した末、「ノーゴール」に。

2分21秒に場内にノーゴールがコールされています)

「オレの投げ込んだテディベアを返せー!」と叫んだファンも、きっと少なくなかったはずですね。。。

▼テディベアトスはアイスホッケーのためのイベント !!

紹介したような “珍事“ もありますが、テディベアトスのワクワク感は、他では味わえません。

たとえば(一部で開催しているところもありますが)バスケットボールの試合では、アッという間に最初のゴールが決まってしまい、ワクワク感を楽しめませんし、逆にサッカーやアメフトでは、フィールドが広く観客席からの距離が遠いので、スタンドから投げ込んでもテディベアが届かないのは必至・・・。

このようにして見ると、テディベアトスは、まさしくアイスホッケーの試合のためのイベントなのです!

▼チャリティイベントの理念は不変

カルガリーの選手たちは、試合の翌日に、ファンがスタンドから投げ込んだテディベアを携えて、市内の子供病院へ。

16歳から20歳までの選手たちが揃うジュニアチームですが、23年前に初めてテディベアトスが開催された時の理念は、しっかり今でも受け継がれているようです。

カルガリーに続いて、今週末(現地時間10日)には、同じくWHLに加盟するエドモントン オイルキングスが、テディベアトスゲームを開催。

とは言え、さすがに今から観戦に行くのは難しいでしょうから、来年のホリデイシーズンには、テディベアを握りしめ、「ホームチームの最初のゴールが、いつ決まるだろう !?」と、ワクワクしながらアイスホッケーを観戦できるホンモノの「テディベアトスゲーム」に足を運んでみては、いかがでしょう?

スポーツファンの方でしたら、お金と時間をかけて行くだけの価値がありますよ !!

フリーランススポーツアナウンサー、ライター、放送作家

アイスホッケーをメインに、野球、バスケットボールなど、国内外のスポーツ20競技以上の実況を、20年以上にわたって務めるフリーランスアナウンサー。なかでもアイスホッケーやパラアイスホッケー(アイススレッジホッケー)では、公式大会のオフィシャルアナウンサーも担当。また、NHL全チームのホームゲームに足を運んで、取材をした経歴を誇る。ライターとしても、1998年から日本リーグ、アジアリーグの公式プログラムに寄稿するなど、アイスホッケーの魅力を伝え続ける。人呼んで、氷上の格闘技の「語りべ」 

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