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完璧な人=大谷選手を批判しようとしない日本のメディア 米ロサンゼルス・タイムズ紙が指摘

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 ロサンゼルス・ドジャースのお膝元で発行されているアメリカの有力紙ロサンゼルス・タイムズが、日本のメディアが大谷翔平選手をどのように報じているかについて紹介している。「Japanese treat Shohei Ohtani gambling scandal like ‘presidential election.’ Media take his side(日本人は大谷翔平の賭博スキャンダルを大統領選のように扱っている。メディアは彼の味方をしている)」と題された記事では、日本で、「完璧な人」と捉えられている大谷選手を批判しようとしない日本のメディアの姿が浮き彫りにされており、興味深い。

大谷選手の批判に消極的

 同紙は、日本では違法な賭け事が昔から活発に行われているにもかかわらず、ギャンブルに対して文化的な嫌悪感があることから、「国民的英雄の大谷翔平選手と元通訳の水原一平氏の賭博スキャンダルは、日本の国民を震撼させた」と日本がこのスキャンダルで大きなショックを受けているとし、日本の記者の話として「読者たちは、二刀流スターの球場での活動を日々詳細に報じることを求めており、これまでのところ、答えよりも疑問がより多く生じている複雑な賭博スキャンダルの次の展開をソワソワしながら、しばしば、ビクビクしながら待っている」という日本の人々のこのスキャンダルに対する反応を紹介している。

 また、10年で7億ドルの契約を結んだ大谷選手について「日本のメディアは大谷選手を批判することに消極的であり、最悪のシナリオを推測することにはなお消極的である」とし、「米国とは違い、大谷選手に疑問を投げかける報道はほとんどない」「大谷選手は水原氏に騙された被害者とみなされており、大谷選手の責任を問う声は少ない」など日本の記者の声を伝えている。

大谷選手は「完璧な人」

 大谷選手は日本では「完璧な人」と見なされていることにも言及。

「日本では、大谷選手は野球の才能があるだけではなく、謙虚で、野球に献身的で、礼儀正しいと捉えられており、“完璧な人”の象徴となっている」

 そんな大谷選手とは対照的に「水原氏は都合の良い悪役になった」としつつ、「水原氏は大谷選手のニュアンスを汲み取るのが上手く、感心していた」と水原氏の通訳としての能力を評価する日本の記者の声や、大谷選手より先に球場に到着し、大谷選手が球場から出るまで球場に留まることが求められている記者たちが、水原氏に、毎日、大谷選手が試合や練習の後、いつスタジアムを出るのか聞いていたことにも触れている。

出入り禁止にはなりたくない

 大谷選手やMLBの日本人選手に対する、日本のメディアの気遣いぶりにも、アメリカのメディアは違和感を覚えたようだ。

「大谷選手やMLBの他の日本人選手を取材する日本人記者は、選手の私生活についてほとんど質問しない」とし、「私たちは毎日彼と一緒に仕事をしなければならないし、間違ったことをして出入り禁止にはなりたくないので、彼(大谷選手)の希望に沿った仕事をしたいと思っている」という記者の声を紹介している。

 全体的に、記事からは、大谷選手番の日本の記者たちが、大谷選手について疑問を抱くような見方をする記事を書くことが憚られる様子が伝わってくる。

ホステス・クラブで日本人大リーガーに遭遇したことも

 もっとも、その様子は、1990年代半ばと変わりがないようにも思われる。筆者は、当時、ドジャースで活躍していた野茂英雄投手を某週刊誌で取材するため、日々、ドジャース球場に通っていた時期があるが、そこには、野茂投手のことを過度に気を遣う日本の記者たちの姿があった。試合が終わると、様々なメディアの番記者たちがだんごになって何か話し合っているので、何をしているのだろうと思ったが、彼らは野茂投手のパフォーマンスに関して見誤りがないか、“合わせ”なるものを行い、確かめ合っていた。それだけ、間違いがあってはならないとピリピリしていたのだろうが、その光景は、自分の視点から自由に書いているアメリカの記者たちと比べると、筆者の目には異様に映った。

 番記者たちによる日本人大リーガーに対する報道が控え目であることは昔のことからではあるものの、当時はまだ、彼らのアメリカでの私生活は週刊誌などでは、暴かれていた。筆者も、当時、某週刊誌からの依頼で、彼らが時々訪れていた現地の日本人ホステス・クラブに潜入取材し、そこで、ある日本人大リーガーに遭遇したことがある。ホステス・クラブで寛ぐことは、当時の日本人大リーガーたちにとっては、試合や練習の後のお楽しみの一つだったようだ。

米大リーグはアンタッチャブルな聖域?

 しかし、時代は平成から令和へと変わり、様相は変わった。例えば、大谷選手や山本選手が現地の日本人ホステス・クラブに行くことなど、誰が想像できるだろうか? 今の日本人大リーガーたちは、平成期の日本人大リーガーたちとは異なる立ち位置にいる印象を受ける。彼らをカバーする日本の番記者たちにとっても、完璧な人=大谷選手が輝いているアメリカ大リーグの世界は、平成期よりも深く踏み込むことがより難しくなった、アンタッチャブルな聖域になってしまったのではないか。しかし、そんな聖域をよそ目に、アメリカのメディアは、これからも調査を続け、忌憚のない見解を示し続けることだろう。

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在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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