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金与正副部長の5か月ぶりの「米国批判談話」 北朝鮮の対抗カードは何か?

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
金正恩総書記の妹、金与正党副部長(朝鮮中央テレビから)

 金正恩(キム・ジョンウン)総書記の妹、金与正(キム・ヨジョン)党副部長が昨日、久しぶりに談話を発表し、米軍が釜山の港に原子力潜水艦を入港させたことを皮肉たっぷりに批判していた。

 金副部長の談話は7月14日に韓国の脱北団体の対北批判ビラ風船を批判する談話を出して以来、実に70日ぶりである。

 この間、韓国の脱北団体が運営するユーチューブ放送や北朝鮮批判媒体などが李雪主(リ・ソルジュ)夫人や秘書の玄松月(ヒョン・ソンウォル)党副部長との確執を伝え、金副部長の「失脚説」を盛んに流していたが、昨日の談話で健在であることが確認された。

 金副部長は今年に限って言えば、計12回談話を出しているが、内訳は脱北団体によるビラ関連で4回、日朝関連で3回、南北関連で2回、ロシア関連で2回、そして残り1回が4月24日の「盗人猛々しい無理押しは我々に通じない」と題した米国批判談話だった。

 米国が米核戦略爆撃機「B52H」や米原子力空母「セオドア・ルーズベルト」など戦略資産を朝鮮半島に投入し、情勢を極度に悪化させていると批判していた。従って、金副部長の対米批判談話は5カ月ぶりとなる。

 金副部長は「釜山港に現れた異常物体:米国の戦略資産は朝鮮半島地域で自分の安息所を見いだすことができないだろう」と題した今回の談話で金総書記の直属独立情報機関である航空宇宙偵察所が「23日10時3分10秒」に米原子力潜水艦が釜山港に入港したことを「捕捉していた」と述べていた。長崎に20日に入港していた米原子力潜水艦「バーモント」が23日午前に釜山に入港したことは秘密でも非公開でもなく、韓国でもニュースになっていた。

 北朝鮮が航空宇宙偵察所の存在を明らかにし、わざわざ入港時間を「10時3分10秒」と秒単位で事細かく伝えたのは、韓国発の情報に基づくのではなく、航空宇宙偵察所が管轄する偵察衛星によってキャッチしていることを強調したいようだ。韓国は北朝鮮の偵察衛星について「ぐるぐる回っているだけで偵察衛星としてはほとんど機能していない」(申源湜前国防部長官)と、全く相手にしていなかったからである。

 金副部長はさらに「米原子力潜水艦の釜山入港は米海兵らには休息、米国の手先には慰安になるかも知れないが、米国が相手にしている超強力の実体(北朝鮮)の前では決して恐怖の対象になれない」として「韓国の全ての港と軍事基地が安全な所ではないという事実を引き続き知らせるようにするであろうと何らかの対抗措置を取ることを示唆していた。

 しかし、北朝鮮に直ぐに切れる対抗カードが果たしてあるのだろうか?

 金副部長が4月に米国に警告を発した時は、その後何の動きもなかった。ミサイルの発射があったのは談話があってから約3週間後だった。それも短距離弾道ミサイルを数発発射しただけだった。それと、5月31日に初の偵察衛星を打ち上げたぐらいだ。

 従って、予想される対抗措置は釜山港を射程に収めた短距離弾道ミサイルや巡航ミサイル、もしくは今年3基打ち上げると公言していた軍事偵察衛星の発射ぐらいであろう。

 北朝鮮は軍事偵察衛星については「年内に3基打ち上げる」目標を掲げたものの5月27日に発射し、失敗に終わっている。

 軍事偵察衛星を初めて打ち上げた昨年も5月31日、8月24日と2度失敗した後、3か月後の11月21日に3度目の正直で成功させていたが今年は1基目の失敗からすでに約4か月経過しているので時期的にはそろそろ打ち上げても不思議ではない。

 来月(10月)は韓国が敵対国であることを憲法に明記する最高人民会議が7日にあり、10日が労働党創建日である。そのタイミングでやるとすれば、来月早々にも打ち上げの予告があるかもしれない。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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