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新世代をも魅了する「パワーレンジャー」 。最新映画の観客評価は「A」

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
新しい「パワーレンジャー」の主役に抜擢された5人

昔ながらのヒーローたちは、まだ 古くない。先週末、北米で公開されたリブート版「パワーレンジャー」が、そう証明した。

北米オープニング興収は、 4,000万ドル。公開2週目にしてまだ化け物的な人気を誇る「美女と野獣」に次ぐ2位だったが、予測されていた3,000万ドル を大きく上回った。

さらに、観客受けが、とび抜けて良いのだ。シネマスコア社の調査によると、この週末に見た観客の評価は「A」。しかも、18歳未満の子供の30%は、最高評価の「A+」を与えている。アメリカのテレビで「パワーレンジャー」が放映されたのは、1993年から95年にかけてのこと。当時、番組を見て育った世代がノスタルジアを感じて見に行くことは想定されていたが、このヒーローたちは、新しい世代の心もがっちりとつかんだということだ。

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テレビ版「パワーレンジャー」は、日本の「スーパー戦隊」シリーズを編集し直し、主人公たちをアメリカ人にして放映したもの。日本出張中、ホテルの部屋で偶然この番組に出会ったハイム・サバンは、すぐにアメリカでの放映権を買い、売り込んだのだが、まるで相手にされなかった。90年代になり、後発の フォックスチャンネルのエクゼクティブがようやくやろうと言ってくれるも、局としては反対で、製作予算はサバン自身が出すことになる。変身してからはどうせ顔が見えないこともあり、 闘いのシーンは日本のものをそのまま使うことで経費を節約した。

第一話が放映されるやいなや、番組は大ヒット。関連商品の売り上げは年間10億ドルにも達し、番組は世界各国で放映される。 95年と98年には、映画版も公開された。だが、この番組のルーツが日本にあることを知らない人は、当時も今も多い。

それから約20年を経て公開されたこのリブート版は、予算も1億ドルと大がかりで、最新のCGが駆使されている。しかし、新しいのは見た目だけではない。主人公5人が、 2017年の世の中にふさわしい形で描かれているのだ。

男女比は男3、女2。人種構成は、白人ふたり、黒人、ヒスパニック、アジア系がそれぞれひとり。 イエロー・レンジャーは、レズビアンかもしれないことを匂わせる。ハリウッド映画における人種の偏りや男女不平等、LGBTキャラクターの少なさが批判される中、このキャスティングは、まさに優等生だ。5人の役者はほぼ無名で、典型的なアイドルタイプのルックスでもない。それもまた、素直にこれらのキャラクターを信じさせる手助けとなっている。彼らが直面する問題もリアルだ。イエロー・レンジャーことトリニーが自分の性的志向に迷いを感じる中、ピンク・レンジャーことキンバリーはSNSが原因でいざこざに巻き込まれ、レッド・レンジャーことジェイソンはスポーツチームの花形だったのにすっかり落ちぶれてしまっている。一方、中国系のブラック・レンジャーことザックが、家の中で 母と中国語で会話をするシーンが出てきたりもする。

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そんな5人が本当にお互いを知り、心をつなげていく様子を描くのが、この映画だ。それができるまで変身がかなわなかった彼らがやっとパワーレンジャーになり、悪と戦うのは、映画が十分後半に入ってから。南アフリカで子供時代「パワーレンジャー」を見て育ったというディーン・イズラライト監督は、変身を成長のメタファーとしてとらえている。今作を「スタンド・バイ・ミー」「ブレックファスト・クラブ」のような映画と並ぶものと考える彼は、筆者とのインタビューで、「ティーンエイジャーは、プレッシャーがあって辛いんだよ。それが、物語の軸。成長物語は、いつの時代にも通じる。いつだって、世界では子供が成長しているんだから」と語っている。

変身を覚えたレンジャーたちは、続編でもっと暴れまわるだろう。実際、映画は次に続く雰囲気をたっぷり持たせて終わっている。もちろん次ができるかどうかは、今作の成績次第。1億ドルの予算で北米公開初週末の数字が4,000万ドルというのは、堅調と言っていい。観客評価がAということで口コミ効果が期待され、北米だけで1億ドルには到達するとも思われる。あとは、ほかの国々でどこまで受け入れられるかだ。日本生まれのヒーローたちは、これからまた伝説の続きを作っていくことになるだろうか。

日本公開は7月15日。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「シュプール」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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