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バルベルデ戦術の「犠牲者」スアレスに灯る希望の光。バルサで新たなCF像を描けるか。

森田泰史スポーツライター
アトレティコ戦では得点を記録(写真:ロイター/アフロ)

今季無敗を維持しているバルセロナだが、懸念材料がないわけではない。エルネスト・バルベルデ監督の敷く戦術において、「犠牲」となる選手が出てきてしまっているのだ。

バルベルデ監督就任後、常に話題に上ったのは良くも悪くもネイマール(現パリ・サンジェルマン)だった。契約解除金として支払われた2億2200万ユーロ(約286億円)は、測り知れない影響力を持ち、理事会は一時退陣に追い込まれる寸前になるほどの混乱に陥った。

そして何より、バルセロニスタを不安に駆らせたのが、リオネル・メッシ、ルイス・スアレス、ネイマールの「MSN」の解体である。2014-15シーズンから3トップを組んできた「MSN」は3季連続で年間100得点超えを記録して、その破壊力で欧州を席巻した。

■スアレス不調の原因とは

「MSN」は形成されたわずか3年の間に364得点を記録した。そのうち、メッシとスアレスが記録したのは274得点だった。

スアレスは今季、スペイン・スーパーカップ第2戦のレアル・マドリー戦で負傷した。その後、クラブと選手は保存療法を選択し、早期回復で周囲を驚かせたが、現時点でもトップコンディションには戻っていない。加えて、バルベルデ監督の戦術がスアレスの「枷」となっている。

バルベルデ監督はメッシを中心にチーム作りを進めている。シーズンが開幕した8月13日からノンストップで稼働するメッシは公式戦14試合で全試合フル出場(出場時間1260分)。これは開幕から10試合連続フル出場した2014-15シーズンを超えて、キャリア最高の数字である。

そのメッシは、ここまで公式戦で15得点をマーク。メッシが得点時どこから現れたかを見ると、左サイド(11,86%)、中央(50,79%)、右サイド(37,35%)と圧倒的に中央のゾーンが多い。加えて、90%以上の得点はペナルティーエリア内で生み出されている。

バルベルデ監督はメッシとスアレスを前線に置く4-4-2を積極的に使用している。2トップでは、スアレスはメッシの動きを見ながら、右に、左にポジションを移さなければいけない。

4-3-3が採用された際、3トップでは主に左WGに配置される。そこでは、「偽ウィング」の左SBジョルディ・アルバが前線に走り込む瞬間、絶妙なタイミングでスペースを空ける必要がある。オフ・ザ・ボール時のスアレスの徒労はルイス・エンリケ政権下の比ではない。

現に、スアレスは今季11試合に出場して3得点しか決められていないのだ。

■アトレティコ戦のプレーがヒントに

リーガ第8節アトレティコ・マドリー戦(1-1)でバルベルデ監督は後半に新たな策を打った。

アンドレス・イニエスタとネルソン・セメドを下げてジェラール・デウロフェウ、セルジ・ロベルトを投入。一挙2枚代えでフレッシュな選手を右サイドに投入して、60分間「不毛な地」となっていた同サイドを一気に活性化させた。

加えて、残り10分でイバン・ラキティッチに代えてパウリーニョを投入。2列目の飛び出しだ。セルジとデウロフェウの存在が幅を、パウリーニョの存在が深みを担保した。

縦と横に揺さぶりを掛け、徐々にアトレティコの両CBのスアレスへの注意力が散漫になる。

そして82分、セルジのクロスにスアレスがヘディングを叩く。ステファン・サビッチの背後、フアンフラン・トーレスのカバーが届かない位置に陣取り、スアレスは鬱憤を晴らすかのようにヘディングを叩いた。アトレティコの本拠地ワンダ・メトロポリターノでのリーガ史上初の得点者となった。

第9節マラガ戦(2-0)ではまたも無得点に終わり、交代時に明らかに不満げな顔を見せていたスアレスだが、アトレティコ戦が今後の試金石となるはずだ。幅と深み。2列目の飛び出し。チームメートの助けを得て、バルセロナの背番号9は得点感覚を取り戻さなければいけない。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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