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ビジャレアルで引き継がれる9番の系譜。紡がれる「イエローサブマリン」の序章。

森田泰史スポーツライター
ビエットはビジャレアルでブレイクしてアトレティコに引き抜かれた(写真:ロイター/アフロ)

ドタバタ劇を演じた昨年とは違い、今年は穏やかな夏が訪れた。ビジャレアルにとって、大きな挑戦が幕を開ける。

昨年の夏はシーズン開幕直前にマルセリーノ・ガルシア・トラル監督(現バレンシア)が電撃退任。後任探しに追われ、数日後に何とかフラン・エスクリバ監督と合意に至ったものの、新たな指揮官にチームを構築する時間的猶予はほとんど与えられていなかった。

それに比べれば、この夏は静かだった。マテオ・ムサッキオ(ミラン)、ジョナタン・ドス・サントス(ロサンゼルス・ギャラクシー)ら主力選手の移籍はあったが、その資金を元手に補強を敢行する強かささえ見せている。

■ストライカーの系譜

トルコの至宝エネス・ウナル、スペインの注目株パブロ・フォルナスら若い選手を加えたビジャレアルは、それだけに留まらなかった。スポルティング・リスボンからルベン・セメド、ミランからカルロス・バッカを獲得して経験豊富な選手もチームの一員としている。

何より、カルロス・バッカの加入はビジャレアルファンの期待を膨れ上がらせている。ビジャレアルでは、「背番号9」の系譜が受け継がれてきたからだ。

ディエゴ・フォルラン、マルティン・パレルモ、ジュゼッペ・ロッシ、ルシアーノ・ビエット...。波に乗れなかったパレルモ(在籍3年間・21得点)を除き、フォルラン(3年間・59得点)、ロッシ(6年間・82得点)、ビエット(1年間・20得点)はビジャレアルで名声を高めた。

フェネルバフチェに移籍したロベルト・ソルダードの代役として加入したバッカだが、その得点能力は折り紙付きだ。欧州挑戦を決めた2011年以降、ベルギーのクラブ・ブルッヘで31得点、セビージャで49得点、ミランで34得点を記録している。

■1923年のクラブ創設以降、無冠が続く

ビジャレアルは、1923年のクラブ創設以来、無冠が続いている。1998年に初めて1部昇格を達成したクラブは、1999年と2012年に2度2部降格の憂き目に遭ったが、いずれも1年で1部復帰を果たした。

ハイライトはマヌエル・ペジェグリーニ監督(現河北華夏)が率いた2004年から2009年だ。特に2005-06シーズンには、チャンピオンズリーグで快進撃を続け、ベスト4に進んで欧州中を驚かせた。

あの時、フアン・ロマン・リケルメのPKが決まっていれば。準決勝アーセナル戦でのリケルメのPK失敗は、今でもファンの間で語り草となっている。

■心臓ブルーノ、イニエスタの後継者トリゲロス

「イエローサブマリン」の愛称で親しまれるビジャレアルだが、それは4部に属していた1967年当時、ビートルズの名曲「イエローサブマリン」を試合前に流し始めたことに由来している。

そのビジャレアルで、チームの心臓として機能しているのがブルーノ・ソリアーノだ。ビジャレアルでこれまで公式戦281試合に出場しているブルーノは、クラブ史上最多出場選手として記録を更新中だ。05年10月1日のマジョルカ戦でトップデビューを飾って以降、代わる代わる訪れた指揮官の下で、常に中核を担ってきた。

そして、中盤でブルーノの参謀役として振る舞うマヌ・トリゲロス。昨季はシュートレンジを広げ、キャリアハイの5得点をマークした。成長著しい25歳のカンテラーノは、そのプレースタイルからもスペインでバルセロナのアンドレス・イニエスタに最も近い選手だといわれている。

ブルーノ、トリゲロスを中心とした中盤の構成力はビジャレアルの大きな強みだ。そして今夏は、バッカという強力なストライカーが加わった。悲願の初タイトル獲得も、決して夢物語ではない。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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